第146話 サソリとトンボと空飛ぶ少女Ⅲ

―一方その頃、鳥面達の集落では、突然平伏した鳥面達と、未だに状況を掴めないヤタイズナの姿があった。





「遂にこの時が……予言の時がやって来た……火の神の使いが我らの元に……」


「ち、ちょっと待ってくれ! 火の神って何だ!? 予言の時って!?」





戸惑う私をよそに、鳥羽マントが頭を上げる。





「何を仰られますか、貴方様は火の神の使い、ヤタイズナ様なのでしょう?」


「!?」





何で私の名前を……いや待て、確かさっきミミズさんが私に助けを求める時大声で私の名前を言っていたな……





その時に私の名前を知った可能性がある。





それに今は平伏しているけど、私が隙を見せたら襲ってくるかもしれない……安心は出来ない。





「……何で私の名前を知ってるんだ?」





私の質問に、鳥羽マントが答える。





「それは予言の石版に記されているからです」


「予言の石板?」


「はい、我らの祖先が火の神の予言を記した石板の事です」





火の神の予言……その火の神は私がここに来ることをずっと前から知っていた……つまりは未来を視ていた?





と言う事は火の神の正体はおそらく……





「その石板の場所に案内してくれるか?」


「分かりました」





鳥羽マントが立ち上がるり後ろを向くと、後ろで平伏している鳥面達が動き、道を開けた。





「どうぞこちらに、私についてきてください」


「分かった、ミミズさん、バノン行こう」





私達は鳥羽マントに案内され、この集落で一番大きな建物に入った。





無論周囲への警戒は怠らずにだ。





「これが予言の石板で御座います」


「これが……」


「ほぉ……」


「でかいな……」





建物の中には巨大な石板が一枚だけあり、その石板には細かい文字と炎を纏う角の生えた生き物の姿が描かれていた。





「あの石板には何て書いてあるんだ?」


「『炎を自在に操る一本角の火の神の使い、その名はヤタイズナ。 火の神の使い現れし時、使いと共に約束の地へと向かえ』……そう記されています」


「本当に私の名前が記されているのか……」


「間違いなく未来を視る力……と言う事は火の神の正体は」


「魔鳥王と言う事だな!」


「おいコラバノン! 儂の台詞を取るんじゃないわ!」





……後ろで騒いでるミミズさんは放っておくとして。





バノンが言ったように、火の神の正体は魔鳥王で間違いないだろう。





この集落の人間達が鳥の面をしている理由も崇拝する神を模したモノなのだろう。





「本当に申し訳ありませんでした、火の神の使いと知らずに儀式の生贄にしようとしてしまった事……この命で詫びさせていただきます」





そう言うと鳥羽マントは腰に付けたナイフを取り出し自らの首筋に突きつけた。





「良いから、良いから! 私もう気にしてないからそのナイフを下げて!」





今ここで死なれてしまっては色々と困る。





「この私を罰するどころか許すと言うのですか? ……流石は火の神の使い、広き心の持ち主だ……」





そう言うと鳥羽マントは再び平伏する。





「一々平伏しなくていいから……所でさっきのは何の儀式なの?」


「はい、この地には砂漠の主と呼ばれるモンゴリアンデスワームが生息しておりまして……本来なら月に一度しか姿を見せず、遭遇したとしても私が持つ神の声を模したとされる笛の音で追い払うことが出来るため比較的無害な存在なのですが……」





あの音は笛の音だったのか……





「しかし昨日を境に突如地上に現れ始め、動く生物を総て喰らっているのです! 笛で追い払ってはいますが、我が集落の者にも犠牲が出始め……それで砂漠の主を鎮める為の儀式魔法を執り行うための生贄を求めていたのです」


「成程……その最中にモンゴリアンデスワームを発見して追い払い、私達を集落まで運んだと言うわけか」


「はい、中でも白きワームは最も極上の生贄とされておりまして……火の神の使いのお供の方とは知らず生贄にしようとしてしまい申し訳ありませんでした」


「またこのパターンか! なぜ儂は食べ物やら生贄やらばっかりなんじゃ! と言うか白いワームが極上の生贄って誰が決めたんじゃ!」


「火の神が決められたとか……」


「あの焼き鳥野郎、会ったら絶対引っ叩く!」





ミミズさんは魔鳥王に対して怒りの炎を燃やしていた。





「何はともあれ、遂に我らが予言を遂行する時が来たのです、ヤタイズナ様、我らと共に約束の地に行きましょう!」


「分かった、それでその約束の地って言うのは何処にあるんだ?」


「はい、この集落から東に真っ直ぐ行った場所が約束の地です」


「どれぐらい掛かるんだ?」


「一日は掛かるかと……」





大分掛かるな……





「ヤタイズナよ、とりあえず今日は休んだ方が良いじゃろう」


「ミミズさん……でもこうしている間にも魔人族の奴らが動いているかもしれないし、それにしもべ達も探さないと……」


「うむ、気持ちは分かるがお主あのモンゴリアンデスワームとの戦いのダメージが残っていよう、そして明日約束の地とやらに行く道中で奴らを探せばよかろう、とにかく今は休むのじゃ」


「……分かったよミミズさん」





ミミズさんに言われ、約束の地への出発は明日にして、今日は鳥羽マントが大きな家を貸してくれたので、そこで食事を取り明日に備え早めに就寝した

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