第198話 過去への旅Ⅷ
「お前は……この襲撃はお主の仕業か! アバドン!」
「その通りでございます」
蟲人の長―……アバドンはミミズさんの言葉に頭を下げて答えた。
「キシャアアアアアアア……」
「ギチチチチチチチチッ」
「……そ奴らに何をした?」
「大したことはしておりません、人間との共生を望んだ者達の頭の中を少々弄(いじく)り私のいう事だけを聞くようにしただけです」
「同族になんて酷い事を……!」
「何故じゃ、何故アドニスの国を襲った!」
「何故? ……それは貴方様が原因ですよ、魔蟲王様」
「儂が、原因じゃと……?」
ミミズさんが戸惑う中、アバドンはフードの中から複眼でアドニスを見た。
「貴方は我ら蟲人の神……その神があろうことか人間と交流を持ち、絆され、そして我等蟲人を裏切り人間側についた」
「何を言うておる、儂はお前達を裏切ってなど……」
「どう言おうが、その人間が来てから我等蟲人の平穏は乱され、貴方は変わられてしまった……我々は貴方に失望したのですよ……」
「それがどうしてこの国を襲う事に繋がるのじゃ!」
「今日この日をもって我ら蟲人は魔蟲王ヤタイズナ……貴方の支配から脱却し、他の人間種を滅ぼし蟲人の世界を創り上げるのです」
「……それは本気で言っているのか? そんな事儂が許すと思うておるのか!」
「思いません、故にこの場で貴方を殺します」
ミミズさんが殺気を放ち蟲人達がたじろぐ中、アバドンは平然と答えた。
「アドニス、家族を連れて逃げるのじゃ!」
「魔王さん……」
「お主達が近くに居たら巻き込んでしまう、さっさと行くのじゃ!」
「……分かった!」
アドニスはリリウム達を連れ、近衛兵と共にミミズさんの後方に走って行く。
「キシャアアアアアアアッ!」
「ギチギチギチギチッ!」
「構うな、魔蟲王だけを集中攻撃しろ」
アバドンの命令で、蟲人達が一斉にミミズさんに襲い掛かった!
「操られているだけなのは分かっておる……悪いが恨むでないぞ」
そう言うとミミズさんは本来のサイズに戻り、左右二つの頭で蟲人達を噛み砕き、そのまま真ん中の口を開いてアバドンに突っ込んだ!
しかし、アバドンは一瞬で真上に跳躍し回避、建物の上に着地した。
あの跳躍力、恐らくアバドンは名前通り……
「ちぃっ、すばしっこい奴じゃ」
「そう簡単には捕まりませんよ……『行け』」
「シャアアアアアアアアッ!」
アバドンの命令で再び蟲人達がミミズさん目掛けて飛び掛かる!
「ええいうっとおしい、邪魔じゃあっ!」
ミミズさんが蟲人達を振り払ったり、噛み砕いて行くが、国中から蟲人達が次から次へとミミズさんの元に集まって来て、キリが無い。
しかしおかしい、全盛期のミミズさんなら強力なスキルを持っているはず、何故それを使わないんだ?
「おのれぇぇ……」
「どうしました? それが貴方様の本気では無いでしょう?」
「五月蠅い!」
「やはりそうですか……魔蟲王、貴方は生き残っている人間達の事を気にして戦っておられるのですね」
「……」
そうか! 魔王であるミミズさんが本気で戦えば、このあたり一帯は更地になるだろう。
だけど、そうなるとまだこの周辺で逃げ遅れてしまった人間達も巻き添えに……
「おいたわしや……かつての貴方ならば人間の事など気にもせずに戦っておられたであろうに……人間との交流が貴方を弱くしたのですよ」
「黙らんかぁっ!!」
アバドンの言葉にイラつきながらも、ミミズさんは蟲人達を蹴散らしていた。
「スキルを使わずにこの強さは流石です……ですが、時間切れです」
「何じゃと?」
アバドンの言葉にミミズさんが疑問に思ったその瞬間、ミミズさんの周囲に六本の柱が出現した!
これは、まさか魔人族が使っていた……!?
「何じゃこれは……!? ぐぅぅ!?」
ミミズさんが驚く中、六本の柱から光の鎖が現れ、ミミズさんの全身を縛り付けた。
「ち、力が、抜けていく……」
鎖で縛られたミミズさんが地面に倒れる。
「魔蟲王、私は部下に大樹海の至る場所を調べさせました……」
アバドンが建物から降り、地面に着地する。
「そして、地下深くでこの柱を発見したのです……魔王の力を封じるこの柱を」
「ぬぅぅぅぅ……」
「しかしこの柱は起動までとても時間が掛かりましてね……貴方を一定の場所に留まらせなければ使えなかったのですよ……貴方が人間共を気にしてくれたおかげで上手く行きました、ありがとうございます」
「き、貴様……」
「哀れな姿ですね……貴方が人間などに絆されなければ、このような惨めな姿を晒す必要は無かったと言うのに……」
蟲人がアバドンの傍に来て、何かを手渡した。
それは、何らかの虫の甲殻で作られた、禍々しき黒槍だった。
「何じゃ、それは……」
「これは貴方を殺すために作ったモノ……名付けるなら『魔蟲殺しの槍』と言った所ですかね……」
アバドンはミミズさんから距離を取る。
「この槍には多くの虫と蟲人達を素材とし、蟲を殺す事のみに特化した槍なのです……その力は大樹海の虫達で実験済み……」
「同族を操るだけではなく、そんな物のために犠牲にしたと言うのか……」
「貴方の支配からの解放のための、尊い犠牲ですよ」
「貴様のような者が、尊いなどと言う言葉を使うでない……」
「どうぞ好きに罵ってください、貴方はもう死ぬのですから」
アバドンは投擲の構えを取り、ミミズさんの真ん中の頭に狙いを定める。
「――さらばだ、魔蟲王ヤタイズナ」
その言葉と共に、アバドンは魔蟲殺しの槍をミミズさん目掛けて投擲する!
