第168話 ガタクとファレナⅡ

―ヤタイズナ一行がバラス砂漠から旅立つ二日前。


ランド大樹海、東の森。











「ぐああああああっ!?」





エンプーサとの模擬戦を行っていたガタクが吹き飛ばされ、木に激突した!





「また我の攻撃を回避し損ねるとは……少しは成長したかと思ったとたんにこれか」


「ぐ、ぬぅぅぅ……何のこれしきぃぃ……気合いで御座る!」





ガタクは直ぐに態勢を整え空を飛び、エンプーサに向かって突っ込んで行く!





「《大鎌鼬》」





エンプーサの周囲に風の刃が現れ、ガタク目掛けて飛んで行く!





「ぬぅぅっ!」





ガタクは大鎌鼬を回避しつつ、エンプーサへと徐々に近づいて行く。





「《暴風》」


「ぐおおおっ!?」





しかし暴風で後方に吹き飛ばされ再び木に激突、そのまま地面に倒れてしまう。





「《暴風》」





そしてその隙にエンプーサが暴風で自らを飛ばしガタクに急接近、右の鎌をガタクの目の前に突き出した。





「今回も我の勝ちだ」


「む、無念で御座る……」





ガタクは起き上がり、エンプーサに礼をした。





「また明日もよろしくお願いするで御座る」


「もっと骨のある戦いをさせるのだぞ……ん?」


「エンプーサ殿、どうしたで御座るか?」





エンプーサが右を向き、一本の木を見つめた。





「《大鎌鼬》」





そしてその木に向かって大鎌鼬を撃ち出した!





