第205話 黒のギリエルⅠ

――ヤタイズナ達の居る地点から左側の森。


(――《癒しの鈴音》)


 ガタク達はベルとレギオン達と合流し、ベルの癒しの鈴音でバロムの右足を治療していた。


(これで大丈夫です)

「バロム殿、どうで御座るか?」

「……うん、問題ない、これでまた戦えるよ」

「良かったで御座る、では拙者達は殿の元に向かう、ベルとレギオン達は引き続き火事を食い止めるで御座るよ」

(了解です)

(我等に任せるであります!)

『『ギチチチチィィィィィ!!』』


 ガタクがバロムを乗せ、翅を広げ空を飛ぼうとしたその時、ガタク達の後方から一本の光線が飛んできた!


「! ガタク、どきや!」

「っ!?」


 ゴールデンがガタクの前に飛び出し、背部の前翅で光線を受けた!

 すると、光線はゴールデの身体を貫通せず、飛んできた方向へと跳ね返された!


 跳ね返された光線は茂みの中で何かに命中、地面に落ちる音が聞こえた後、サッカーボール程の大きさの水晶玉が茂みから転がり出て来た。


「ゴールデン殿、助かったで御座る」

「別に礼なんてええって」

「あれは、まさか……!」

「ふふふふふ……属性反射ですかぁ、珍しいスキルを持ってますねぇ」


 茂みの中から、青い鎧の魔人が現れた。


「その声、何処かで聞き覚えが……」

「やはりお前だったか、ブロスト!」


 バロムが剣を構えると、六色魔将、青のブロストは愉快そうに笑う。


「ふふふ……バロム、まさか貴方が生きているとは思いませんでしたよぉ……あの時の実験は成功だったみたいですよぉ」

「相変わらず心にも無い事を言っているようだな……」

「いえいえ本心ですよぉ、だってあの時の実験が失敗に終わり、その原因が今になって私に害を及ぼすかもと思ったら私、怖くて夜も寝られませんでしたからねぇ! ふふふふ……」

「……」


 笑うブロストに対し、バロムは内側から怒りと不快感が込み上げながらも、沈黙を保っていた。


「やい貴様! 何処かで聞き覚えがあると思ったが、かつてレイド大雪原で自分の仲間を撃った水晶玉から聞こえた声で御座るな!」

「ああ、あの時ザハクの近くにいた魔物ですね、その節はどうも」

「……何だと?」


 ガタクの言葉を聞いたバロムが、憤怒の形相でブロストを睨んだ。


「ブロスト! 貴様仲間を……ザハクを撃ったのか!」

「はい、それが何か?」

「……!」


 バロムの質問に、飄々と答えるブロスト。


「既に貴方が共に居る連中に倒されていた後でしたけど、何か喋られても面倒でしので……ああ、ついでにディオスも消しておきましたよ?」


 その言葉にバロムは拳を強く握りしめ、掌に血が滲む。


「貴様は……ヴィシャスとザハクだけに飽き足らず、ディオスまでもその手に!」

「別に良いじゃないですか、所詮魔人王様の駒に過ぎない存在ですよ? そんな事で怒るなんて、昔からちっとも変わりませんねぇ」

「貴様ぁっ!!」

「落ち着かれよバロム殿! 気持ちは分かるで御座るが、怒れば奴の思うつぼで御座る」

「ああ、分かってるさ……!」

「ふふふ……まぁ話はこれぐらいにして、私も任された仕事に取り掛かりますかねぇ」


 そう言うとブロストは指を鳴らし、上空に巨大な亀裂が入った!


「何で御座るか、あれは……!」

(ガタク、あれは奴が魔物を呼び出す際に使うものです、気を付けてください!)


 亀裂はどんどん広がって行き、中からおびただしい数の虫が飛び出してくる。


「あれは、ブラックローカスト!」


 亀裂内から現れたのは、以前ヤタイズナ達が大草原で遭遇し、戦闘を行った魔物と同じ、ブラックローカストであった。


「私のお仕事は足止め……まぁ、これだけ居れば十分でしょう……では私は忙しいのでこれで失礼しますねぇ」

「逃がさんッ!」


 ブロストが指を鳴らすと同時に、バロムはブロスト目掛けて一直線に駆ける!

