第194話 過去への旅Ⅳ
蟻塚から続々と出てくる蟲人達は、様々な姿をしていた。
カブトムシ、クワガタ、アリ、カマキリ、ハチ、ハエ、セミ、チョウやカメムシにコオロギ、バッタ……他にもクモやダンゴムシ、ムカデのような姿の者までいる。
その多種多様さに私は驚きと興味深さ、半々の気持ちで蟲人達を見つめていた。
これが蟲人……ミミズさんの話では人間対ミミズさんの戦いの際には、人間側に付いたと言うけど……
私が蟲人達を観察する中、急に蟲人達の人波が真っ二つに割れ、一本道が出来た。
そしてその道を歩く一人の蟲人の姿が。
その蟲人はローブで全身を覆っていて、どんな姿かは分からないが、皆が道を開けた事から恐らくはあの蟲人が長なのだろう。
長がミミズさんの目の前に来ると、地面に膝を付き頭を垂れ、後ろに居る蟲人達も総てミミズさんに頭を下げた。
「お待ちしておりました、魔蟲王ヤタイズナ様」
「うむ、お主達も元気そうで何よりじゃ、いつも通り捧げものを貰いに来たぞ」
「はい、こちらにご用意しております」
長が右第一腕を掲げると、蟲人達は大量の木の実が入った複数の大籠を持ち、ミミズさんの前に置き、再び跪いた。
「どうかお納めくださいませ」
「ご苦労、では貰っていくぞ」
ミミズさんは左右の頭で大籠を加え、持ち上げた。
「次の捧げものも楽しみにしているぞ」
「はい、次もより美味な木の実を捧げてみせます……っ!」
跪いていた長が起き上がり、左第一腕をミミズさんの背後の木に向けた。
「《雷球》」
長の掌から雷球が作りだされ、撃ち出された!
雷球は一本の木に炸裂!
「うわあああっ!?」
「坊! 大丈夫かいな!?」
「アドニス、ゴールデン!?」
雷球の炸裂した木の背後からアドニスが飛び出し、それを心配するようにゴールデンが出て来たのだ。
あの王子、付いてきていたのか!?
「人間が我らの棲み処に……始末しろ!」
長の言葉で蟲人達がアドニスを始末しようと動き出す。
「止めよっ!!」
―それをミミズさんが一喝し、蟲人達を制止した。
「……魔蟲王様、何故止めるのですか? 下等な人間は始末するのが一番なはずですが」
「あの人間は儂の知り合いじゃ、手出しは許さん」
「……知り合い? 魔蟲王様が人間と?」
ミミズさんの言葉を聞き、長はアドニスを見た。
「無礼を承知で申し上げますが、我らが神である魔蟲王様が人間ごときと関わるなど……御身が穢れてしまいます」
「儂が誰と関わろうが儂の勝手じゃろうが、貴様がとやかく言う筋合いは無い」
「……仰る通りです、出過ぎた真似をして申し訳ありません」
「分かればよい、では儂は戻る……」
そう言うとミミズさんは元来た道を戻り始めた。
「ま、待ってくれよ魔王さんー!」
「置いていかんでや~!」
ミミズさんの後をアドニス達が追って行く。
その光景を、蟲人達はじっと見ていた。
――元の道を戻る事数十分。
ミミズさんが大籠を地面に置き、ゴールデンを睨んだ。
「……ゴールデン、儂は確かにアドニスの相手をしてやれと言った……じゃがな、好きにさせろとは言うとらんじゃろうがぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ぎゃーっ!? 魔王様噛まんでやー! 歯形が、翅に歯形が着くからー!?」
ミミズさんは右の頭でゴールデンを咥えて振り回しまくっている。
「魔王さん、ゴールデンを攻めないでくれよ! 俺が皆の目を盗んで抜け出したのを追いかけて来ただけなんだ」
「お前はお前でもっと儂等に迷惑かけたのを反省せんかぁぁぁぁっ!」
「ぎゃーっ!?」
ミミズさんの左の頭がアドニスを頭から咥えて振り回す!
ヤバげな感じに見えるけど、ミミズさん加減してるなあれ。
子供に言い聞かせるためのお仕置きみたいなものか……
―十数分振り回した後、ミミズさん達は大樹海の見晴らしが良い場所に座って休憩していた。
「この木の実うめー!」
「ほんまやなー、蟲人達の捧げものは相変わらず甘みがあってええなー」
「全部食うでないぞ、他のしもべ達の分もあるのじゃからな」
そう言ってミミズさんは真ん中の頭で大籠を咥え、中の木の実を一気に平らげた。
「……魔王さん、さっきの奴らって何?」
「ん? 蟲人達の事か? 奴らは結構昔から儂を神と崇めとる連中じゃ」
「何か、人間を嫌ってたみたいだけど」
「まぁそうじゃのう……あ奴らはちょっと頭が固いからのう、儂の系譜を持つ自分達は他の人間種より優れていると思っとる、儂は人間なんてどれも似たようなもんじゃと思うんじゃがな……」
「……俺の国もさ、他エルフとかドワーフを亜人種とか言って見下してる奴が多いんだよ……」
「何処も似たようなもんじゃな」
「だね……皆仲良くすりゃ楽しいと思うんだけどなー……」
そう言いながらアドニスは木の実を齧り、空を見た。
「……なぁ、魔王さん」
「む?」
「人と虫が分け隔てなく暮らせる国ってさ……楽しいと思う?」
「何じゃ急に……そんなもの無理に決まって」
「実現出来たら楽しいと思う?」
「……まぁ、今よりは多少楽しくなるじゃろうな」
「そっか……よし!」
アドニスは木の実を食べ終え、立ち上がる。
「俺決めたよ魔王さん! 俺は立派な王になって、ミミズさんを俺の国に招待する!」
「はぁ!?」
アドニスの言葉にミミズさんは驚きの声を上げる。
「魔王さんのしもべも、あの蟲人達とも仲良くなって、この大樹海と俺の国の繋げて、すっげぇ楽しい国を作るんだ!」
「……お前、何を馬鹿な事を……」
「馬鹿な事じゃねぇよ、俺は絶対に実現させる! 魔王さんに色んな楽しいもんを見せてやるよ!」
「……ふっ、フハハハハハハハハハハハハハハ! 全く馬鹿な奴じゃのうお主は」
「な、何だよ! 笑うなよ!」
「すまんすまん……楽しみに待っとってやるわ、お主の馬鹿げた夢の実現をな」
「ああ、楽しみに待っといてくれよ!」
ミミズさんは右の頭をアドニスの前に出し、アドニスの右拳と突き合わせた。
「……魔王様、楽しそうやなー」
確かに……ミミズさん、すっごい楽しそうだ。
私がそう思った瞬間、再び周囲の風景が高速に動き始め、数十秒経過すると、また視界が真っ黒に染まった。
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