第163話 偽りと真実Ⅰ

「七大、魔王……?」





魔人王と言う単語には聞き覚えがある。確かザハクがエレファスゾウカブトに変態する前に言っていた言葉だ。


魔人達のボスである事は分かるが、七大魔王とはどういう事だ?





私が考えていると、ミミズさんが魔鳥王に詰め寄っていた。





「七大魔王じゃと!? それは一体どういう事なのじゃ! 儂らは六大魔王、魔人王などと言う奴など知らんぞ!」


「そうでしょうね、今の貴方が知るわけがありません」


「どういう事じゃ? ちゃんと説明せんか!」


「……ミミズさん、そして新たな魔蟲王、私達は元々この星の調和を保つために存在していたのです」


「星の調和を保つ?」


「そう……この星が誕生し、生命が活動できるようになった時、私達は造りだされたのです」


「造りだされた? 一体誰に?」


「姿形を持たぬ創造者……分かりやすく言えば神です」


「神……」





私は驚いているが、ひどく冷静でもあった。私がいた世界とは別に世界が在り、魔法や魔物がいる事を考えれば、神がいてもおかしくはない。








「その神は姿形の異なる七体を造りだし、それぞれが掌る生命を生み出す力を与えました……それが私達七大魔王です」


「成程、と言う事は魔人王とは……」


「そうです、魔人王は『人間召喚』のスキルを与えられた存在、現在この星に暮らしている人間達総ては元を辿れば彼が召喚したしもべ達の子孫なのです」


「やっぱりか……」





以前ミミズさんに教えてもらった時に気付かなかった疑問に今気づいた。


ミミズさん達六大魔王はそれぞれ蟲、獣、海、竜、鳥、植の生命を召喚する事が出来る。





―しかしそれなら『人』はどうやって生まれたのか?





私の世界のように猿から進化したと言う事もあり得るが、そもそも似てる世界だからと言って同じ進化を辿り、人類が誕生するとは限らない。


ゴブリンやオーガに竜など、ファンタジーでしかあり得ない生物がいる時点で私の世界とは異なっているのだから。





虫や獣を召喚する魔王がいるなら、人を召喚する魔王が存在してもなんらおかしい事ではないのだ。





「な、何かとんでもない事を聞いちまった気がするんだが……駄目だ、頭が追いつかねぇ」





バノンは魔鳥王が話した内容を聞き、軽く混乱して頭を抱えていた。





「私達は生命を生み出し生態系が出来た時、私達は神に与えられた役割、調和のために生態系の調整を始めました」


「どれか一つの生命が増えすぎて生態系が崩れないようにそれぞれの生命の数を調整してたと言う事ですか?」


「その通りです、そうする事によって世界のバランスは保たれていました……しかしある時、世界に異変が起こり始めました」


「異変?」


「魔人王が人の数を急激に増やし始めたのです、膨大に増えた人達によって多くの生命が殺され、棲み処を追いやられ、生態系が崩れ始めてしまったのです」


「何故そんな事を? 魔王はバランスを保つ存在のはずでは?」


「本来ならそうです、ですが彼は……魔人王は他の魔王と違ったのです」


「違った? ……ミミズさん達と魔人王の何かが異なっていたって事ですか?」





私の言葉に、魔鳥王が頷いた。





「魔人王は私達とは思考が根本的に違っていたのです、私を含めた六体の魔王は調和のためにそれぞれの生命のバランスを保つことが最善と考えていました……しかし、魔人王の考えは我々とは全く違っていたのです……魔人王は優れた生命が他の生命全てを支配する事が最善だと考えたのです」


「優れた生命……つまり人が世界を支配する?」


「そう、魔人王は自らが生み出す人こそが生命の頂点、そして人を生み出す自身がこの世界を支配する事こそが世界に調和が生まれると考えていたのです」


「そんな事で本当に調和が生まれるわけがない」


「貴方の言う通りです、新たな魔蟲王よ……魔人王の考えを知った私達は、彼の考えを否定し、改めさせようとしました、しかし彼は私達の言葉に耳を貸そうとしませんでした……それどころか彼は生み出したしもべ達を率いて私達に攻撃を開始したのです、力づくで他の魔王を支配下に置き、世界を支配するために」


「何て愚かな事を……」





星の調和を保つ存在が調和を乱すなんて、本末転倒にも程がある。





「私達は膨大な数の人間達と戦い始めました……人間達は魔人王よって改造され、エルフ、ドワーフ、獣人、蟲人などの亜人へと進化した者や、ゴブリンやオーガ、サイクロプスなど異形の者もいました」


「この世界の亜人やゴブリンやオーガ達は魔人王が造りだしたモノだったのか……」


「それだけではありません、魔法や特殊な力を持った武器を使う者達も存在し、私達は苦戦を強いられました……戦いは七日七晩続きましたが、私達は何とか魔人王を追い詰め、その力を奪い六つの魔封石に封印し、それぞれが一つづつ、神に与えられた神殿に収めたのです」


「そうだったんですか……」





今まで六大魔王が関係していた廃墟は、それぞれの神殿だったのか……





「しかしこれで魔人達がこの魔封石を集めていた目的が分かった……石をすべて集めて魔人王を復活させ、世界を支配する事……」


「その通りです」


「ちょっと待たんか!」





私が魔鳥王の話を聞き魔人達の目的を理解する中、ミミズさんが魔鳥王に話しかけた。





「黙って聞いておったが、結局儂が魔人王の事を何も知らない理由がまだわかっとらんぞ!」


「本題はここからです……魔人王は力を奪われる瞬間、私達にある魔法を掛けたのです」


「魔法? その魔法とはどんなモノなんじゃ?」


「魔人王が私達に掛けたのは記憶改竄の魔法です」


「「っ!?」」





記憶改竄の魔法だって!?





「記憶改竄魔法は徐々に私達の記憶を蝕み続けました、全身に毒が回るように……その結果、私達は自らの役割、そして魔人王に関する記憶を全て忘れ、この世界に君臨する六大魔王と言う偽りの記憶を植え付けられたのです」


「な、なるほどそうじゃったのか……しかしそれならなぜお主は魔人王の事を憶えておったのじゃ?」


「私は輪廻転生によって転生を繰り返し、そのたびに記憶を封印され、時が経てば記憶が戻ると言う事を繰り返しています、記憶が改竄されてからも転生を数十回繰り返していた結果、改竄魔法に綻びが出始め本来の記憶が戻ったのです」





記憶を失うという欠陥が、逆に魔鳥王の記憶を取り戻すきっかけになったのか……しかし記憶改竄……だから魔獣王、魔海王、魔竜王も何も知らなかったと言うわけか……





「……そしてミミズさん、貴方は他の魔王と違いとても複雑な事になっているのです」


「複雑? どういう事じゃ?」


「良いですかミミズさん、落ち着いて聞いてください」


「うむ」


「貴方は更に記憶が書き換えられています」


「うむ……む? な、何じゃって?」


「つまり貴方は記憶改竄を二回受けているのです」





「な、何じゃとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!?」

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