第164話 偽りと真実Ⅱ

「儂が二回も記憶を書き換えられているじゃと!? なぜ儂だけ二回も受け取るんじゃ!」





魔鳥王の衝撃の発言に、ミミズさんは動揺しまくっている。





「だから落ち着いて聞いて下さいと言ったでしょう……二回目は魔人王ではなく、別の者に掛けられています」


「誰じゃ、誰が儂に掛けたのじゃ!」


「残念ですがそれは分かりません……私は過去の光景を視る事は出来ますが、視れるのは過去の一部始終だけ、誰が貴方に記憶改竄魔法を掛けたのかまでは分かりません……ただ一つだけ分かっていることがあります」


「な、何じゃ? 何が分かっておるのじゃ?」


「書き換えられた記憶は今からおよそ千年前と言う事です」


「「!!」」





また今から千年前……ミミズさんが語っていた国を滅ぼした時の事……





その記憶が何者かによって書き換えられた偽りの記憶……





「馬鹿な……儂が人間の国を滅ぼしたと言う記憶が偽りじゃと? ならなぜ人間共は儂を攻撃したのじゃ? 一体どういう事なのじゃ?」


「ミミズさん……」





けど、確かにミミズさんがあの時語っていた話は今思うとおかしいよな……酔って国を滅ぼしたなんて馬鹿々々しいにも程がある。


しかしそうなるとその書き換えられる前の記憶って何なんだろう? 何でその部分の記憶を書き換えたんだ?





「教えるのじゃ魔鳥王、書き換えられる前の儂の記憶とは何だったのじゃ?」


「……私も詳細までは知りません、しかし私が視た過去の光景を貴方の頭に直接見せる事は可能です」


「本当か!? 頼む魔鳥王よ、その光景を儂に見せてくれ!」


「分かりました、しかし私も覚醒したばかりで力を完全に使えるわけではありません、長くて数十秒が限界でしょう」


「それでも構わん、やってくれ!」


「ミミズさん、そんな事して大丈夫なの? 不完全って事は何か異常が起きたりするんじゃ……」


「お主は黙っておれ! これは儂の問題じゃ!」





心配する私に対して、ミミズさんは黙って見ていろと言って来た。





大丈夫かな……





「準備は良いですか?」


「勿論じゃ」


「ではいきますよ……」





そう言うと魔鳥王はミミズさんを見つめ、両目が赤く輝いた!





するとミミズさんは硬直し、そのまま動かなくなった。





「み、ミミズさん!?」


「……」





私はミミズさんに呼びかけるが、ミミズさんは微動だにしない。


恐らく今過去の光景を視ているのだろう。





ミミズさんが硬直したまま十秒が経った時。














―それは突然起こった。














「……ぁ」


「? ミミズさん?」




















「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!?」


























「ミミズさん!? どうしたんだよミミズさん!」





突如ミミズさんが発狂したように叫び始めたのだ!





「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


「ミミズさん、しっかりしてくれよミミズさん!」


「何なんだ? 一体どうしちまってんだよ!?」


(ひじょうしょくどうしちゃったのー!?)


(こいつはただ事じゃないっすね)





叫び続けるミミズさんを心配する私達。





「……ぐっ!?」





魔鳥王が呻き、赤く輝いた眼が元に戻った。





「あああああああああああああああああああああああ………ぁ」





それと同時にミミズさんが叫ぶのを止め、地面に倒れた。





「ミミズさん! ミミズさぁん!」


「う…うう……」





ミミズさんがよろけながら身体を起こす。


そして魔鳥王は身体を炎が包み、再び少女の姿になった。





「力を、使い過ぎてしまいましたね……うう……」


「ぬううう……頭が……」


「ミミズさん、大丈夫?」


「うぅむ……だ、大丈夫じゃ……」





どうやら異常は何も無さそうだ……私は安堵の息を吐いた。





「それしても、いきなり叫び始めたから本当に心配したよ」


「うむ……」


「……一体何を視たの?」





私が聞くと、ミミズさんは上を見上げながら話し始めた。





「……炎」


「炎?」


「炎に燃える人間の建物……街も城も全て燃えて崩れていたのじゃ……そしてその中心に……儂がいた」


「ミミズさんが?」


「その光景を視て、ひどく悲しく、叫ばずにはいられぬほど心が苦しくなったんじゃ……何なのじゃ? この感情は……」





街も城も全て燃えて崩れていた……そして中心にミミズさん……似てる。





私は壁画を見る。





ミミズさんの視たと言う過去の光景はこの壁画にとても似ている。





しかしどういう事だ? この壁画は未来の光景のはず。それが過去の光景と似ているなんてことがあり得るのか?





