第174話 北の森Ⅰ
南の森に戻って来た私は、早速北の森に向かうメンバーを決めていた。
「ゴールデン、『北には絶対近寄るな』って歌にあったけど……北の森はどんな所なの?」
魔植王の居場所を知っていると言う事は、ゴールデン達は北の森に入った事があるはずだ。
北の森の特徴さえ分かれば同行させるしもべ達をすぐに決められる。
しかし……
「いやー、それが……なぁ?」
「ああ、俺達も生き返ってからは一度も北の森に入った事は無いんだ」
「なぬぅ? では何故お前らは魔植王の居場所が分かるのじゃ?」
「よう分からんけど、何故か魔植王様があっちにいるって頭で分かるんや」
「ゴールデン、お前こんな時にアホみたいな事を……」
「いえ魔王様、ゴールデンの言っていることは本当です、俺にも魔植王様が何処に居るのかが何故か分かるのです」
「おそらく魔植王が彼らを生き返らせた際に体に何か仕掛けを施したのでしょう、彼女ならその程度の事は造作もないはず」
「成程……しかし結局北の森がどんな所かは分からずじまいか……」
「どうするのじゃヤタイズナ?」
「うーん……」
北の森……今まで旅してきた場所よりも危険な可能性もある……私にミミズさん、バノン、魔鳥王、そして案内役のゴールデンとゴリアテは確定として、後のメンバーはどうするか……
「殿ーっ!」
私が考えていると、ガタクが私の元にやって来た。
「話は聞いたで御座る、どうか拙者にお供させて欲しいで御座る!」
「ガタク、気持ちは嬉しいが今回は今までよりも危険な可能性がある、大顎を半分失い万全の状態じゃないお前では……」
「拙者は殿が旅をしている間、ずっと稽古していたで御座る! 新しい戦い方も編み出したで御座る、必ず、必ずやお役に立つで御座る!」
「ガタク……」
「お願いで御座る殿、拙者を連れて行って下され! 何卒、何卒……」
ガタクが頭を下げて私に必死に願いかける。
「……分かったよガタク、今回はお前も連れて行く」
「殿!」
ガタクがこれほどの熱意で頼んできているんだ、連れて行かないわけにはいかないだろう。
「頼むぞガタク」
「お任せあれで御座る! このガタク、命を懸けて殿のために戦うで御座る!」
ガタクは嬉しそうに答えた。
―その後考え抜いた結果、北の森に向かうメンバーを決定した。
今回連れて行くしもべはガタク、スティンガーとパピリオ、カヴキ、ティーガーにドラッヘ、ベル、レギオンとアント達5匹づつ。
そして今回はあいつも連れて行くことにした。
「エンプーサ、私だ! 出てきてくれ!」
私とミミズさんは東の森にあるエンプーサの棲み処へとやって来ていた。
棲み処の周囲には私の存在に気付いたエンプーサの手下のキラーマンティス達が平伏していた。
「くはははははははははは! ようやく帰って来たかヤタイズナよ! さぁ今すぐ我と戦おうぞ!」
私の元に現れたエンプーサが嬉しそうに高笑いしながら、両前足を頭上高く構え、戦闘態勢を取った。
「エンプーサ、悪いけど今日はお前と戦うために来たわけじゃないんだ」
「なんだと? 貴様から我の元に来たというのに戦わんと言うのか!」
「相変わらずの戦闘狂のようじゃのう……と言うかお前はヤタイズナのしもべじゃろうが、もう少しこやつを敬い、言う事を聞かんか」
「黙れ非常食、我は確かにヤタイズナのしもべとなった、しかし絶対服従するとは言ってはおらぬ」
「お、お前まで儂を非常食呼ばわりするな! 何でヤタイズナのしもべになった奴らは全員儂の事をそう呼ぶのじゃ!」
「非常食の事はどうでもよい、さぁ戦うぞヤタイズナよ!」
「だから戦わないって、今回はお前に同行してもらおうと思って来たんだよ」
「同行だと?」
私はエンプーサに北の森に向かう事を話した。
「成程北の森か……」
