第207話 黒のギリエルⅢ
――場面は移り変わり、ミミズさん達の居る場所では――
「はぁぁっ!」
魔鳥王の前蹴りが黒装束の魔人の胴部に命中、そのまま吹き飛ばされ木に激突した!
黒装束は地面に倒れるが、直ぐに起き上がり、魔鳥王の元へと歩いて行く。
「……魔人王様万歳魔人王様万歳魔人王様万歳」
「魔人王様万歳魔人王様万歳」
「魔人王様万歳魔人王様万歳魔人王様万歳魔人王様万歳」
黒装束達は同じ言葉を繰り返し発するのみで、そこには異様な不気味さを感じさせる。
「精神を支配されているわけではない、本気で言っている……なんと哀れな」
「魔人王様万歳ィィィッ!」
黒装束の一人が両手にナイフを持ち、魔鳥王に突っ込んでくる!
「……ですが、魔人王復活を目的とする者に、一切の容赦はしません!」
魔鳥王は地面を蹴り上げて跳躍、黒装束の頭を右足で掴み、右側にいる黒装束向かってぶん投げた!
「「「魔人王様万歳魔人王様万歳!」」」
黒装束達が魔鳥王を囲み、一斉にナイフを投擲!
「万全の状態でも無く、念力が使えなくとも……」
魔鳥王は翼を広げ上空へと飛翔、ナイフを回避する。
「貴様等の相手など、この身一つで十分!」
そのまま一気に急降下し、足の爪で黒装束達の喉元を掻っ切った!
黒装束達は喉から血が吹き出し、次々と倒れていく。
「……魔人王様、万歳」
「魔人王様万歳魔人王様万歳」
だが、血を流しながらも黒装束達は立ち上がり、魔鳥王に向かってくる。
「くっ……魔植王、そちらは大丈夫ですか?」
『ええ、今の所なんとか対処は出来ています』
魔植王はミミズさんとバノンを守りながら、周囲の地面から無数の木の根が飛びださせ、鞭のようにしならせて黒装束を叩き飛ばしている。
しかし、無数の木の根を掻い潜り、一体の黒装束が魔植王の懐に入ってしまう。
「魔人王様万歳魔人王様万歳魔人王様万歳」
「ぬおおおお!? こっちに来たぁっ!?」
「ち、畜生! 俺がやるしか……!」
黒装束がナイフで斬りかかる!
バノンは避けられず、右腕部を斬られ、血が噴き出す!
「痛ぅっ!? ……この野郎!」
バノンは左の拳で黒装束の顔面をぶん殴る!
攻撃を受けた黒装束は後ろに数歩後退するが、あまり効いておらず直ぐにバノンに向かって斬りかかる!
「うわあああああっ!?」
バノンが悲鳴を上げたその時、魔植王の木の根が黒装束に巻き付き、そのまま締め上げた!
「ま、魔人王様、万ざ、い」
黒装束は全身がぐしゃぐしゃに折れ曲がり、口から大量の血を吐き出して地面に倒れた。
『申し訳ありません、敵の数が多いうえに小型なので取りこぼしが出てしまいました……《治癒の蔦》』
魔植王から一本の蔦が伸び、バノンの右腕に触れると、徐々に右腕の切り傷が治って行った。
「あ、ありがとうございます……しかし、情けねぇな……ヤタイズナ達と一緒に居て感覚が色々と麻痺しちまってたが、やっぱり俺は助けられただけのただのドワーフって事か……」
「こんな時に何落ち込んどるんじゃ! だいたいお前が戦いに関して役立たずなのはいつもの事じゃろう!」
「そんなハッキリ言う事はねぇだろ!」
『バノン、貴方にこれを』
ミミズさんとバノンが言い争う中、魔植王は身体の枝を一本、バット状に変形させ、それを根っこで折り取ってバノンへと渡した。
『私の一部から作った棍棒です、また取り漏らす事があるかもしれませんので、護身用に使ってください』
「こいつは有りがたい……ありがとうございます!」
「おい! そんな事言ってたら早速また一体来たぞぉっ!?」
「魔人王様万歳魔人王様万歳!」
「こいつを……喰らいやがれぇ!」
バノンが棍棒を構え、黒装束目掛けて振りかぶった!