『ミミズさぁんっ!!』
私が叫ぶ中、槍はそのまま真っ直ぐミミズさんに向かって飛んでいき、ミミズさんの頭部に突き刺さる――
――その寸前で、一人の人間がミミズさんの前に立ち、魔蟲殺しの槍を身体で受け止めた。
「がはぁっ……!?」
「あ、アドニス!?」
そう、槍を受け止めたのは先程避難したはずのアドニスだったのだ!
槍はアドニスの身体に奥深く突き刺さり、槍の先端が貫通していた。
「アドニス、何故ここに居るのじゃ!?」
「リリウム達を、城壁の外に逃がして、戻って来たんだ……」
「何故、何故戻って来た! 王であるお前は、生き残らなければならん存在じゃろうが!」
「分かってるよ……それぐらいはさ……」
アドニスは血を吐きながら、地面に膝を着き、ミミズさんに向かって笑顔で喋る。
「……でもさ、友達を見捨てるなんて俺には出来ないよ、魔王さん」
「――お主」
「俺さ、魔王さんを国に招待して、リリウム達と会わせて色んなことを一緒に楽しんでもらおうって思ってた……でも、もう出来ないっぽいや」
「何を言う、そんなことは許さんぞ、勝手に死ぬなど儂が許さんぞ!」
「俺、魔王さんと出会ってから毎日が楽しかった……叶えたい夢が出来た……愛する家族が出来た……本当に、幸せだった……」
「止めてくれ、そんな最期のような言葉を言うな、アドニス……!」
「今までありがとう魔王さん……俺の最初にして、生涯最高の友、よ……」
その言葉を最後にアドニスは動かなくなった。
「愚かな人間め……余計な邪魔をしてくれたな」
アバドンはアドニスの遺体に突き刺さっている槍を引き抜き、遺体を蹴り倒した。
「―――っ」
『っ!? ぐっ、がはぁっ……!?』
何だ、これ……身体にに何かが入り込んでくる……!?
いや違う、これは……ミミズさんの感情が伝わってきている……?
とてつもない悲しみ。
途方も無い喪失感。
そして――――――湧き上がるどす黒い憤怒。
「……貴様、キサマァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!」
「何っ!?」
ミミズさんは起き上がり、全身に縛り付いていた光の鎖を破壊した!
「馬鹿な……!? あの鎖を破壊するなど不可能なはず……」
「ァァァァァァァァァァァァァァァァァッッ!!」
ミミズさんの三つの頭が大きく口を開き、口内が光り輝き始めた!
「ッ! くたばれ魔蟲王!」
アバドンがミミズさん目掛けて魔蟲殺しの槍を投擲する。
「《魔蟲の滅星》ィィィィィィッ!!」
その言葉と共に視界が真っ白に染まり、何も見えなくなった――
『――……これは……』
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア……!!!」
視界が戻った私が見たのは、燃え盛り王国の中心で、悲痛な叫びを上げるミミズさんの姿だった。
これが……この光景があの砂漠で魔鳥王によってミミズさんが見た過去の光景……
これと同じ光景が、近い未来起ころうとしているなんて……
私が叫び続けるミミズさんの姿を見続けていると、辺りにノイズが入り始め、景色が真っ暗に染まり、私の意識も――
「――う、ううん……」
「殿! ようやく目覚められたので御座るな!」
(ごしゅじんがめをさましたー♪)
(ご主人様ー!)
意識が戻った私の目に映ったのは、私の周りに集まっているしもべ達の姿だった。
「皆……そうか、現実に戻って来たのか……そうだ! ミミズさんは!?」
「儂ならここじゃ」
しもべ達の後ろに、ミミズさんの姿があった。
「良かった……ミミズさんもちゃんと目が覚めたんだね……でも、どうしてあそこで現実に戻ったんだ?」
「それはあの瞬間に魔蟲王の記憶が改竄されたからです」
「魔鳥王……だけどあれでは誰が改竄したかは分からないな……」
「じゃな……しかし、大事な事は思い出した……」
「魔王様……それじゃあ坊の事も」
「すべて思い出した……アドニスの本名もな」
「本名? そう言えば私が見た記憶だと名前だけだったな……でもそれがどうしたの?」
「……あ奴の名はアドニス……」
「―アドニス・アメリア」
「第94回次回予告の道ー!」
「と言うわけで久しぶりに始まったこのコーナー!」
「今回で過去編は終わり、舞台は現実に!」
「うむ、そして儂の口から発せられたアドニスの本名、これが意味するモノとは!?」
「では次回『大樹海、炎上』!」
「「それでは、次回をお楽しみに!!」」
・注意、このコーナーは作者の思い付きで書いているので、次回タイトルが変更される可能性があるのでご注意下さい。
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