第197話 過去への旅Ⅶ
「国内で火の手が上がっているのか……!? でもどうして……」
「アドニス、乗れ!」
ミミズさんが身体を3メートルほどに縮め、真ん中の頭を地面に付けた。
「魔王さん……!」
「しっかり掴まっているのじゃぞ!」
「アドニス様! お待ちください――」
アドニスがミミズさんの頭の上に乗ると、ミミズさんは凄い速さで王国へと移動を開始した。
――ミミズさん達に付いて王国内に入った私は辺りを見渡す。
幾つもの建物が崩れ、炎で至る所が燃えている。
更には血塗れで倒れている人々の姿も。
酷い惨状だ……一体なぜこんなことに……
「! あそこに倒れているのは兵士達!」
アドニスがミミズさんから降り、一人の兵士の元に駆け寄った。
「おい、しっかりしろ!」
「う、うぅ……あ、アドニス様……戻られたのですか……」
「教えてくれ、一体何があったんだ!?」
「む、蟲人達が……国を襲撃しました……」
「何だって!?」
「あ奴らが!?」
「い、急いで王城にお戻りください……王妃様と王子がまだ……」
その言葉を最後に、兵士は動かなくなった。
「リリウムとニルが城に……魔王さん!」
「うむ! 王城に向かうぞ!」
ミミズさん達は全速力で王城へと向かう。
「シャアアアアアアアアッ!」
「ギチチチチチチチチッ!」
「きゃあああああああああっ!」
「助けてぇぇぇぇぇぇっ!」
途中、ミミズさん達は蟲人に襲われている人々を発見した。
蟲人達の複眼が真っ赤に光っており、辺りを破壊している者も居る。
「あ奴ら、本当に人間達を襲って……」
「民達が……魔王さん、彼らを助け……」
「馬鹿者、今はお前の家族を救う事を第一に考えんか!」
「そうだけど……でも!」
「……ったく仕方ないのう!」
ミミズさんは進路を変え、人々の元に向かう。
「シャアアアアアアアアアッッ!!」
「止めんかこの愚か者共ぉっ!」
ミミズさんが真ん中の頭で蟲人を一体咥え、残る二つの頭で蟲人達を吹き飛ばした!
吹き飛ばされた蟲人達は壁や地面に突き刺さり、痙攣している。
一応手加減しているみたいだが、凄まじい力だ……
「ぺっ!」
そして咥えていた蟲人を地面に吐き捨てた。
「民達よ、怪我はないか?」
「国王様!」
「助けていただきありがとうございます!」
人々がアドニスに礼を言う中、ミミズさんが吐き捨てた蟲人が起き上がった。
「キチチチチチチチチチィィィ……」
蟲人は真っ赤な瞳でミミズさんを睨み、大顎をカチカチと鳴らしている。
「……この儂が分かっておらんのか?」
「シャアアアアアアアアッ!」
蟲人がミミズさんに跳びかかる!
「身の程を知れ」
―それをミミズさんは左の頭で蟲人を叩き落とし、蟲人は地面にめり込んだ。
「余計な時間を使ったわ……アドニス、早く城に向かうぞ、急げ!」
「分かった! 皆も早く避難するんだ!」
アドニスは再びミミズさんの頭に乗り、移動を再開した。
――数十分後、ミミズさん達は王城入り口前に到着したが、城からは火の手が上がり、城扉が閉じられていた。
「ここにも火の手が……!」
「城扉が閉じられておるな……仕方ない、アドニス、少々手荒に行くから掴まっておれ!」
そう言うとミミズさんは元のサイズに戻り、物凄い速さで突進、城扉を破壊した!
