第166話 虫愛づる姫君の決心Ⅰ
―アメリア王国、王城庭園。
「美しい青空だ……まるで君の心のように澄んでいるよ」
「そ、そうですか……ありがとうございます、オオトリ様」
―何言ってるんでしょうこの人。
そう思いながらオオトリ様の言葉に私は作り笑顔で答えました。
―アルトランド王国でヤタイズナさん達と別れて三週間後、私達はアメリア王国に帰ってきました。
……帰って早々オオトリ様と顔を合わせ、歯が浮くようなセリフを言われたけど、疲れている事もあっていつも以上に嫌な気分なりました……
その三日後、馬車で一日の距離にある隣国との外交のため、私はお父様と勇者様達と共に隣国へと向かいました。
その道中及び隣国到着後も、オオトリ様は恋物語に出てきそうなセリフばかり喋っていました。
好きでも何でも無い方に言われる言葉って、こんなにも心に響かないものなんですね……
オオトリ様との会話中、私はそう思っていました。
時折アヤカ様が理由を付けてオオトリ様を呼び、私から引き離してくれなかったら本当にもたなかった思います。
そして隣国に滞在して五日で外交が終わり、王国に帰って来た私はウィズから数日前にヤタイズナさんが来た事を聞きました。
せっかく来てくれたのに……何てついていないのでしょう……
その日私は自室のベットで一日中カブトムシのぬいぐるみ(命名ヤタイズナさん)を抱きしめ、落ち込んでいました……
―翌日、私は気分を変えるためにティータイムをしていたら、オオトリ様がやってきて今現在のこの状況になっているのです。
「君の笑顔は本当に綺麗だ……見惚れてしまうよ」
「そうですか……」
「その笑顔を見るだけで、紅茶が何倍にも美味しくなるよ」
……本当、よくこんなに歯が浮く言葉を恥ずかしげも無く言えるんでしょうね……
内心そう思いながら、私は紅茶を飲みました。
はぁ……美味しいはずの紅茶が全然味がしません……普段なら花畑に居る来た虫さん達を眺めながら飲んで楽しい時間なのに……
「本当に美しいよオリーブ、僕がこの世界に召喚された理由は君と出会うためだったんだ……まさに運命だ」
頭湧いてるんじゃないんですか本当に。
その言葉聞くのもう何十回目だと思ってるんですか……いい加減聞き飽きました。
いい加減嫌気がさしていた時、私の元に一匹の蝶々さんが飛んできました。
私はいつものように、手を出して蝶々さんを指に留まってくれるのを待ちます。
―その時、オオトリ様が立ち上がり、私の元に飛んで来た蝶々さんを右手で掴み握り潰したのです!
「全く……オリーブにたかろうとする薄汚い蠅が……」
そう言ってオオトリ様はハンカチで右手を拭いていました。
……そう、これが一番嫌なんです。
この人は私の大好きな虫さん達を薄汚いと言い、私の楽しみである虫さんとの戯れを邪魔してくるんです!
しかも蝶々さんと蠅さんは全然違うし! それぞれの良さがあるのに!
私は何とか怒りを抑え、紅茶を飲んで心を落ち着かせます。
「お、オオトリ様、蝶々さんは私に近づいてきただけですよ、殺す必要はないと思いますが……」
「虫けらをも慈しむ……オリーブは何と優しいんだ……けど虫けらに貴女の慈愛は勿体無いです、虫なんてこの世界にいる事自体が害の存在ですから……それに貴女の愛はこの僕だけの物なんですから……」
……あ、いけない。本当に我慢できません。
今すぐあの顔ひっ叩きたい!
私は右手を動かしてオオトリ様の頬を叩こうとした時、爺やが庭園にやって来ました。
「姫様、帰ってこられました!」
「どうしたの爺や、そんなに慌て……何があったの?」
「はい姫様、王妃様が帰ってこられたのです!」
「お母様が!?」
「はい、今玉座の間に居られます」
お母様が……帰って来た!
「オリーブ!?」
「姫様!? 急ぎ過ぎると危ないです!」
お母様が帰って来たと聞いた私は玉座の間に向けて走り出しました。
玉座の間に着いた私が扉を開け、中に入ると、そこにはお父様と、私と同じ山吹色のミディアムヘアの女性の姿が。
「あらオリーブ、元気そうで何よりだわ」
「お母様! 会いたかったです!」
この女性こそ私の母、ライラック・アメリアお母様なのです。
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