「エンプーサ殿!? 一体何を―」





ガタクが驚く中、大鎌鼬が木に命中する瞬間、木の陰から人が飛び出した。





「……」


「あれは……ファレナ殿!?」





そう、木から飛び出した人の正体は冒険者のファレナであった。


エンプーサがファレナの元へ歩いて行く。





「……っ!」


「遅い」





ファレナが右手を構えようとした瞬間、エンプーサ右鎌がファレナの眼前に突きつけられた。





「人間、貴様我とこいつの戦いを覗き見ていたようだが……目的は何だ?」


「……」


「まぁ良い、殺すことに変わりはないからな……」


「待つで御座るエンプーサ殿!」





エンプーサが鎌を動かそうとしたのを、ガタクが止める。





「この者は拙者の知り合いで御座る、どうかここはその鎌を収めてもらえぬで御座るか?」


「……良いだろう、命拾いしたな」





そう言うとエンプーサは鎌を戻し、そのまま後ろを向いて歩き始めた。





「我は飯にする、貴様もさっさと巣に戻れ」


「分かったで御座る、ファレナ殿も行くで御座る」


「……ああ」





ガタクはファレナを連れて南の森へと戻り始めた。














「―しかしファレナ殿、何故あそこに居たので御座るか?」





帰りの道中、ガタクがファレナに問いかけると、ファレナが懐から袋を取り出し、中身を見せた。





「……東の森に生っている木の実を採取していたんだ、そして戻っていた時に君とあの魔物が戦う場面を見たんだ」


「成程……」


「あの魔物は確か東の森王と呼ばれている魔物だと聞いていたが……ガタク、君はあの魔物とはどういう関係なんだ?」


「エンプーサ殿は拙者と同じく殿に仕える者で御座るよ」





ガタクの言葉を聞いたファレナが目を見開く。





「仕える? 君の主はあの魔物を使役しているのか?」


「そうで御座る、あのエンプーサ殿との戦いは本当に凄かった御座る……」


「そうか……」





ガタクの言葉を聞いた後、ファレナは俯いて考えていた。





「ファレナ殿、どうしたで御座るか?」


「いや、何でもない……ところでガタク、先程の君の戦いを見て……何か焦りのようなモノを感じた」





ファレナの言葉にガタクは足を止めた。





「……そう見えたで御座るか?」


「ああ、少なくとも私にはそう見えた」


「そうで御座るか……」





しばらくの静寂の後、ガタクが口を開いた。





「……少し話を聞いてもらえるで御座るか?」


「……私で良ければ」





ファレナは近くにあった岩に腰を掛け、ガタクはその隣に移動した。





「拙者は殿の事を尊敬し、殿に一生仕えて行きたいと思っているで御座る……そのためには今よりももっと強くならねばならぬで御座る」


「ああ」


「そのためにはまず殿を見習って殿のような戦いをしようとしているので御座るが……これが上手くいかないので御座る……」


「……」


「早く強くなり、殿のお役に立ちたいと言うのに……どうすればいいので御座ろうか……」


「……『人にはそれぞれ出来る事と出来ない事がある』」


「?」


「『他人と同じことをしても上手くは行くとは限らない、それよりも自分が出来る事を見つけ、自分だけの「個」を磨き上げろ』……私と兄の先生が良く言っていた言葉だ」


「自分だけの『個』……」


「主の役に立ちたいと言う君の気持ちは分かる……けどガタク、君は君だ、主の真似なんかする必要はない、君だけが出来る事でその主の役に立てばいいんじゃないかな?」


「……確かにそうで御座るな、拙者は急ぐばかり大事な事を見失っていたで御座る!」





ガタクは翅を広げて空を飛んだ。





「ガタク!」


「拙者は自分が出来る事を考え、新しい戦い方を考えるで御座る! ファレナ殿、ありがとうで御座る!」





そう言ってガタクは巣へと飛んで帰って行く。





「ありがとう、か……」





ファレナは微笑を浮かべた後、森の中へと消えていった。
































―翌日、ガタクは東の森で再びエンプーサとの模擬戦を行おうとしていた。





「よろしくお願いしますで御座る!」


「……ほう、昨日とは気迫がまるで違うな……少しは楽しめそうだな……では行くぞ、《大鎌鼬》!」





エンプーサの周囲に無数の大鎌鼬が現れ、ガタクに向けて撃ち出される!





「……」





しかしガタクは動かず、迫る大鎌鼬を見つめている。





「何のつもりだ? まさかそのまま死ぬと言うのではあるまいな?」


「……!」





ガタクは片方しかない大顎で大鎌鼬を受け流し、右に逸らした。





「何?」





ガタクは次々と飛来する大鎌鼬を最小限の動きで受け流し続ける。





「力の流れに逆らうのではなく、利用し己が力とする……これが拙者の新たな戦い方で御座る!」


「我が大鎌鼬を全て受け流すとはな……面白くなって来たぞ、《暴風の鎌》!」





エンプーサは暴風の鎌を使いガタクに接近する!





「シャアアッ!」


「何のッ!」





ガタクはエンプーサの右鎌攻撃を大顎で左に逸らした。





「鎌はもう一つあるぞ!」





エンプーサは左の鎌をガタクの真上を振るう!





「予測していたで御座るよ」


「何ィッ!?」





ガタクは身体を捻らせて左の鎌を回避。





「《風の大顎》!」


「ガァァァッ!?」





そしてそのまま風の大顎でエンプーサの腹部を攻撃した!


エンプーサは悲鳴を上げ、腹部から体液が漏れ出す。





「入った……攻撃が入ったで御座る!」





ガタクが喜ぶ中、エンプーサが笑い出した。





「クハハハハハ……面白い、面白いぞ! やっと戦いがいが出てきたと言うモノだ……半分本気を出してやる、耐えてみるが良い!」























―30分後。








「ぐ、ぐぅぅぅ……」





ボロボロになり、地面に倒れているガタクと、自らの鎌を舐めて手入れするエンプーサの姿があった。





「……まぁ、今までで一番楽しませてもらったぞ、ガタクよ」


「そ、そうで御座るか……その言葉だけで新しい戦い方に変えてよかったと思えるで御座るよ……」


「その身体では動けまい、今回は我が貴様を送ってやろう」





そう言うとエンプーサはガタクを持ち上げ、翅を広げて空を飛んだ。





「その調子で強くなり、もっと我を楽しませるんだな」


「勿論で御座る……拙者は強くなり、殿のお役に立つので御座る……」





決意を新たにしながらガタクはエンプーサに運ばれて、南の森の巣へと帰って行った。






































「第88回次回予告の道ー!」


「と言うわけで今回も始まったこのコーナー!」


「ガタクも頑張っているみたいだね、その期待に応えるためにも私も頑張らないと!」


「さて次回は魔人共の話になるようじゃな……残り4人となった六色魔将がどう動くのか気になるところじゃな……」


「次回『暗躍する者達Ⅵ』!」


「「それでは、次回をお楽しみに!!」」





・注意、このコーナーは作者の思い付きで書いているので、次回タイトルが変更される可能性があるのでご注意下さい。


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