第144話 サソリとトンボと空飛ぶ少女Ⅰ

「ん、んん……」





私は……そうか、あの時モンゴリアンデスワームの攻撃が直撃して、気を失ったんだった……





気絶する前に何か変な物を見たような気が……





……ドンドコ♪ ドンドコ♪ ドンドンドコドコ♪





「ん……?」





……ドンチャカドンチャカ♪ ドンドンチャカチャカ♪





何やら妙な音が聞こえてくる。





これは……楽器の音か?





私は身体を動かそうとするが、何故か身動きが取れない。





んん? 何で動けないんだ……!?





よく見ると、私の角が縄で縛られている!





いや角だけでない、私の全身が縄で縛られているのだ!





ど、どういうことだ!? 何だ私が縛られているんだ!?





ドンドコチャカチャカ♪ ドンドコドンドン♪





しかもさっきから聞こえるこの音は何なんだ!?





音は私がいる場所の下から聞こえてくる。





私は下を見た、そこには鳥の面をした集団が大きな焚火を囲み、太鼓を鳴らし、踊っていた。





何だあの集団は……





私は動かせる範囲で首を動かし、縛られた場所を確認する。





私が縛られている場所は岩を削って作られた祭壇のようだ。





「……ん?」





焚火を囲んで楽器を鳴らして踊る集団。





そして祭壇に縛られた私。





……これ、もしかしなくても……





私、儀式の生贄に捧げられてるぅ!?





な、何で!? 何でこんなことになってるんだ!? と言うか私と一緒に居たバノンは何処に……





「おのれぇ! ここから出さんかこの愚か者どもめ!」


「これはヤバい、久しぶりにヤバい」





ミミズさんとバノンの声!?





ミミズさんとバノンの声が聞こえた方を見ると、木で出来た籠に入れられたミミズさんと縄で縛られているバノンの姿があった。





私と離れた後、あの鳥面集団に捕まってしまったのか。





ドン! ドコドコドコドコドコドコドコドコドコ……





太鼓の音が小刻みになると、鳥の羽で作られたマントを着けている鳥面がミミズさんの入った籠を持ちあげた。





「な、何じゃ、何をする気じゃこの鳥面どもが!」





鳥面はそのまま焚火の方へ歩いて行く。





「……お、おい、まさかとは思うが、あの中に儂を投げ入れる気か!?」





鳥面は無言のまま焚火に近づいて行く。





「ヤタイズナァァァァァァ!! そんな所でぼーっとしとらんで早く助けに来てくれぇ!! その程度の縄、お主なら簡単に焼き切れるじゃろうがぁぁぁぁぁっ!」





ミミズさんが大声で叫び、私に助けを求めている。





言われなくても、私だって生贄なんかになるつもりはない、さっさとここから出なくては。





「《炎の角・鎧》!」





私は炎の角・鎧で身体を縛っていた縄を焼いた。





私は翅を広げ、下に向かって降下する!





上から私が飛んで来る姿を見て、鳥面達がどよめいていた。





私は地面に着地すると、丁度近くにいたバノンの縄を炎の角で焼き切った。





「バノン、大丈夫?」


「ああ、助かったぜ……」





よし、後は奴からミミズさんを……





私が振り返り、鳥面が持つミミズさんを助けようとするが―





「……ん? あれ?」





何故か鳥羽マントの鳥面がミミズさんの入った籠を地面に置き、私に平伏していた。





いや、鳥羽マントだけではなく、太鼓を鳴らしていた奴から踊っていた奴まで皆私に平伏していた。





な、何? 一体何なんだこれ? 何で私に平伏しているんだ。





私が混乱していると、鳥羽マントの鳥面が頭を上げ、面を外した。





面を外した鳥羽マントの素顔は、普通の人間で、二十代前後の男性だった。





「お待ちしておりました、火の神の使いよ」





そう言うと鳥羽マントは再び平伏した。





「……火の神の、使い?」





え、何、本当にどういう事だ!?





事態が飲み込めず私が混乱する中、鳥面達は平伏したままだった。



























































―バラス砂漠、モンゴリアンデスワームが出現した場所から数百メートル離れた場所。








(むぐぐぐ……ぷはぁ―っ!)





砂の中からスティンガーが顔を出した。





(ふー……ひどいめにあったよー……あれ? ごしゅじんー?)





スティンガーは辺りを見渡し、ヤタイズナを探すが、何処にも見当たらない。





(テザー? ソイヤー? ベル、ティーガー、レギオン、ひじょうしょくー! みんなどこにいったのー! ……んー?)





