第177話 北の森Ⅳ

「《炎の角》!」





私が炎の角で無数のボタニックの蔦を焼き切っていく中、前方から複数のハエトリソウが襲い掛かってくる!





「《風の大顎》!」





ガタクが私の前に出て、襲い掛かるハエトリソウ達を左大顎の風の大顎で切断、ハエトリソウ達が地面に落下する。





「助かったよガタク、前よりもキレが増しているな」


「殿にそう言っていただけて嬉しいで御座る!」





私に褒められたガタクが嬉しそうにする中、再びボタニックの蔦とハエトリソウが私達に襲い掛かる!





「《斬撃》、《操炎》!」


「《鎌鼬》!」





私の炎の分裂斬撃とガタクの鎌鼬で蔦とハエトリソウは次々と切り刻まれていく。








(《風の羽》!)





パピリオが風の羽で蔦とハエトリソウを吹き飛ばすがあまり効果が無いようで、次々とハピリオに向かってくる。





(き、効いてないー!? きゃああああー!?)


(パピリオあぶなーい!)





スティンガーがハピリオを襲おうとした蔦を鋏で掴んで切り落とす。





(《大鎌鼬》!)





ドラッヘが大鎌鼬でハエトリソウを細切れにする!





(だいじょうぶーハピリオ?)


(ありがとうスティンガー……私今回は役に立たないみたいです……)


(確かにそうっすね、お前は非常食共の護衛に参加してろっす)


(それが良いみたいですね……)





ドラッヘの言葉を聞き、パピリオがミミズさん達の元に移動する。





(ドラッヘー、もうちょっといいかたきをつけないと、しんぱいしていってることがつたわらないよー?)


(うるさいっすね! 別に心配していったわけじゃねぇっすよ、んなことよりまた来たっすよ! 《大鎌鼬》!)





ドラッヘの大鎌鼬が次々と蔦を切り裂いていく!





(行くぜぇティーガー! 《水の鎌》!)


(了解ですカヴキ、《岩の鋏》!)





カヴキとティーガーが襲ってきたハエトリソウを同時に切り裂いた!








(ガーディアント部隊、前へ!)


『ギチチチィィィィィィ!』





ガーディアント達の頭部に蔦が巻き付く。





(ソーアント部隊、今であります!)


『ギチチィ!』





ガーディアント達の後ろからソーアント達が飛び出し、顎で蔦を切断する!





(よし、この調子で向かってくる蔦共を排除して行くであります!)


『ギチチチィィィィィィィィ!!』





レギオンの指示でアント達は蔦を排除し続け、その背後でミミズさんとバノン、パピリオとベル、ゴールデンとゴリアテ、エンプーサが居た。





「《岩の槍》!」





ゴリアテの周囲の地面が盛り上がり槍の形を形成、蔦とハエトリソウ達目掛けて撃ち出される!


岩の槍が直撃したハエトリソウ達はドデカい風穴が空き、次々と地面に倒れ落ちた。





「すげぇ……」


「久しぶりに見たが、相変わらず凄い威力じゃのう」


「ほんまですなー」





ゴリアテの戦いをミミズさん達が守られながら見ている。





「と言うかゴールデン、お前も戦わんか!」


「いやいや無理ですよー……自分のスキルはああ言うタイプには意味ないんですってー」


「そういえば、そうじゃったな……相変わらずこういう時には役に立たん奴じゃ……」


「今の魔王様に言われたくないですわ」


「何じゃとぅ!?」


(非常食さん達うるさいですよー)


(この事態で喧嘩できる余裕があるというのは良いことなんですが、騒がしいのは駄目ですよ)





そう言いながらベルは闘志の鈴音を鳴らし続けている。





「……」





そんな中、エンプーサは黙々と暴風の鎌で蔦とハエトリソウを切っていた。











「はぁぁっ!」


「せやぁぁぁぁっ!」





私とガタクがボタニックの蔦とハエトリソウをあらかた切り落とすと、森が再びざわざわと鳴動し始めた。





すると今までの蔦とハエトリソウの他に茨のように棘が生えている蔦、袋状の植物に毛のようなモノが生えている葉が出現した。


あれは……恐らくウツボカズラにモウセンゴケだな。





ウツボカズラはウツボカズラ科の植物で学名をネペンテスと言い東南アジアに比較的広い分布している落とし穴方式の食虫植物で、和名の由来は矢を入れる靫うつぼに姿が似ていることからついたそうだ。





