第195話 過去への旅Ⅴ
「――……ここ、は」
真っ暗だった視界が元に戻ると、私はミミズさんの棲み処に戻っていて、ミミズさん達に手を振っているアドニスの姿が見えた。
「皆、久しぶり!」
「坊! 本当に久しぶりやなー」
「おお小僧、よく来たな」
「元気だったか?」
「風邪とか引いたりしてないかい?」
ゴールデン達がアドニスの囲んで会話している。
随分と仲良くなってるな……アドニスの容姿が少しだけ成長しているし、一年位飛んだのか?
仲良く会話するアドニス達の元に、ミミズさんがやって来る。
「魔王さん、遊びに来たぜ!」
「アドニス、随分と久しいのう……一月振りか?」
「ああ、最近は色々と忙しくてさ……」
「お前が忙しいのう……まぁ良い、どうじゃ? お主の馬鹿げた夢の進行状況は?」
「まだまだ無理そうだわ……でも、何年かけてでも絶対に叶えてみせるぜ!」
「ふっ……まぁ頑張るが良いわ、とりあえず今はゆっくりとして行くがよい」
ミミズさんがそう言った直後、また風景が高速に動き始め、また別の記憶へと飛んだ。
「――聞いてくれよ魔王さん、国で俺の事を狂っているなんて言う奴が増えてるんだ……何で皆分かってくれないんだろうな……」
「それが普通の反応なんじゃろう……それでお前は諦める気になったと?」
「まさか! 分かってもらうために今以上に努力するだけさ――」
そのミミズさん達の会話風景を見て、直ぐに私はまた別の記憶へと飛ばされる。
なんか、動画を飛ばし飛ばしで見ている感じだな……
―今度は、16歳ぐらいに成長しているアドニスが、ミミズさんの前で蟲人達に何かを語っている姿が見えた。
「俺は人と虫が共に歩み生きていければ良いと思っている……だから、人間達と共に生きたいと思う者が居るなら、俺の元に来てほしい!」
アドニスの言葉に、一部の蟲人達が騒めいている。
「一緒に創ろうぜ、未来を!」
「……」
そんな中、以前に見た蟲人の長はアドニスを……いや、アドニスの後ろに居るミミズさんをじっと見続けていた。
「――聞いてくれ魔王さん、あのさ……」
「……なんじゃ、もじもじして気持ち悪い……何かあったのか?」
「俺……近々結婚することになってさ」
「結婚!? お主、番(つがい)が出来たのか!?」
「ああ、隣国の王女なんだけど……彼女凄いんだよ! 博識なだけじゃなく、俺の夢にも賛同してくれたんだ!」
「ほお……そんなもの好きがのう……」
「でも、その実現の難しさも分かっててさ……今のままじゃ無理だって言われたんだよね……」
「まぁ当然じゃろうな、エルフやドワーフ共ならいざ知らず、外見が全く異なる者を簡単に受け入れるわけは無いからのう……」
「だから、まずはエルフやドワーフ、他の人間種との交流を深め、平等に扱われるようにしようってその娘と提案したんだ」
「まずは周りからと言うわけか、しっかりした娘じゃのう……お前にはもったいないぐらいではないか?」
「う、うるさいな! とにかく、まずは国中から他の人間種への差別を無くすことに努めるよ、だからもうちょっとだけ待っててくれよ魔王さん、必ず俺の国に招待するからさ!」
「……うむ、待っておるぞ」
ミミズさんが少し嬉しそうにそう答えた。
――今度は、アドニスの元に数十人の蟲人達が集まっている光景が見えた。
「本当か!? 協力してくれると言うのは!?」
「はい、貴方の語っていた未来、私達も見たくなりました……」
「お主達、その言葉に偽りは無いのか?」
「魔蟲王様、勿論です……ここに居る全員、自らの意志でアドニス殿に付いて行きたいと集まったのです」
リーダー格の蟲人の言葉に、他の蟲人達が頷いた。
「共に、未来を創りましょう」
「ああ、一緒に!」
アドニスと蟲人は握手を交わし、それを見てミミズさんは嬉しそうに頷いていた。
「――魔蟲王様」
「ん? おお、お主か……儂に何か用か?」
次は、ミミズさんの元にあの蟲人の長が部下を引き連れてやって来ている光景だ。
「……ここ最近、我らの巣に異変が生じております」
「異変?」
「人間との共存を望む者達が増え、二つの派閥に分かれてしまっているのです……中には争いを起こす者、巣から離れる者達も居る始末でございます」
「そうか……アドニスの考えが良いことばかりでは無いと言うことの現れか……」
「やはりあの人間は始末すべき存在ではないかと私は考えます、そうすればこの状況も元に戻るかと……」
「それは本気で言っておるのか?」
長の言葉にミミズさんが殺気を放ち、蟲人達は一斉に平服した。
「いえ、それは……」
「良いか、アドニスの行いがお主たちに良くない影響を与えたのは確かじゃ……じゃがのう、儂はそれで良いと考えておる」
「それは、どういう事ですか?」
「お主たち蟲人ははるか前から儂に従って居るが、その在り方はずっと変わらない、それは決して悪い事ではないが、良い事とも限らん……何故なら変わらないと言うことは、進まぬと言う事でもあるからじゃ……最初はアドニスの話を聞いて馬鹿らしいと考えた、じゃが同時に儂はわくわくしたんじゃよ……今までの退屈が消え去り、何かが起きるのではないかとな」
水晶のような眼が輝いて見えるほど、ミミズさんはとても楽しいそうに話している。
「事実アドニスが起こした新しい風は、お主たちにも影響を与えた、変わろうとする者達が現れた……儂は嬉しいぞ、これならもしかしたらアドニスの夢、早い段階で見られそうじゃ……」
「……」
「別にアドニスの夢に賛同せよと強制はせん……じゃが今後もいざこざがあるなら、派閥ごとに巣を分けて暮らすのじゃ、それである程度は抑えられよう」
「分かりました、では直ちに別の巣を作らせるように手配します」
「うむ、では儂は行くぞ、久しぶりにアドニスが遊びに来るのでな」
そう言ってミミズさんは後ろを向き、進んで行く。
蟲人の長は頭を上げ、ミミズさんをじっと見つめていた。
頭部を覆ったフードの下から、真っ赤な複眼を光らせて。
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