 そのまま斬りかかろうとするが、ブロストは足元に現れた亀裂に沈み、そのまま亀裂が閉じてしまった。


「ブロストぉ……!」

「「ギチギチギチギチギチギチギチィィィィィィ!!」」


 ブラックローカスト達がバロム目掛けて突っ込んでくる!


「《鎌鼬》!」

「ギチギチィ!?」

「ギギチィ!?」


 ガタクが鎌鼬を撃ち出し、ブラックローカスト達を切り刻んで行く!


「あの時は未熟で不覚を取ってしまったが……今度は全員切り刻んでくれるで御座る!」

(総員、戦闘態勢! ベルとゴールデン殿を守りつつ、確実に各個撃破して行くであります!)

『『ギチチチチィィィィィッ!!』』


 レギオンの指示でソーアントがゴールデンとベルの周囲に展開、それをガーディアント達が囲い円陣を組んだ。


(後方支援は任せてください!)

「あいつら相手じゃ自分また役立たずやな……ゴリアテが居ってくれたらなー……」

「バロム殿、行くで御座るよ! 《風の大顎》!」

「ああ……分かっているとも!」


「「「「ギチギチギチギチチィィィィィィィィッッ!!!」」」」


 ガタクとザハクは、向かってくるブラックローカストの大群を次々と切り捨てて行く!













 ――黒のギリエル……やはりこいつが最後の六色魔将!

 私は戦闘態勢を保ったまま、ギリエルを睨みつける。


「良い気迫だ……今まで我々の作戦をことごとく潰してきただけの事はある……だがそれももう終わりだ、貴様達を潰し、従魔使いと魔王が持つ石を手にし、この世界を正しき姿へと戻すのだ」

「正しき姿……? どういう意味だ!」

「意味など知る必要は無い、貴様等はここで死ぬのだからな……お前達は先に行き石を手に入れろ」


 ギリエルの命令で、黒装束の魔人達はバラバラに別れ、森の中へと消えていく。

 奴ら、ミミズさん達の元に行く気か!


「くそっ……!」

「それでは、始めるとするか」


 そう言うとギリエルは両腕で自らの頭部を掴んだ。

 何だ……? 一体何を――




 ――ゴキャアッ!!


「なぁっ……!?」


 なんとギリエルは、自らの首を捻じ曲げたのだ!


 ギリエルの首は180度回転し、顔が後ろ側に向いてしまっている。

 ど、どういう事だ……自ら自害するなんて……


「驚くのも無理はあるまい」

「ッッ!!?」


 首がねじ曲がっているギリエルが平然と喋りだした!


「こうしなければ、身体の『外骨格』が元の形に戻らないのだよ」

「外、骨格……!?」


 私がそう呟いた瞬間、ギリエルの鎧がメキメキと音を立てて変形し始めた!


 腕が中指を境に真っ二つに割れ、腰部が180度回転し地面に倒れこむ。

 そしてギリエルの身体が巨大化して行き、胴部が割れ、頭部の二本の角が伸びて行く。


「や、ヤタイズナ……これは一体何なんだ!?」

「あれは……あの姿は……甲虫……!?」


 そう、二つに割れた両腕に足を合わせて六本の脚を形成。

 二つに割れた胴部は前翅、そして頭部の巨大な二本の角。


 ギリエルは紛れもなく甲虫へとその姿を変形させたのだ。

 その大きさは角も合わせれば4メートル半はある。


 しかもあれは、あの甲虫は……

 私は自分がカブトムシに転生し、喜んだ時の事を思い出す。









 ――私はとても興奮している。


 なぜなら、神が私の最後の願いを聞き届けてくれていたからだ!

 そう、あの時意識が薄れゆく前に言った言葉。


「今度生まれ変わるなら人間ではなく昆虫がいいなぁ……」


 あの言葉を聞き届けてくれたに違いない! 

 しかも私が一番好きなカブトムシにしてくれるとは、嗚呼……ありがとうございます神様!


 自分の身体を再度見てみる、やはりカブトムシだ。

 しかも日本のヤマトカブトムシ! 私の好きなカブトムシランキング一位の種類だ!


 ちなみに二位は――









「――ヘラクレス、オオカブト」

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