「ああ、何があるか分からない、だからエンプーサに一緒に来てもらおうと思ってね」
エンプーサは現在私のしもべの中で最強のしもべだ。
元東の森王であるエンプーサがいれば、大抵の魔物は倒せるだろう。
「くはははは……面白い! 良かろう、我も付いていくぞ」
「本当か! ありがとうエンプーサ」
「ただし此度の旅が終わり次第、我と戦ってもらうぞ、良いな?」
「分かった、約束する」
「北の森……どのような強敵と出会えるか楽しみだ! さぁ早く貴様のしもべ共が待つ場所へ行くぞ! くはははははははははは!」
エンプーサは愉快そうに歩き始めた。
「良いのかヤタイズナ? あのような約束を……」
「エンプーサの力は絶対必要だったからね、私との戦いの約束で借りられるなら安いもんだよ」
「しかしじゃのう……」
「それにしもべに対して寛容な精神を持つのも、立派な魔王には必要なんじゃないの?」
「……ふっ、確かにそうじゃのう、儂としたことが最近の扱いのせいで大事な事を忘れていたわ……お主から魔王の心得を再認識させられるとは……着実に立派な魔王への道を進んでいるようで何よりじゃ! この調子で精進するのじゃぞ」
「うん、勿論だよミミズさん」
私達とエンプーサはガタク達と合流し、北の森へと出発する。
「それじゃあ行ってくる、留守を頼んだぞ」
(はい、任せてください!)
(主殿の留守の間、何人たりとも近づけません)
(ご主人様の御無事を祈っておりますわ)
(俺、ご主人気を付けて、言う)
『ギチチチチィィィィィィィ!!』
「―しかしまさかエンプーサ殿が共に来てくれるとは、心強いで御座るよ!」
「まぁ我にかかれば雑魚共は一瞬で細切れになるだろう、それよりもだ……」
エンプーサがゴールデンとゴリアテを睨む。
「そいつらは誰だ?」
「そう言えばまだ紹介してなかったね、この二匹はゴールデンとゴリアテ、ミミズさんのしもべだよ」
「ゴールデンや、よろしくな」
「ゴリアテだ」
「ほう……中々強そうではないか、どうだ貴様等、我と戦わんか?」
「いやいや自分なんてあんさんの足元にも及びませんって、戦ってもつまんないと思うから止めた方がええで?」
「俺は無駄な戦いはしない主義だ」
「むぅ、つまらん奴らだ……まぁ非常食のしもべだからな、期待しても無駄だったか」
エンプーサの言葉を聞いたゴリアテが脚を止めた。
「貴様……魔王様の事を馬鹿にしたか?」
「ん? それがどうした? 所詮は魚の餌だぞ」
「魔王様を馬鹿にする奴は、この俺が許さん!」
「何か知らんがやる気になったようだな……さぁ戦おうか!」
ゴリアテとエンプーサが戦闘態勢に入る。
「あっちゃあ~……ゴリアテの奴本気で怒っとるわ……」
「ゴリアテ! 儂のために怒ってくれるのは嬉しいが、今は止めるのじゃ!」
「エンプーサも止めるんだ! 仲間同士で争うならあの約束は無かったことにするぞ!」
「……分かりました、魔王様が言うならば」
「ぬぅ、それは困る……仕方ない、今は大人しく従ってやろう」
一色触発の空気の中、私とミミズさんが止めに入り、事なきを得た。
「全く……エンプーサの奴め、先が思いやられるわ」
「ははは……でもミミズさんを貶されて怒りを露わにするゴリアテは本当に忠義者なんだね」
「当然だ、魔王様への忠義なら誰にも負けん」
ゴリアテは誇らしそうに答え、それを聞いたミミズさんは少し嬉しそうだった。
移動すること一時間、私達は大樹海中央に到着し、その先にある北の森の入り口にやって来た。
「さぁここからは未開の地、気を引き締めるのじゃぞヤタイズナ!」
「分かってる、ゴールデン達も案内よろしくね」
「任せといてや!」
「よし、それじゃあ北の森に突入だ!」
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