スティンガーが皆を探して周辺を走り回っていると、何かが地面に突き刺さっているのを発見した。





近づいて確認すると、細長い棒状の物体で小刻みに震えていた。





(なんかみたことあるよーな……ひっぱってみよーっと)





スティンガーは鋏で棒状の物体を軽く挟み、引っ張った。





(……ぶはぁっ! た、助かったっす……くそっ翅が砂まみれっす……)





地面に突き刺さっていたのはドラッヘだった。





スティンガーが発見した棒状の物体はドラッヘの腹部だったのだ。





(あー! おまえはたしか……ドラフー!)


(ドラッヘだ! 名前間違えんなっす! ……って違う違う! 自分はあいつにとって捨て駒! 名前なんてどうでもいいっす!)


(なんかむずかしいこというねー……そんなことよりドラッヘー、ごしゅじんたちはどこにいったのかなー?)


(そんな事自分が知らないっすよ、さっきまで砂の中に埋もれてたんだから……まぁ多分あの巨大ワームの竜巻のせいで皆バラバラにはぐれたんすね……)


(はやくごしゅじんたちをみつけないとー! ドラッヘ、そらをとんでごしゅじんたちをさがそうよー!)


(嫌っす)


(えーーーっ!? 何でーーーーっ!?)





ドラッヘの返答に、スティンガーは驚愕した。





(自分はあいつに負けたから仕方なくあいつのしもべになってやったんす、このまま行けばどうせいつかは盾か囮に使われて死ぬだけに決まっているっす、でもあいつがここで死ねば自分は自由になれる、あいつを探す理由なんて自分にはないんすよ)


(むー……なんかよくわかんないこといってるけど……ごしゅじんはドラッヘをどうぐみたいにつかわないよー)


(ふん、どうっすかね)


(……なんでそんなにごしゅじんのことをしんじないのー?)


(そんなの決まってるっす、あいつが自分を捨てたからっすよ! 自分はその事を絶対に許さないし、あいつを絶対信じたりしないっす!)





ドラッヘは怒りのあまり、4枚の翅を羽ばたかせる。





(……じゃあなんでドラッヘのしょうごうにまおうのしもべがあるのー?)





スティンガーの言葉を聞いて、ドラッヘは翅を羽ばたかせるのを止めた。





(……どういう意味っすか、それ?)


(ドラッヘはいちどまおうのしもべのしょうごうをうしなったんでしょ? だけどまたドラッヘはまおうのしもべのしょうごうをてにいれた)


(……それが何だっていうんすか?)


(だからー、ドラッヘがまおうのしもべをもっているってことはー、ドラッヘがごしゅじんのことをしんらいしているってこと―)


(《大鎌鼬》)





ドラッヘはスティンガーの目の前の地面に向けて大鎌鼬を撃ち込んだ!





(いきなり何を言いやがると思ったら、自分があいつを信頼している? なわけねぇだろうが! くだらねぇ事言ってんじゃねぇっす! だいたい何で自分が魔王のしもべの称号を持っている事が信頼の証になるんすか!)


(だってわかるんだもん)


(はぁ?)


(みたらわかるんだー、だれがどれだけごしゅじんをしんらいしているかって)


(……意味分かんねぇっす)


(だよねー、なんでわかるかはぼくもよくわかんないんだけどねー……とにかくドラッヘ、そんなにいこじにならなくてさ、ごしゅじんのことをもっとしんじてみなよー♪)


(……)


(とにかく、いまははやくごしゅじんたちをさがしにいこうよー!)


(……はぁっ、分かったっすよ)





ドラッヘはスティンガーを掴んで空を飛んだ。





(わー! はやーい! ドラッヘってすごいねー!)


(そんなくだらねぇ事言ってないでお前もちゃんと探すっすよ)


(わかってるよー、んー……)

















―それから数十分が経過した。





(むー……ごしゅじんたちみつからないねー……)


(自分達があのワームに飛ばされてからそんなに時間は経って無いはずなんすけどねぇ……)


(もうすこしとおくをさがしてみようよー)


(分かったっす)





それから再び数十分が経過するが、ヤタイズナ達を発見出来ずにいた。





(ごしゅじんたちはいったいどこにいるのー?)


(少し疲れてきた……一旦どこかで休憩するっすよ)





ドラッヘが休憩場所を探しているその時だった。





「キシャアアアアアアアアアアアアアア!!」





背後の地面からモンゴリアンデスワームが飛び出してきたのだ!