私が疑問に思う中、魔鳥王が私に話しかけた。





「貴方が思っている事は分かります、とても似ていますよね、この壁画の光景に……」


「はい……」


「何故似てるのか、それは分かりません……しかし私が視たミミズさんの過去と、これから起こるであろうこの未来はあまりにも似すぎている」





私が壁画を見ていると、一番下に文字が刻まれているのを発見した。





「魔鳥王、ここに文字が刻まれていますが、この壁画には何と書かれているんですか?」


「……『混沌なる魔蟲生まれし時、総ては喰らい尽くされる』……」


「『混沌なる魔蟲』? ……それはつまり………」





ミミズさんの事ですか?





そう言おうとしたが、魔鳥王に遮られた。





「分かりません、私が視たのは……まさしく混沌とも言える力を持つ魔蟲が世界を喰らい尽くす光景でした……しかしその光景は鮮明には視えませんでした」


「つまりまだ確定していないんですね!」


「ええ」





良かった……あの壁画の生物がミミズさんだったとしても、確実にその未来になるわけじゃないんだ……





「しかしその未来が起こるのは今からおよそ一年以内」


「一年!?」


「ええ、一月後かもしれませんし二月後かもしれない……とにかく近いうちに起こるでしょう……」


「そんな……一体どうすればいいんですか?」


「とにかく今は出来る事をやらなければいけません」


「やらなければいけない事……魔人王復活を阻止する事ですね」


「そう、そしてそれと同時にミミズさん、貴方の本当の記憶を取り戻す事です」





魔鳥王がそう言うと、今まで突っ立っていたミミズさんが動き始めた。





「記憶を取り戻すじゃと!? ……しかし記憶を改竄されているのにどうやって?」


「私が貴方の過去を視て、それを貴方に見せます」


「しかしそれでは詳細までは分からんはずじゃろ? それに今のお主では数十秒が限界のはず……それでは無理のはずじゃ」


「そうです、だから『彼女』に会いに行くのです」


「……そうか! 『奴』の力を使うのか!」


「奴? ミミズさん、奴って一体誰の事?」


「儂らの同胞にして最後の魔王、『魔植王』じゃ!」





魔植王……私がまだ会っていない六体目の魔王か。





「魔植王の力は他の魔王の力を増す事に特化し、一時的に何倍にも増幅する事が出来るのじゃ」


「成程そう言う事か、魔植王の力で魔鳥王の力を増して過去を視る力を強化、そして視た未来をミミズさんに見せる!」


「その通りじゃ! これなら儂の本来の記憶を取り戻せるし、奴が持つ魔封石を儂らが手に入れて魔人共の企みも阻止できる」


「まさに一石二鳥だね! ……でもその魔植王の居場所は?」


「う……も、問題ないわ! 奴の居場所ならきっと魔鳥王が知っているはずじゃ! のう魔鳥王?」


「ええ、彼女の居場所なら千年前視た時から変わっていないはずです」


「何処じゃ? 魔植王の奴は何処に居るのじゃ!?」


「……魔蟲王、貴方が一番に気付かなければならない場所なんですけどね……」


「は? どういう事じゃ?」


「彼女が居るのは大いなる自然が溢れ、一本の巨大樹が生える場所……」


「? もっと分かりやすく言わんか!」





大いなる自然が溢れ、一本の巨大樹が生える場所……ミミズさんが一番に気付くべき……














「……え? えぇ!? ま、まさか魔植王の居場所って……!」





「正解です新たなる魔蟲王よ……彼女、魔植王はランド大樹海にいます」

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