第181話 異端Ⅲ

―数百年前、とある小さな国。














「きゃああああああああああ!」


「逃げろぉぉぉぉぉぉぉっ」


「助けてぇぇぇぇ」





国の至る所から炎と煙が舞い上がり、人々は逃げ惑う。





「ビャハハハハハハハハハッ! 逃げろ逃げろぉっ! もっと速く走らねぇと殺されちまうぜぇ?」





鮮血を浴びながら、六色魔将、赤のビャハは愉快そうに笑いながら人々を惨殺していく。





「あぁ……やっぱ弱者をいたぶるのは最高だぁ……」


「おのれ……皆の者、あの者を討ち取れぇぇぇっ!」





国の兵士たちが槍を構え、ビャハに突撃する!





しかしビャハは兵士達の攻撃を容易く避け、槍で兵士を貫き殺し、恍惚の笑い声を上げた。





「ビャハハハハハハッ! 良いねぇ、逃げる奴を殺すのも良いが、向かってくる奴を殺すのも最高だぁ! ビャハハハハハハハハハハハ!」


「よ、鎧ごと……」


「無理だ……こんな化け物に勝てるわけがあびぁあ!?」





ビャハは戦意を失った兵士の頭部を貫き、その鮮血を浴びながらさらに兵士たちを殺していく。





「どうしたぁ? これで終わりなのかぁ? まだまだ殺したりねぇよぉ! ビャハハハハハハハハハ!!」





魔人族の襲撃により国は人々の阿鼻叫喚が響き渡り、まさに生き地獄と化していた。























「た、頼む、私はどうなっても良い……妻と娘達の命だけは助けてくれ」


「……」





城から逃げ出そうとしていた国王と王妃とその娘達に剣を向ける紫の鎧の男。


その足元には首の無い兵士達の死体が転がっていた。





「頼む……」


「……」





懇願する国王を見た後、男は王妃と娘達を見る。


王妃は震える手でまだ幼い娘達を抱きかかえ、娘たちは恐怖で涙を流していた。





「……っ」





男は剣を鞘に納め、道を空けた。





「―行け」





男の言葉に目を見開き驚く国王。


国王は男を警戒しながらも、王妃と娘達と共に城から逃げていった。





「……私は、何をしているんだ」





男は強く握りしめた拳で、壁を殴った。



































―数時間後、城は崩壊し、町には人々の死体で溢れかえっていた。


その光景を、男はじっと見続ける。





「……」


「ふふふふふ……どうしたんですかぁバロム?」





後ろから六色魔将、青のプロストが男―……バロムに話しかけてきた。





「何か嫌な事でもありましたかぁ? もし良かったら気分転換に私が作っている魔道具を貸してあげましょう、それで人間を数人殺せば、気分爽快間違いなしですよぉ」


「……お前は分かって言っているのか?」


「何がですかぁ? ……ああ、ひょっとしてあなたが人間を殺して憂鬱になっていることですか?」





プロストがそう言った瞬間、バロムは剣を抜き、プロストの喉元に突き付けた。





「おお怖い怖い、このままだと私、仲間に殺されてしまいますねぇ」


「……十人」


「はい?」


「私がこの戦で殺めた人間の数だ……」


「たったの十人……それだけの数で憂鬱になっていたんですかぁ? やはり貴方は異端ですねぇ」


「人を殺めた事に疑問を思わない貴様達の方が……!」


「バロム、何をしている」


「! ……ギリエル様」





六色魔将、黒のギリエルがバロム達の元に歩いてくる。





「貴様の剣は仲間に向けるための物ではあるまい、下げろ」


「……はい、申し訳ありません」





バロムはプロストに向けていた剣を下げ、鞘に納めた。





「ふぅ、危ない危ない……所でギリエル様、何か御用ですかぁ?」


「ビャハを探しているのだ、奴は何処に居る」


「はて、私は知りませんがねぇ……」


「ビャハハハハハハ! 俺ならここに居ますよギリエル様!」





血塗れのビャハが高笑いを上げながらギリエル達の元に歩いてくる。





「ビャハ、今まで何処に居た? 作戦が終わり次第私の元に来るように言っていたはずだぞ」


「ビャハハ……申し訳ありません、少々狩りを楽しんでしまって……」


「狩りだと?」


「ええ、見てください」





ビャハは左手を上げ、何かをギリエル達に見せた。


ソレを見たバロムは絶句する。








―ビャハが見せたのは、バロムが逃がした国王の首だった。





「逃げ出している馬車があったんで追って見たら、なんとこの国の王族だったんですよ、で馬車をぶっ壊して追い詰めたら「妻と娘達の命だけは助けてくれ」とかほざいてましたけど……皆殺しにしてやりましたよ! あの時のあいつらの表情ときたら……ビャハハハハハハハハハ!!!」


「良くやったぞビャハ、魔人王様もお喜びになるだろう……行くぞ」


「ギリエル様」





ビャハ達に背を向けて歩き出したギリエルを、バロムが止めた。





「……少しだけ、時間をください、直ぐに戻りますので……」


「……良かろう、帰投は一時間後だ、それまで好きにしろ」


「ありがとうございます」





ギリエルに頭を下げた後、バロムはビャハに詰め寄る。





「その馬車は何処にある」


「あ? 東の方だが……それがどうした?」





それだけを聞き、バロムは東に走っていく。





「何だぁ? あいつどうしたんだ?」


「本当、異端ですねぇ……ふふふふふふ……」






































東に走り続けたバロムは馬車を発見し、その惨状に拳を握りしめた。





首の無い国王の身体と、王妃の身体には幾つもの刺し傷が見られ、王妃は絶望の表情を浮かべたまま絶命している。


娘達に至ってはもはや『人の形すらしていない』。





一体どれほど惨たらしい事が起きたのか、想像するのが躊躇われる。





「……」





バロムは無言のまま、自らの手で地面を掘り始めた。


そして大の大人が二人は入る大穴に、国王と王妃の遺体と娘達『だったモノ』を入れ、埋葬した。





「……私は」





バロムは膝を着き、空を見上げる。








「――私達は、一体何なんだ?」

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