(あー! あいつはぼくたちをおそったやつー!)


(こんな所で出くわすとは面倒っすね……ここは逃げるが勝ちっす!)





ドラッヘは猛スピードでモンゴリアンデスワームから逃げた。





「キシャアアアアアアアアアアアアア!!」





しかしモンゴリアンデスワームも猛スピードでドラッヘを追い始めた!





(ちぃっ、自分のスピードに追い付いてくるとは……最高速度なら追い払えるっすけど……こいつが最高速度に耐えられないだろうし……)


(ごめんねドラッヘ……ぼくがあしでまといになってるみたいで……)


(別に足手まといとか思ってないっすよ!)


「キシャアアアアアアア!」





モンゴリアンデスワームはドラッヘ目掛けて毒の息吹を吐き出した!





(そんなもん当たるかっす!)





ドラッヘは身体を捻らせ、毒の息吹を回避する!





(うわあー!? めがまわるー!?)


(ああもう! 少し静かにするっす!)


「キシャアアアアアアアアアアアアアアア!」





今度は大量の砂球がドラッヘ目掛けて撃ち出される!





(次から次へと……! 無駄だって言ってるっすよ!)





ドラッヘはアクロバティックな動きで砂球を回避し続けて行く!





「キシャアアアアアアア!」


(本当にしつこいっすね! 何でこんなに追って来るんすか……ん?)





ドラッヘが後ろにいるモンゴリアンデスワームを見ると、モンゴリアンデスワームの頭部に小さな物体が付いているのを発見した。





(何すか? ……小さな、蜘蛛?)





モンゴリアンデスワームの頭部に気を取られた一瞬。





(ぐぅっ!?)


(うわあーーーーーーーーー!?)





脚部に砂球が当たり、スティンガーを離してしまったのだ!





(しまった! くそっ!)





落下していくスティンガーの元に向かおうとするが、砂球が邪魔でスティンガーの元に行けないのだ。





(うわあーーーーーわぷっ!)





スティンガーは地面に落下するが、砂がクッションになり、無傷だった。





モンゴリアンデスワームは落下したスティンガーを4つの目で凝視する。





(いててて……ん?)


「キシャアアアアアアアアアアアアア!!」





モンゴリアンデスワームがスティンガーを喰らおうと大口を開けて突っ込んできた!





(うわあああああああああああああ!?)


(くそっ! 間に合えっす!)





何とか砂球の雨を抜け出たドラッヘは猛スピードでスティンガーを助けに行く!





「ギシャアアアアアアア!」


(駄目だ、間に合わない……!)





『キュアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』





ドラッヘがそう思った時、何処からか金切り声が発せられた!





「キシャアアアアア!? キシャアアアアアアアアア!?」





その声を聞き、モンゴリアンデスワームが苦しみ悶え始めた!





『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』


「キシャアアアアアアアアアアアアアアア!?」





金切り声が続く中、モンゴリアンデスワームは地面に潜って逃げて行った。





(た、たすかった~……)


(スティンガー、大丈夫っすか?)


(うん、へいきだよ~)


(にしてもさっきの金切り声は何なんすかね……)





ドラッヘが疑問に思っていると、空から何者かが翼を羽ばたかせて降りてきた。





降りてきた者の姿は顔から胸までが人間の女性、翼と下半身が鳥と言う半人半鳥の女の子だった。





(何すかこいつは……スティンガー、警戒した方が……)


(もしかしてきみがたすけてくれたのー?)





ドラッヘが警戒する中、スティンガーは無警戒で近づいて行った。





(おぉい!? 何やってんすかお前は!? そもそも自分らの言葉が通じるわけ無いっすよ!)


(たすけてくれてありがとー♪ もうすこしでたべられるところだったよー♪)





ドラッヘが驚く中、スティンガーは半人半鳥の女の子にお礼を言った。





「ドーイタシマシテ♪」





半人半鳥の女の子は笑顔で返事をした。





(あれー? ぼくのことばがわかるのー!?)


「ウン! ワカルヨー♪」


(まじっすか!? こいつ本当に何者っすか……)


(ぼくスティンガー、きみのなまえはー?)


「ナマエ? ナマエ……ナンダッケ?」





半人半鳥の女の子は目を摘むってしばらく考え事をしている。





しばらくすると思い出したように目を開いて笑顔で名乗った。





「オモイダシタ! ワタシ、フェネ! ヨロシクネ♪」

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