第179話 異端Ⅰ
そう言うと男は私達に背を向けて歩き始め、森の更に奥に向かう。
「……どうする? ミミズさん?」
「……何者かは知らないが、とりあえずついて行くしかあるまい」
「それしかないでしょうね、ただし警戒は怠らぬように」
ミミズさんと魔鳥王の言葉を聞き、私達は男の後をついて行く。
「―おいお主、さっき『彼女』と言っておったが、魔植王の遣いと言うことで良いのか?」
男について行く中、ミミズさんが男に質問した。
「遣いか……まぁそう思ってくれて構わないよ」
「ほぅ……遣いならば当然魔植王の名は当然知っているのじゃろう? もし分からぬというなら……」
「イグドリュアスだろう?」
「! ……魔植王の名を知っているということはどうやら本物のようじゃのう……」
「貴方が彼女の知る魔蟲王か……成程、どことなく叡智を感じると思ったが……」
「叡智ぃ?」
「おいコラヤタイズナ! 何故そこで怪訝な声を出すのじゃ!?」
「新たなる魔蟲王、貴方の反応は間違ってはいませんよ」
「貴様までそう言うのか!?」
「ははははは……」
「遣い! 貴様まで笑うんじゃない!」
「いや失礼、こんなに賑やかなのは久しぶりでね……人と話すのも何年振りだろうか……」
男は物思いにふけながらも、歩みを止めずに進んで行った。
―数分後。
「到着だ」
更に森の奥に進んだ私達は、中心地から少しずれた場所に到着した。
「これは……」
そこで私達が見たモノは、全長10メートル程の老木だった。
中央の巨大樹程ではないが、とても立派だ。
私はその老木に鑑定してみると、ステータスを確認することが出来た。
ステータス
名前:イグドリュアス
種族:ユグドラシル
レベル:500/500
ランク:S
称号:魔植王、見守る者
属性:植
スキル:癒しの光、治癒の蔦、蓄積
エクストラスキル:大地の怒り、命の種
ユニークスキル:植物召喚、魔植の加護、魔植の闘志、魔植の恩恵
この老木が魔植王……
ユグドラシル……確か北欧神話に登場する架空の木で、世界を体現する巨大な木であり、九つの世界を内包する存在とされる木だったはずだ。
「この感じ……間違いなく彼女ですね」
「随分と姿が変わってしまっているがのう……おーい魔植王ー!」
……………
「むぅ? おい魔植王! この儂達が来てやったというのに、無視するとはなんじゃ!」
……………………
「魔植王! 魔植王ーっ!!」
ミミズさんが魔植王に叫び続けるが、魔植王に反応は無かった。
「貴様いい加減に……」
「待ちなさいミミズさん、確かに彼女は魔植王です……ですが今の彼女からは意志を感じられません」
「なんじゃと? おい遣い、どういうことじゃ!」
「落ち着いてくれ、彼女は眠っているだけだ」
「眠っているじゃと?」
「一体どういうこと?」
「彼女は力を蓄えるために活動を停止させ、休眠状態に入っているんだ、君達が来たら必ず自分の力を頼るだろうとね」
「成程……だから私達の案内をゴールデンとゴリアテに任せ、ボタニックに北の森を守らせていたのか」
「じゃが、ボタニックは儂らの事も襲ったぞ? それはどういうことなのじゃ」
「ボタニックは明確な意思を持たない植物魔物だ、命令も中心部に近づく者の排除しか任されていなかったからね」
「だから私達も襲ったわけか……」
「そういうことだ、そしていま彼女は君達の存在を感じ取っているはず……もうじき目を覚ますだろう」
「やったねミミズさん、これでミミズさんの本当の記憶が分かるね」
「うむ……じゃが一つだけ気がかりがあってのう」
「気がかり?」
「うむ、何故魔植王は儂らが来る事を分かっておったのじゃ? 魔鳥王のように未来を視る力を持っていないというのに……そこが気にかかってな」
「言われてみればそうだな……」
本当に、何故魔植王は私達が来ると確信していたのだろう……そこが分からなければ今までの事は辻褄が合わない。
私がそう思っていると、遣いの男がこう言った。
「それは私が彼女に教えたんだ」
「……え?」
「何じゃと?」
「魔人族が魔人王復活のために動いていること、そして六大魔王の持つ石を狙っているとね……そして彼女は私の話と自身の記憶などを照らし合わせることで大方の事を理解したんだ、そしてゴールデン君とゴリアテ君の死体を蘇生させ、君達が来るまで眠りについたというわけだよ」
「な、何故魔人王と魔封石の事を!?」
「いやそれだけではない! ゴールデンとゴリアテが死んだのは今から千年前なのじゃぞ!? こ奴の言うことが事実ならこ奴は数百年は生きとる事になるぞ!」
た、確かにそうだ……人間が数百年も生きられるはずが無い!
「おい貴様、一体何者じゃ!」
「……これはすまない、そういえば自己紹介がまだだったね」
そう言うと遣いの男は頭のローブを取った。
男の額には、根元近くまで折れている三本の角があった。
「私の名はバロム、六色魔将『紫』の将と呼ばれていた男だ」
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