第167話 虫愛づる姫君の決心Ⅱ
「お母様ー!」
私はお母様に抱き着くと、お母様は私を優しく抱きしめてくれました。
「ふふふ、オリーブったら……そんなに私に会いたかったの?」
「勿論です! だって数ヶ月大好きなお母様と会えなかったんですよ、私はとても寂しかったです」
「お母さんも、オリーブと離れ離れで寂しかったわ」
そう言って、お母様は強く抱きしめてくれた。
久しぶりのお母様のぬくもりに、私は嬉しくて笑顔になりました。
「オリーブ、嬉しいのは分かるがそろそろ離れたらどうだ? 私はライラックと話があるんだ」
お父様がそう言われ、私は仕方なくお母様から離れようとするが、お母様が私を離しませんでした。
「ラグナ、私は今からオリーブとお茶にするわ、だから話は後でね」
「何だって? 今はそんな事より話を……」
「久しぶりの愛娘との一時なのよ? それをそんな事なんて言うなんて」
「むぅ……しかしだな」
「さぁさぁオリーブ、部屋で美味しい紅茶を飲みながらお話ししましょう」
「はい、お母様」
私はお母様に連れられて、自室へと向かいました。
「姫様ー! 王妃様ー!」
部屋に向かう途中、爺やが早歩きでこちらに向かってきました。
……そしてその後ろにはオオトリ様の姿もありました。
「クラウス、後ろの方はもしかして……」
「王妃様、こちらは勇者の一人、ユウヤ・オオトリ様で御座います」
「初めましてお義母様、おっと失礼、まだ結婚していませんからお母様と言うのは早かったですね」
そう言ってオオトリ様は笑顔を見せた。
……まだも何も、私は結婚したくないんですけど……
「ここで会ったのも何かの縁、庭で皆一緒にお茶でもどうですか?」
オオトリ様の言葉を聞いて、私は凄く嫌な気分になりました。
せっかくお母様と二人でお話しできると思ったのに……
そう思っていると、お母様が口を開きました。
「初めまして、貴方がオリーブの……話は聞いているわ、でも申し訳ないけど今は娘と二人で話したいの」
「そんなこと言わずに、僕とオリーブの将来の話もじっくりとしたくて……」
「やめなさい悠矢」
声を聞いてオオトリ様が後ろを振り向くと、アヤカ様とミズキ様、カイト様がこちらに向かって歩いてきた。
「初めまして王妃様、アヤカ・タチバナです」
「み、ミズキ・ワタナベです、は、初めまして……」
「カイト・モリヤマです、初めまして」
アヤカ様達がお母様に挨拶します。
「初めまして、この国周辺で活発化していた魔物達を退治してくれてありがとう、貴方達には本当に感謝しています」
「ありがたきお言葉です……悠矢、王妃様は数か月ぶりに娘と会えたのよ? 親子水入らずで話したい事がたくさんあるはず、話ならまた今度にしなさい」
「わ、私もそう思います……」
「今回は諦めろよ悠矢」
「……確かにそうだな、分かったよ……申し訳ありませんでした王妃様、話しはまた今度と言う事で……」
他の三人に諭されて、オオトリ様は諦めてくれたようです、アヤカ様達と共に私達の反対方向の廊下を歩いて行きました。
「それじゃあオリーブ、私達も行きましょう、クラウス、お茶菓子の準備をお願い」
「かしこまりました」
―私の自室に着き、部屋に入り私とお母様と椅子に座り、爺やがテーブルに紅茶とお菓子を用意する。
「では姫様、王妃様、ごゆっくり」
爺やが部屋から退出し、私とお母様は親子水入らずの会話を始めました。
「それでですね、ウィズがバノンさんと言う方を連れて来たんです、その方はヤタイズナさんと言うカブトムシさんを従魔にしていたんです!」
「まぁそうなの? それじゃあ念願のカブトムシさんをもう一度見られたのね」
「はい! ヤタイズナさんの前翅は触り心地は最高で……」
私はお母様に今まであった事を話した。
ヤタイズナさんに出会えたことや、他にも沢山の虫さん達に会えたことも。
特にヤタイズナさんの事を沢山話したけど、お母様は嫌な顔一つせずに聞いてくれました。
「……それでアルトランド王国でバノンさん達と別れて、それからはまだ会えていないんです」
「そう……アルトランド王国を守ってくれたのね……そのバノンさんには本当に感謝しなければいけないわね」
「あっ、ごめんなさいお母様、私一人で喋ってしまって……」
「ふふ、良いのよ? オリーブが楽しそうに話す姿はずっと見ていても飽きないから……そう言えば話を聞いて気付いたけど、今日ウィズちゃんは来ていないのね、普段ならほぼ毎日来ているのに」
「はい、今日ウィズは怪我人の看病をしているみたいなんです」
「怪我人? 何かあったの?」
