第200話 大樹海、炎上Ⅱ

――ヤタイズナが過去の記憶から戻る少し前、北の森の一角。


「うわああああああっ!?」

「ぎゃああああああああっ!?」


 魔人達がボタニック・モンスターのハエトリソウとウツボカズラに食われ悲鳴を上げる。


「くそっ……何だこの魔物は!」

「ゼキア様、これでは先に進めません!」

「ちぃっ、このような場所で足止めを喰らうとは……」


 六色魔将、白のゼキアに向け、ボタニックの無数の蔦が襲い掛かる!


「ふんっ!」


 ゼキアは大剣を振り、ボタニックの蔦を切り払った!


「ふわぁぁぁぁ……まだ片付かねぇのかよぉ?」


 ゼキアの後ろでウデムシの背中に乗っているビャハが欠伸をした。


「ビャハ! 貴様もこの植物の魔物を片付けるのを手伝え!」

「ええー……そいつらどんなに切り刻んでも悲鳴一つ上げないからつまんねぇんだよ……」

「そんなことを言っている場合か! ギリエル様達が来られる前に道を開くのが我々の役目だろう!」

「はいはい……それじゃあとっとと片付けるかねぇ……おいお前ら! 松明を用意しろ!」

「はっ!」


 ビャハの指示で、魔人達が動き出す。


「ビャハ、貴様何をする気だ!?」

「ああ? 決まってんだろ……あの蔦共を燃やすんだよ!」

「馬鹿か! あの蔦はこの樹海の木々の至る所に巻き付いている……蔦から火が燃え移れば、この一帯が火の海になるぞ!」

「だから?」

「分からんのか、我々にも被害が出る可能性が……」


 ゼキアの言葉を無視してビャハは魔人から火の付いた松明を奪い、ボタニック目掛けて投げつけた!


「なっ……!?」

「ビャハハハハハハハッ! 流石植物、良く燃えるぜぇ! お前らも投げつけろぉ!」


 ビャハの指示で、次々と松明が投げられていく。


 火のついたボタニックの蔦はもがき苦しみかのように暴れ、やがて火はハエトリソウ、ウツボカズラ等にも燃え移り、遂に周りの木々も燃え始めた!


「ビャハハハハハハハハハ!! ……さぁて、それじゃあ先に進むとするかねぇ」

「……こうなっては仕方が無い……全員、前進だっ!」


 ゼキアの指示で、魔人達が移動を開始した。


「燃えろ燃えろぉっ! 大樹海炎上ってなぁっ! ビャハハハハハハハハハハハ……!」


 移動するウデムシの背中で愉快そうに笑うビャハの声が、燃える樹海の中で響き渡った――










「―まさか……魔人族がすでにこの大樹海に!?」


 私の言葉に魔鳥王が頷いた。


「ええ、間違いないでしょう」

「このような行いをするのは、恐らくビャハかプロストだろうな……」


 ビャハ……あの三大奇虫を従えた赤い鎧の魔人か……まさか森に火をつけるなんて……

 私が考えていると、魔植王の身体が、再び騒めき始めた。


『感じる……邪悪な者達が徐々に近づいてきています……』

「魔人族め、ここに向かってきているようじゃのう」

「奴らの侵攻を阻止すると同時に、これ以上樹海が燃えないようにしないと……皆、それぞれ別動隊を作って行動しよう」

「うむ、それが正しい判断じゃな」

「よし、スティンガー、カヴキ、ティーガーは右側を頼む」

(わかったー!)

(合点承知でさぁ!)

(奴らを肉団子にすると同時に、火事を止めて見せます!)


「ベルとレギオン達は左を頼む」

(分かりました)

(了解であります!)

『『ギチチチィィィィィィィィィィィ!!』』


「パピリオとドラッヘは空から敵と火事の正確な位置を見つけ、皆に伝えてくれ」

(分かりましたー!)

(やってやるっすよ)

「ヤタイズナ、自分らも手伝うで!」

「魔王様との思いでがあるこの大樹海を、糞共の好きにはさせん!」

「お前達……」

「ありがとう、それじゃあゴールデンとゴリアテ、エンプーサとガタクは私と共に正面に向かうぞ」

「了解で御座る!」

「このような雑事を我にやれと?」

「すべてが終わったら勝負してやるから、今は言う事を聞いてくれ!」

「むぅ……仕方ない、ただし絶対に戦えよ?」


「ミミズさん達は魔鳥王と共にここに居てくれ」

「うむ」

「頑張れよヤタイズナ!」

「魔鳥王、ここの守りを任せます」

「任せください、万全の状態ではありませんが、まだ十分戦えますからね」

「魔蟲王、私も行こう」


 腰に剣を携えたバロムが、私の元に来た。


「年老いたとはいえ、役に立てる自信はある……それに、ひょっとしたらかつての教え子が居るかもしれないからな……」

「教え子……あの、バロム……貴方の話を聞いて言っておかなければと思っていたん事が……貴方の教え子の一人であるザハクは、私が……」


 私の言葉にバロムは悟ったのか、目を閉じた。


「そうだったのか……ザハクは最後に何と言っていた?」

「……『さらばだヤタイズナ、私を倒した強き戦士よ』、と……」

「……成程な、彼は願いを叶えたんだな……」

「どうしてそんなことが分かるんですか?」

「なんとなくだよ……すまない、今は長話をしている場合じゃなかったな」


 バロムは目を開き、一瞬で戦士の顔になった。


「よし、それでは皆……行くぞぉっ!!」


『『『おおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!』』』


 私の言葉と共に、皆が一斉に大樹海の各場所へと動き出した!

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