第185話 異端Ⅶ
――三日後、バロムはいつも通り廃城の外の訓練場に向けて歩いていた。
「一体何が……」
「分からん、だがあのお二人が共に行くなどただ事では……」
「……?」
訓練場に到着すると、集まっていたザハク達が何か話し合っていた。
「どうしたんだザハク、何かあったのか?」
「バロム様、いえ実は今朝方ギリエル様がビャハ様と数名の戦士達を連れていたのを見たのです」
「ギリエル様がビャハを?」
「はい、確かビャハ様が『鼠狩り』とか何とか言っていたような……」
「鼠狩り……?」
バロムの胸に疑問が浮かぶ。
ギリエル様が態々ビャハを連れて直接何処かに行くなど、殆ど無い。
それこそ人間の国を襲撃する際にしか……
バロムの脳裏に三日前のビャハの不敵な笑いが思い出された。
人間を襲撃、鼠狩り……まさか。
バロムはザハクに問いかける。
「ザハク、ギリエル様達はどちらに向かわれたか分かるか?」
「はい、確かここから北に向かっていたような……」
マモン森林の北部、そこには―
「―ッ!」
「バロム様!?」
自らが最も恐れていた事が起ころうとしている事を悟ったバロムは、一目散に北に向かって走り出した。
「頼む……間に合ってくれ……!」
バロムは無我夢中で走り続ける。
己の両足が悲鳴を上げ、限界をとっくに超えていようと構わず、数時間走り続けた。
――そして、北部の隠れ集落に辿り着いたバロムが見たのは……血だらけで地面に倒れ、絶命している人間達だった。
バロムの胸に言いようの無い悲しさと虚しさが湧いてくる。
「ビャハハハハハハハハッ! 何だバロム、お前も来たのかよぉ」
バロムの元に、ビャハが人間の死体を引き摺りながら、とても愉快そうな笑い声を上げて歩いてくる。
「だがちょっと遅かったなぁ、あと少し早ければお前もこの人間達を殺せたのによぉ?」
そう言ってビャハは人間の死体をバロムの足元に投げ捨てる。
その死体は、三日前にバロムと話していた人間だった
「……」
「それにしても、まさか人間共がこのマモン森林に潜んでやがったとはなぁ……俺が『偶然』見つけたから良かったが、もし見つけられなかったらいつか俺達の城に攻め込んでいたかもしれねぇなぁ……」
ビャハわざとらしく、そして愉快そうに話し続ける。
バロムはただじっと、拳を握り締める。
「なぁバロム、これは俺の推測なんだけどよぉ……この人間達は誰かの手引きでここに隠れ潜んでたんじゃねぇかぁ? ビャハハハハハハハハ」
バロムを見ながら、わざとらしく笑い続けるビャハ。
そんなビャハに対し沸々と憤怒の感情が湧き上がり続け、バロムは腰の剣に手を掛ける。
「ビャハ、何をしている」
そこにギリエルが魔人達を率いて、バロム達の元に歩いてくる。
「ビャハハハハハハハハ、いやちょっと世間話をしてたんですよ」
「バロム、何故貴様がここに居る」
「それは……」
「突然現れたんですよ、この場所の発見はギリエル様にしか話してないはずなのに」
「……ビャハ、つまりバロムはこの場所を知っていたと?」
「ええ、ひょっとしたらここに居た人間達はよぉ……お前が連れて来たんじゃねぇか? バロム」
「……」
ビャハの言葉にバロムは否定も肯定もせず、沈黙し続ける。
「沈黙は肯定と受け取るぜぇ……」
「待てビャハ」
ギリエルが槍を構えるビャハを制した。
「バロムがこの場所に人間を匿っていたのが事実だとしても、私はバロムを咎めん」
「!?」
バロムは驚き、ギリエルを見た。
「寧ろ私はバロムに感謝している、態々遠征を行わずに『物資』を手に入れることが出来たのだからな」
「ビャハハ、確かにそうですが……」
「『物資』……?」
「では全員、城に戻るぞ」
「ギリエル様!」
ギリエルが城の方角へ歩き始めるが、バロムがそれを止めた。
「貴方は先程物資と言われた……私は今まで人間の国を襲っていたのは、人間を滅ぼすためであると同時に食糧などの物資を手に入れるためだと思っていました……しかし先程の貴方の言葉で分かりました……物資とは、『人間』の事なのですね?」
「……」
「……ギリエル様、人間が物資とはどういう事なのですか……一体、人間の死体で何をしようと言うのですか?」
「……良かろう、教えてやる」
「ビャハハハ、良いんですかぁ?」
「構わん、バロムの心には迷いが見える」
「っ……!」
自らの心を見透かされ、バロムは一瞬動揺する。
「これを気にその迷いが断ち、真に心から魔人王様に仕えるようになるだろう……行くぞ」
「行く? 一体何処に行くのです?」
「お前が知りたい事……そしてお前を含む魔人族の総てが分かる場所……『後宮』だ」
――廃城、後宮への入り口前。
ギリエルによって扉が開かれると、目の前に地下に続く階段が現れた。
「これは……?」
「付いてこい」
ギリエル、ビャハの後を追い、バロムも階段を下りていく事数分、バロム達は地下室へと到着した。
「!? な、何だこれは……」
そこでバロムが目にしたのは、無数に並ぶ全長2メートルはある巨大な蝶の蛹だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます