第184話 異端Ⅵ
――バロムが見守る中、廃城の外で多くの魔人族が訓練を行っている。
「次、素振り二百回、始め!」
「良いか! 一撃に全ての力を込めて振り下ろすんだ!」
「状況に応じてどんな武器でも使いこなす事が大事だ、まずは武器の特性を……」
その中にはザハク、ディオス、ゼキアの三人もおり、それぞれ魔人達の指導をしていた。
「……」
「バロム、今日も訓練は活気溢れているな」
バロムの背後からヴィシャスが声を掛けた。
「……」
「バロム?」
「っ! ああ、ヴィシャスか……どうしたんだ?」
「いや、見物に立ち寄ってみただけだが……どうした? ボーっとして……お前らしくもない」
「すまない、少し考え事をしていたんだ……」
「……また本音を隠しているわけじゃないな?」
「ああ」
「なら良いんだ、しかし相変わらずお前が訓練している者達は質が良いな」
「私だけではない、彼らが手伝ってくれているからこそだ」
「ザハク達か、確かに彼らは優秀だ、ザハクはいずれ俺の部隊の副将を任せようと思っているし、ディオスとゼキアもデスラーの部隊で活躍していると聞いている」
「ああ……彼らが成人してもう百年、立派に育ってくれたよ……」
「ヴィシャス様! ここに来られるとは……何かあったのですか?」
バロムとヴィシャスが話す中、ザハクがヴィシャスに気付き、バロム達の元にやって来る。
そして訓練していた魔人達も、遠目にバロム達を注視する。
「用と言うほどでも無い、ただ立ち寄っただけだ……それじゃあバロム、俺はこれで」
「ああ……よし、今日の訓練はここまでとする、一同しっかりと身体を休めるように」
『『はい、先生っ!』』
バロムの一言で訓練は終了し、魔人達が散らばる。
「ザハク達もお疲れ様、君達のお蔭で助かっているよ」
「いえ、私達も好きでやっていますので」
「先生のお役に立てるならこれ程嬉しいことはありません!」
「私達を鍛えてくれた先生への恩返しになるなら、私達は喜んで手伝います」
「……ありがとう、君達には本当に感謝しているよ」
バロムの言葉を聞き、ザハク達が照れくさそうに頭を掻いた。
「も、勿体無きお言葉ありがとうございます……」
「その言葉だけで、私達はいくらでも戦えます」
「本当にありがとうございます……ではバロム様、俺はこれで失礼します」
ザハクはバロムに一礼し、急ぎ足で何処かに向かって行った。
「何か急いでいるように感じたが……何かあったのか?」
「恐らく、妹の稽古に向かったのでしょう」
「妹? ザハクに妹は居ないはずだが……?」
「実は数年前に集落の一つで少女達と遊んであげていた所、そのうちの一人にいたく懐かれたらしくザハクの事を兄と呼んで慕っているのです」
「ほぉ……」
「その子はザハクの様な立派な戦士になりたいと言ってまして、ザハクが稽古を付けて上げているんです」
「しかし、魔人族の女性の役目は子を産む事……可哀想だがその少女の夢を叶えることは……」
「はい、無理でしょうね……ですがあいつは、ザハクは変えると言っていました」
「変える?」
「はい、あいつは自分が戦功を上げ、将となり女も戦士になれる様にすると……夢のような事ですが、あいつは本当に実現させるつもりです」
「まぁ私はそのような事が出来るわけ無いと思いますがね」
「そう言うなゼキア、ザハクはやると言ったらやる男だ、あいつならもしかしたら……」
「……変える、か」
そう呟くと、バロムはディオス達に背を向けて歩き始めた。
「ディオス、ゼキア、私はこれから出掛ける、もし私の事を聞かれたら言っておいてくれ」
「分かりました」
「いってらっしゃいませ、先生」
――歩き続ける事数時間、バロムは廃城から最も離れた森林の北部へとやって来ていた。
バロムの訪れた場所には、木々に紛れて隠されている住居が幾つも存在していた。
その幾つもの住居から次々と人が出てきて、バロムの元に集まる。
「おお……バロム様」
「バロム様が来られたぞ」
「バロム様」
「バロム様……」
住居から出てきた者達の額には角が無い、この場所に住む者達は皆人間だった。
実は数十年前より、魔人族が人間の国や町を襲撃した際にバロムは生き残った人間を保護、秘密裏にマモン森林にこの隠れ集落を作り、住まわせていたのだ。
「皆元気そうでなによりだ、今日は干し肉と水を持ってきた、皆で食べるんだ」
「おお……ありがとうございます、ありがとうございます」
「バロム様にはどれだけお礼を言っても足りませぬ……」
「……礼など不要だ、元々私達がお前達の国や町を襲ったせいでこのような生活をさせているんだ……恨まれる事はあれど感謝など……」
「……バロム様、確かに我々は魔人族によって故郷を奪われました……ですがバロム様が助けてくれなければ、数十年前のあの日、私は殺されていたでしょう……他の者だって同じです、貴方様が皆の運命を変えてくださったのです」
「私が、変えた……?」
「はい、ですから私達はバロム様を恨んだりはしません、この先どのような事になろうとも絶対に……」
「そうか……」
―二時間後、バロムは隠れ集落を離れ、廃城への帰路を歩いていた。
「……私が、変えた……」
バロムはあの時のロディアの言葉を思い出す。
『思ってしまうのです……私達には他の生き方は出来ないのかと、城に閉じ込められず、この森を出て世界を知りたい……色々なモノを視て、他種族とも交流してみたいな……と』
「……百年前のあの時、私が行動していれば……彼女の願いを、生きる道を変えられて……」
そう言いかけ、バロムは途中で口を閉じ、自分自身に嫌気が刺しながら拳を強く握りしめた。
「今更、後悔してどうするんだ……何も出来ない癖に……!」
―廃城まで戻って来たバロムは、廃城近くの集落に顔を出しに向かった。
集落に着くと、何時もと違い集落内が騒がしかった。
バロムは何事かと思ったが、直ぐにその理由が分かった。
「よぉ、おかえりバロム、ビャハハハハハハ」
「……ビャハ、何故お前がこの集落に居る」
「別にいいだろ? 集落に入っちゃいけないなんて決まりは無いんだからよぉ、」
「……それは分かっている、私は今まで一度も集落に来たことの無いお前が何故今になって急に来た理由を聞きたいのだ」
「ん~? 別に理由なんて無ぇよ、ただ来たいから来ただけだよ、ビャハハハハハハ! ……でお前は何処に行ってたんだぁ?」
「……ただの散歩だ」
「散歩ねぇ……まぁ良いや、それじゃあ俺はこれで帰るとするかねぇ、ビャハハハハハハ……」
ビャハは不敵な笑みを浮かべながら、集落から出て行った。
その後姿を見て、バロムは何か嫌な胸騒ぎを感じた。
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