「昨日国に戻る際に平原で倒れている人を見つけたそうで、応急手当をしてアメリアまで背負って来て昨日からずっとその人の看病をしているそうなんです」
「そうなの……その人元気になると良いわね」
「そうですね……所で、今度はお母様のお話が聞きたいのですが……」
「あらそう? 私の話はそんなに楽しくないわよ?」
「お母様のお話なら何でも楽しいです」
「ふふふ、それじゃあ話すわね……」
お母様はアメリア王国に嫁ぐ前から農作物について研究なされていました。
食物のための植物は勿論、家畜の飼料に肥料にする植物の事を調べ、これまで多くの農作物をアメリア王国にもたらした凄いお母様なのです。
それで今回は他国の農作物や栽培方法を調べるために、護衛を連れて旅立たれていたのです。
「……あの国の栽培方をアメリアでも取り入れれば更に収穫量が増えるはずよ、それで西の国の作物はアメリアでも育てられそうなのよ」
「凄い……これでまたこの国が豊かになりそうですね」
「ええ……さて、私の話はこれで終わり、ここからはオリーブのこれからについて」
「私のこれから?」
「オリーブ、貴女好きな人がいるんでしょう?」
その言葉を聞いた私は、目を見開いた後、顔を赤らめました。
「はい……」
「やっぱりね……それでその好きな人はあのオオトリ様ではないのよね」
「そうなんです……でもお父様はオオトリ様と結婚するのは嫌だと言っているのに聞いてくれなくて……」
「全くラグナったら……安心してオリーブ、ラグナは私から話をして婚約の件を何とかしてあげるから」
「本当ですか!? で、でも大丈夫なんでしょうか? オオトリ様との結婚は多くの利を得られますよね? それを手放すなんてお父様がするでしょうか……」
「確かに勇者であるオオトリ様と貴女が結婚すればアメリアは今まで以上に繁栄するかもしれないわ……でもねオリーブ、貴女の幸せがお母さんの幸せでもあるの、だから貴女は難しい事は考えないで自分の幸せの事だけを考えるのよ」
「お母様……」
「さぁこの話はここまで、また楽しいお話をしましょう」
「はい、お母様」
―その後、私とお母様は他愛ない会話をしながら紅茶を飲んだり、菓子を食べたりととても楽しい時間を過ごしました。
そしてお母様と話してやっと決心が着きました。
今まで私はオオトリ様には直接言わず、ただ作り笑顔をしていただけでした。
でもそれでは駄目。
お母様が動いてくれるのに私が何もしなくていいわけがありません。
私も行動しなくてはいけない。オオトリ様に私の本心を伝えなければ……
でも怖い……もし上手くいかなかったらどうしよう……こんな時ヤタイズナさんがいてくれたらな……
そう思いながら、私はベットで眠りにつきました。
―王城、国王と王妃の自室。
「オリーブと勇者との婚約を取り消せ? 本気で言っているのか?」
「ええ、本気よ」
ライラックの言葉を聞いて、ラグナは額に手を当ててため息を吐いた。
「オリーブはオオトリ様との婚約を嫌がっていたわ」
「政略結婚ならよくある事だ……結婚すれば嫌でも好きになって行くだろう、それに勇者殿の血を取り入れるのはこの国のためでもあるんだぞ」
「そんな事思ってもいないくせに……そもそも、私がいない時に無断で勇者召喚を行うなんてどういうつもりなの?」
「……」
「勇者召喚の儀はこの国に伝わる魔法……けどそれは『禁忌』としてじゃない! ラグナ、貴女は一体何を考えているの?」
「……これは総てこの国のためなんだ……分かってくれ」
「ラグナ……」
ラグナは窓を開け、空に浮かぶ月を見上げた。
「今年で千年目……何としても守らなければならないんだ……」
そう言って、ラグナは拳を強く握りしめた。
「第87回次回予告の道ー!」
「と言うわけで今回も始まったこのコーナー!」
「久しぶりの出番でとても感動です……お母様も帰って来て嬉しさに倍増です!」
「良かったねーお姉ちゃん、お姉ちゃんが嬉しそうで私は幸せだよー」
「っと喜んでいる場合ではないですね、早速次回予告に行きましょう!」
「次回はガタクさんのお話っぽいよー、ガタクさんも久しぶりの登場だねーファレナさんも出てくるみたいだよー」
「それでは次回、『ガタクとファレナⅡ』!」
「「それでは、次回をお楽しみに!!」」
・注意、このコーナーは作者の思い付きで書いているので、次回タイトルが変更される可能性があるのでご注意下さい。
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