黒装束が両手でナイフを構えて棍棒を受け止めようとするが、棍棒に当たったナイフは砕け散り、そのまま棍棒が黒装束の顔面に直撃する!
黒装束は顔面がへこみ、吹き飛ばされた後地面に落下し、身体を痙攣させている。
「す、凄ぇ……これならイケる!」
『その調子でよろしくお願いしますね』
「ふぅ……とりあえずはこれで大丈夫そうじゃのう……しかし」
ミミズさんは森の先を見つめた。
「あの方角から儂の気配を感じる、レイド大雪原で感じたあのザハク以上のモノを……それにこの胸騒ぎ……ヤタイズナ……」
「――ぐあああああああああああっっ!?」
ギリエルの前脚攻撃によって地面に叩き落とされた私は、何とか起き上がり上空のギリエルを見据える。
炎の角・鎧によるダメージはゼロか……よし、身体はまだ動く……っ!? 来る!
上空のギリエルが私目掛けて一気に急降下する!
私は横に跳び、ギリエルの急降下突進を回避、ギリエルはそのまま地面に激突し、周囲に土煙が舞う!
「くっ……!」
土煙で視界を奪われ、周囲を警戒する中、前方からギリエルの右前脚が襲い掛かる!
回避しようとしたが間に合わず、ギリエルの攻撃で私の右中脚が千切れ飛んだ!
「ぐあああああああああ!?」
私が叫び声を上げる中、続いて左前脚が私目掛けて振り下ろされる!
「くそぉっ! 《斬撃》!」
左前脚目掛けて斬撃を放ち、その一瞬で回避、翅を広げてギリエルから離れる。
斬撃が左前脚に直撃はしたが、ギリエルは未だに無傷であった。
「はぁっ……はぁっ……」
攻撃が何一つ効かない……恐らく炎の角と炎の角・槍も通用しないだろう。
ギリエルはこの戦いの中スキルを一切使用していない、こちらはほとんどのスキルを使用していると言うのに……!
こうなったらもう、超突進しかない……!
超突進と炎の角の合体攻撃なら奴にも効くはず……だがあのスキルを使えば私は戦闘不能になってしまう……だから一撃で奴を仕留めなければ!
私が考える中、ギリエルが翅を広げ、木々を薙ぎ倒しながらこちらに向かってくる。
「くぅっ……!」
私は森の中を進み、ギリエルから逃げる。
しかし、ただ逃げている訳ではない、奴をある場所におびき出しているのだ。
数十メートル森の中を進む中、私は徐々にギリエルに距離を詰められていく。
……よし、今だ!
私は着地し、角で地面に突き刺さっているモノを掘りだした。
そう、昆虫の卵をだ!
逃げていると見せかけ、奴を昆虫の卵の場所まで誘導していたのだ。
「もう一度……喰らえぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
私はギリエル目掛けて再度昆虫の卵を打ちだした!
「さらに、《炎の角》、《斬撃》、《操炎》、《超突進》!」
私は炎の分裂斬撃を撃ち放つと同時に、身体が光り輝き、猛スピードでギリエル目掛けて突進する!
持ちうるスキル総て組み合わせたこの攻撃、受けてみろぉぉぉぉっ!!
「!」
向かってくる昆虫の卵に気付いたギリエルは咄嗟に翅を閉じ着地、先程と同じく角で昆虫の卵を受け流し、昆虫の卵は後方へ飛んでいく。
受け流されるのは想定内だ!
昆虫の卵の後に無数の炎の分裂斬撃でギリエルの複眼部に集中攻撃する。
ダメージはほとんど入っていないだろうが……炎の分裂斬撃は目くらまし、見えなければ超突進を受け流せまい!
私は身体を回転させながら、一気に突き進む!
全身全霊の一撃を……喰らえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!
「――《蛮勇(ヘラクレス)の角(ホーン)》」
「がはぁっっ!?」
その言葉と共にギリエルの角が金色(こんじき)に輝き、一瞬で私を地面に叩き落とした!
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