第117話 登山Ⅰ
―シルバードラゴンフライとの戦いから数時間後。
外は夜になり、私達はバノンの実家で休んでいた。
ウィズの家とは違って広くはないので、しもべ達は壁や天井で休んでいる。
バノンはシルバードラゴンフライを追い払ってくれた礼だと言われて、今はゲンル達と共に酒場で飲んでいる。
「うーん……」
「どうしたヤタイズナ? またあの魔物の事を考えとるのか?」
「うん……」
あのシルバードラゴンフライは私の元しもべだった……でも私はしもべを捨てたことなど一度もない。
でも……何かを忘れている気がするんだよな……一体私は何を忘れているのだろうか……?
「まぁそのうち何かの拍子に思い出すじゃろう、だからあまり悩むでない、今はあのトンボの事よりも、ドラン火山へ行くことが第一じゃ」
「……うん、確かにそうだね、ドラン火山にいるっていう魔人達の事も気になるし、明日ドラン火山へと出発しよう!」
「うむ! その意気じゃ!」
数時間後、酔って帰って来たバノンがお土産に焼きポテトを持って帰って来てくれたので全員で焼きポテトを食べた。
「ほう、芋を焼いただけにしては中々美味いではないか」
(おいしいー♪)
(本当ですねー♪)
(一つ一つが小さくて食べがいが無いのが残念ですわね)
(僕にはちょうどいい大きさですね)
(こいつは絶品でさぁ)
(美味であります!)
『ギチチチチィィィィィ!』
ホクホクとしていてとても美味しかった。
―翌日。
私達は準備を整えてドラン火山へ向かうことにした。
「……お前ら、本当にドラン火山に行くのか?」
「はい、お世話になりました」
「別に世話なんかしてねぇよ、……バノン、気を付けて行って来いよ」
「……ああ、ありがとよ、親父、それじゃあ行って来るぜ」
ガノンに別れを告げ、私達は町の外で待っている魔海王の元に向かった。
「魔海王、ちゃんと待っててくれてるかな?」
「あ奴の事じゃから待てずに何かをやらかしている可能性があるのう……」
「ははは、いくらあの魔海王でも一日待っただけでそんな事……ん?」
町の入り口に大量の人々が集まっていた。
「何じゃあれは?」
「何かあったのかな……まさかまたシルバードラゴンフライが!?」
私達が警戒していると、目の前からゲンルが走って来た。
「おーい! バノンー!」
「ゲンル、この人達は一体どうしたんだ?」
「それが聞いてくれよ! この町の前でアルトランド王国の歌姫が歌を歌っているんだよ!」
……何だって?
「いやー! まさか歌姫様をこんな近くで見られるなんてなー! バノンも来いよ! こんな事滅多にないぞ!」
私達はゲンルに連れられて行くバノンを追って走った。
そこで目にしたのは、巨大クラゲのクーちゃんに乗って意気揚々と歌を歌っている魔海王の姿だった。
『みんなー♪ レヴィヤのために集まってくれてありがと~♪』
『『『うおおおおおおおおおお!! レヴィヤたーーーーーーーーーーーーーーーん!!!』』』
観客たちが大歓声を上げた。
『レヴィヤ、レヴィヤのために集まってくれたみんなにさいこうの歌をプレゼントするねー♪ それじゃあ次の曲、『恋の荒波ドラゴンウェーブ』! 行くよー♪』
『『『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』』』
「…………」
「……やっぱり何かしよったか……」
―その後、魔海王のゲリラライブは一時間ほど続いた。
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