第196話 過去への旅Ⅵ
「――アドニス、大分疲れておる様じゃのう」
「そう……? 確かに最近少し根を詰め過ぎたかもな……」
少しやつれているアドニスを、ミミズさんは心配そうに見ている。
「お主も結婚して色々と面倒事が増えていると聞いたが、大丈夫か?」
「はは……エルフの国とドワーフの国との物流問題が結構難儀しててさ……でもこの問題を解決できれば、種族間の差別問題解決にも繋がるんだ……休んでいる暇なんて無いよ」
「この馬鹿者が!」
ミミズさんがアドニスを怒鳴る。
「身体を壊しては元も子も無いじゃろうが! 人間は脆い……今はしっかりと療養せよ」
「魔王さん……ごめん、俺焦って前が見えてなかったよ……」
「分かれば良いのじゃ、どれだけ時間が掛かっても良い、大事なのは叶える事なのじゃからな――」
――大分時が飛び、20代程になったアドニスとミミズさんの話をゴールデンが傍で聞いている光景が見えた。
「子供が生まれたそうじゃな」
「ああ、元気な男の子だよ」
「出会った頃は小さかったあの小僧が、親になるとはのう……」
「なんか実感わかないんだよな……こんな俺が父親だなんてさ」
「儂にはその気持ちは分からん……子など作ったことないからのう」
「何言うてますん魔王様、自分らが居るやないか?」
「お前達はスキルで生み出したしもべじゃ、血の繋がりなど無いじゃろうが」
「そんなつまらん事言わんといてやー」
「ははは……それでさ、しばらくはこっちには来れなくなるんだ」
「それは仕方あるまい、……そう言えば獣人族との交流は上手く行っとるのか?」
「ぼちぼちって感じだね……彼等も他の人間種への差別が強いから……でも彼等と上手く行ければ、遂に蟲人達との交流を皆が理解してくれるはずなんだ!」
「そうか……頑張るが良い、お主が来ないのは少し退屈じゃがな」
「あと寂しいんやないですかー? ってぎゃーっ!? 魔王様、噛むのは止めてやー!?」
ミミズさんは照れ隠しなのか、右の頭でゴールデンを咥えて振り回し、その光景をアドニスは大笑いしながら見ていた。
『――……おお! これは……』
次に私が見たのは、蟲人の巣があった場所は整地されており、そこに多くの蟲人達と人間、エルフ、ドワーフ、獣人達が向かい合い、その中心でアドニスと前に見たリーダー格の蟲人が手を取り合う光景だった。
「今日この日、私達は大きな一歩を踏み出す! 差別と偏見を捨て、私達は一つとなった! この場を借り、『全人間種共生国家連盟』の樹立を宣言する!」
アドニスの宣言を聞き、全ての人間種達が拍手喝采する。
「ここからが始まりだ……皆で共に創って行こう、未来を!」
その言葉で、さらに大きな喝采が周囲に響き渡る。
そしてその光景を陰で見守る四天王と、嬉しそうに頷くミミズさんの姿があった。
「――遂にここまで来た……魔王さん、貴方を俺の国に招待するよ」
20代後半程になっているアドニスと数人の護衛達と、ミミズさんが向き合っていた。
「十数年か……結構早かったのう」
「何言ってるんだよ、相当長かったよ……ふふ、俺今すっげぇワクワクしてるよ」
「奇遇じゃな、儂もワクワクしているぞ……」
「それじゃあ行こう魔王さん、約束を果たしに」
「魔王様、楽しんで来てやー」
「あたしらの分までその子の国を見てきてくださいな」
「留守の間は俺達にお任せください」
「我ら四天王がこの大樹海を守護します」
四天王に見送られ、ミミズさん達はアドニスの国に向かって進み始めた。
「ところで、うまい食い物はあるのか?」
「最初にそれかよ……安心してよ、エルフやドワーフ、獣人達の国の特産品が沢山揃ってるよ」
「それは良いのう、今から楽しみじゃ……無論お主の家族に会うのもな」
ミミズさんとアドニスが笑い合うと同時に、風景が高速に動き、視界が真っ暗になった。
「――どういう、事だ……」
「何じゃ、あれは……」
視界が戻ると、ミミズさんとアドニスが狼狽えている。
一体どうしたのかと思い、ミミズさん達の視線の先を見た。
『っ!? あれは……!?』
私が目にしたのは、至る所から黒煙が上がっている王国の姿だった。
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