第193話 過去への旅Ⅲ

『特に、周囲に変化は見られないな……?』


 私が周囲を見渡していると、寝ているミミズさんと四天王達の姿が見え、そこに一人の人間が居た。


「よう! 遊びに来たぜ!」

「おおー坊! 今日も元気そうやなー」

「金ピカも元気みたいだな、おーい魔王さーん!」

「……む? 何じゃアドニスか……無駄に元気じゃな相変わらず……」


 アドニス!? この人間が!?

 私はアドニスをよく見る。


 確かに顔に面影があり、髪も山吹色だ……

 身長は150cm程になっていて、歳は十四歳前後と言った所か。


 やはり先程、周囲の風景が高速に動いたのはミミズさんの記憶が進んだからか。

 アドニスの見た目からして、およそ四年は一気に飛んだわけか……


 しかし、何故急にそんなに進んだんだ?

 この時はミミズさんにとって大事な記憶と言うことなのかな?


 私が思案する中、ミミズさんとアドニスが話し始めた。


「なぁアドニス……儂は確かに時々遊びに来いとは言うたぞ? ……じゃからと言って、五日に一度は流石に来すぎではないか?」

「良いじゃんか、本当は三日に一度は来たいんだけど……城の連中の警備が年々厳重になって抜けるのが難しいんだよ……」


 ……そりゃ一国の王子が度々抜け出すんなら、相当厳重にしなきゃ駄目だよね……


「お主のう……」

「安心してくれよ、ちゃんと勉強や稽古はやってるからさ……こう見えても国じゃ『麗しの脱城王子』って呼ばれてるんだぜ?」


 それ馬鹿にされてない?


「麗しぃ? お主の何処が?」


 ミミズさんが怪訝そうな声を出した。


「何だよ! 虫基準じゃ分かんないけど、人間相手ならモテるんだぜ俺!」

「まぁ確かに、今まで森で見た人間の中では一番目立つ顔しとるな坊は」

「私には違いが分からんな……」

「あたしも」

「同じく」


 ゴールデン以外の四天王は人間の違いについては疎いようだ。


「まぁ良い……儂は『あそこ』に向かう、お主達はアドニスの相手でもしてやれ」

「ああ、そう言えばもう捧げ物の日やな」

「ええー! どこ行くんだよ魔王さん! 一緒に遊ぼうぜー」

「小僧、魔王様は遊びで行かれるのでは無いのだぞ! お前は大人しくしていろ」

「レインボーの言う通りだ、ここで待っているのだ」


 レインボーとゴリアテにそう言われ、アドニスは不貞腐れる。


「では行ってくる」

「「「「いってらっしゃいませ、魔王様」」」」


 四天王に見送られ、ミミズさんが移動を開始し、私もミミズさんに引っ張られて森の中にへと入った。








 ――森の中を移動する事一時間、ミミズさんは大樹海の南西側に来ていた。

 先程、ミミズさんから離れられるギリギリまで上に上がった時に北東方面に例の巨大樹が見えたので、間違いはないだろう。


 そのまままっすぐ進むと、前方に大きな物体が見えて来た。


『あれは……蟻塚か?』


 蟻塚とは、アリやシロアリ類が地中から地上へ小高く盛り上げてつくる巣での事だ。

 内部は多数の小室と入り組んだ通路からなり、女王を中心に数万以上の構成員が社会生活をしているのだ。


 アリ類で塚をつくる種は少なく、日本ではエゾアカヤマアリと言う種が北海道から本州中部山地にかけて分布し、カラマツ林や草地などに針葉樹の葉や枯枝や土などを積み上げ最大で直径2メートルの物までを作るのだ。

 この蟻塚はその下にある巣の延長としての機能のほかに、巣の保温と雨水の浸入を防ぐ機能も備えているのだ。



 今私達の目の前に見える蟻塚は高さ五メートル、直径は数十メートルはある。

 凄い……これ程大きな蟻塚は見た事が無い……


 私が蟻塚に見惚れていると、ミミズさんが蟻塚に近づいて行く。

 すると、蟻塚の入り口の穴から、何かが次々と出て来た。


 ! あれは……人型の、虫。


 そう、蟻塚から出てきたのは、虫を人の形に収めた生命体だった。

 虫の頭部に固い甲殻に覆われた身体、腕は四本、指は親指と大きな指二本だけ。


 そうか……これがミミズさんの話で聞いた種族……。


『蟲人……』

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