「あ、荒過ぎるよ魔王さん……」
「何を言うとるか、ほれ行くぞ!」
ミミズさんは再び身体を縮め、アドニスと共に城内へと入った。
「リリウムーっ! 居たら返事してくれー!」
アドニスが懸命に王妃の名前を呼ぶが、返事は帰ってこない。
「アドニス、何処か隠れられそうな場所は無いのか?」
「隠れられる場所……そうだ! もしもの時のために玉座の間に隠し部屋があると父上から教えられたんだ、リリウムにもそのことは話してあるからそこに……」
「玉座の間じゃな、よし!」
玉座の間に到着し、アドニスがミミズさんから降り、玉座に近づいた。
「確かこうして、ふんっ……!」
アドニスが玉座を動かすと、玉座の下に隠し階段が出現した。
「誰かー! そこに居るのかー!」
「……アドニス? アドニスなの!?」
「リリウム! やはりここに居たのか……」
隠し階段から数人の近衛兵と、幼子を抱きかかえた一人の女性が昇って来た。
「リリウム、ニル!」
「アドニス! 無事で良かった……!」
アドニスとリリウムと呼ばれた女性が抱き合う。
この人が王妃か……
「王よ、ご無事で何よりです……」
「お前達、よくぞリリウムとニルを守ってくれた……」
「勿体無きお言葉、ありがとうございます」
「話は終わったか? さっさと脱出するぞ」
ミミズさんの存在に気付いたリリウムがたじろぎ、近衛兵が前に出て剣を構えた。
「アドニス、この魔物は……?」
「ああ、彼が話していた魔王さんだよ」
「初めましてじゃな、ヤタイズナじゃ」
「貴方が魔王さん……初めまして、アドニスの妻のリリウムです、この子は息子のニル」
リリウムは抱きかかえている息子をミミズさんに見せた。
「ほう、こやつがのう……成程、アドニスに似ておる」
「ふふ、でしょう?」
「王妃様、危険です! この魔物は蟲人を統率して国を襲わせた可能性が……」
「それはありません」
「な、何故そう言えるのですか!?」
「だって、この方との約束のためにアドニスは今まで頑張って来たのですよ? 魔王さんの話をしている彼はとても楽しそうで素敵だった……だから私は彼の手助けをしてきたのです、私はアドニスが信じたこの方を信じます」
「リリウム……」
「その信頼感謝するぞ、とりあえずはここから脱出を……」
ミミズさん達が玉座の間から出ようとした時、入り口から大量の蟲人達が現れた!
「キシャアアアアアアア……」
「ギチャチャァァァ……」
「蟲人達だ!」
「こんなところにまで……」
「お前達! 道を開けよ!」
ミミズさんが蟲人達に命令するが、一向に聞く気配は無い。
「やはり正気を失っておる様じゃのう……アドニス! 儂が奴らを蹴散らす、その隙に逃げるのじゃ!」
「シャアアアアアアアアッ!」
蟲人がアドニス達目掛けて一斉に動き出す!
「命までは取らん……少し大人しくしてもらうぞ!」
ミミズさん三つの頭で蟲人を咥え、更に胴体を鞭のようにしならせ、蟲人達を叩き飛ばした!
「ギチチチチチチチチッ!」
「ぺっ!」
三方向から攻めて来た蟲人達に対して、咥えていた蟲人を吐き飛ばしぶつけ無力化する。
「よし、前に進むぞ!」
ミミズさんは蟲人を蹴散らしながら前に進み、その後ろをアドニス達が付いて行き城内を脱出、城扉を抜けて城下に入った。
「城からは出られたのう」
「ああ……あとはリリウム達を安全な場所に避難させた後、城下に残されている民達を助けなければ……」
「キシャアアアアアアア」
「ギチュチュチュチュ……」
ミミズさん達を囲むように大量の蟲人達が現れた!
「か、囲まれてしまった……」
「くそっ! 王と王妃様を守らねば!」
「まだこれだけの数が居ったのか……加減している場合では無いようじゃな……恨むでないぞ」
ミミズさんがそう言って戦闘態勢を取ったその時、蟲人達が道を開いた。
「お待ちしておりました、魔蟲王様」
その道を進んでミミズさん達の元に現れたのは、蟲人の長だった。
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