この袋は捕虫器と呼ばれるもので、中に落下してしまった不運な虫などをじわじわと溶かしながら栄養を吸収することが可能なのだ。


一部の種では虫を誘い込むため、蜜の匂いを発してハエなどの昆虫をおびき寄せたりもする。





捕虫袋のフチの周りはググっと反りかえっており、そこに止まった虫が脚を滑らせやすくなっていて、ひとたび脚を滑らせてしまうとツルツルした袋の内側に足を取られて消化液の中に落ちてしまうという仕組みだ。





ちなみに、ウツボカズラの上部についているフタのような葉は、雨水が捕虫袋入りにくくする構造をしているだけなので、虫が入ったら閉じるような動作は一切しない。








そしてもう一つの毛のようなモノが生えている植物はモウセンゴケ、モウセンゴケ科モウセンゴケ属に分類される多年草の1種で粘着式トラップの食虫植物だ。





北半球の高山・寒地に広く分布しており、日本では北海道から九州まで湿地帯に自生している。


葉っぱの表面に腺毛せんもうと呼ばれるに長い毛がありその先端から甘い香りのする粘液を出し、これに釣られてやってきた虫がくっつくと、粘毛と葉がそれを包むように曲がり虫を消化吸収するのだ。





日当たりのよい場所に育つ種では、粘毛は赤く色づき、一面に生育している場所では毛氈を敷いたように見えることから、毛氈苔とも呼ばれている。











ハエトリソウ含めたこの植物はボタニックのスキルにあった棘鞭、捕食袋、捕食葉、捕食毛だろう。


しかしあのウツボカズラもモウセンゴケもハエトリソウと同じで獲物を待つようなモノではないだろう……





ウツボカズラのフタのような葉にはハエトリソウの二枚葉についている牙状のモノがついているし、モウセンゴケの葉うねうねと蠢いている。





蔦とハエトリソウに茨も含めれば相当厄介だな……せめてこれらの植物を操るボタニックの本体が見つかれば良いのだが……





「殿! 来るで御座る!」





ハエトリソウ、ウツボカズラ、モウセンゴケ、蔦と棘蔦が一斉に襲い掛かって来る!





「《斬撃》、《操炎》!」


「《鎌鼬》!」





私とガタクは再び分裂斬撃と鎌鼬で食虫植物達を切断していくが、幾つかの植物が斬撃と鎌鼬を避けて私達に突っ込んでくる!





「ちぃっ!」





私とガタクはそれぞれ左右に跳び、植物達を回避する。


すると再びあの甘い香りが漂ってきて、体に脱力感が襲ってくる。





「ぐぅっ、また体が……くっ!?」





動きが鈍った隙を突かれ、モウセンゴケが私の身体に絡みついた!





「殿っ! ぬああああああ!?」


「ガタクっ!」





私に気を取られたガタクもフタを大きく開いたウツボカズラに飲み込まれてしまう!


絡みついたモウセンゴケの粘毛から粘液が分泌されて私の気管を塞ごうとしている。





「させるか……《炎の角・鎧》!」





私は炎の角・鎧で全身を炎で覆ってモウセンゴケの粘液を蒸発させ、そのまま燃やし尽くした。





「ふぅ……そうだガタクは!?」





私はガタクが飲み込まれたウツボカズラを見ると、袋の部分から複数の斬撃が飛び出し、その切れ目からガタクが脱出した。





「ガタク、大丈夫か?」


「ご安心を、中の液体に触れる前に脱出してきたで御座る、それよりもまた来たで御座る!」





食虫植物達が私とガタクを取り囲み、ミミズさん達の方にも大量に出現していた。


このままでは埒が空かない……どうすれば……





そう思った時だった。


急に風が吹き始め、どこかに集まっていく。





これは……まさか!?





私は背後を見る。


そこには両前足を天に掲げ、体に風が纏われているエンプーサの姿が見えた。





「な、何をする気じゃお前!?」


「ま、まさかとは思うけどアレを……」


「なんや? この風はなんなんや!?」


「……さっきからちまちまとつまらん植物たちとの相手ばかり……もう飽きた、この植物どもは我が一気に始末してくれる!」





まさかエンプーサの奴、死神の暴風刃を!? 不味い!





「皆っ! エンプーサから離れるんだぁぁぁっ!」





私の叫びを聞いてミミズさん達はエンプーサから離れて周囲に逃げ始めた。





「切り刻まれろ、《死神の暴風刃》!!」





エンプーサが両前脚を振り下ろし、纏われていた風が一つに集まり巨大な竜巻が出現する!

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