第115話 竜の名を持つ虫

―30分後。


ようやく殴り合いを終え、バノンと老ドワーフは椅子に座って話し始めた。


「おい馬鹿息子」

「なんだよ馬鹿親父」

「その魔物達は一体何だ?」

「何って、俺の従魔だよ」

「そんな分かりやすい嘘つくんじゃねぇよ、お前に従魔使いの素質があるわけねぇだろうが、特にあの一本角の魔物は只の魔物じゃねぇな……一体あいつは何なんだ?」


私が普通の魔物じゃないと分かっている!?


バノンのお父さん、何者なんだ……!?


「……分かったよ、本当の事を言うよ、けど驚くなよ?」

「けっ、こちとら600年生きてんだぞ? そんじょそこらの事で驚くかよ」

「実は……」


バノンは私が魔王でだと言う事などは話さず、アーミーアント達に捕まっていた所を私達に助けられた事をバノンのお父さんに話した。



「ほう……成程な、そう言う事だったのか……」


バノンのお父さんが私を見た。


「俺はガノン、この馬鹿息子の親父で鍛冶師だ、よろしくな」

「初めまして、ヤタイズナです、こちらこそよろしくお願いします」

「しっかし全然帰ってこねぇと思ってたら、魔物に喰われそうになった所を魔物に助けられてたとはな……うちの馬鹿息子を助けてくれてありがとうよ」

「礼なんて良いですよ」

「それでバノン、何しに町に戻って来たんだ? 里帰りってわけじゃねぇんだろ」

「ああ、実はドラン火山に用があって戻って来たんだ」

「ドラン火山に? ……悪い事は言わねぇ、止めといた方が良いぞ」

「え? 何でだよ親父?」

「最近あの山に怪しい格好をした連中が出入りしていてな……町の奴らや冒険者が調査で山に向かったんだが……誰も戻ってこなかったんだ、けど最近になって一人だけ傷だらけで山から戻って来た奴がいてよ、そいつの話だと、連中が大量の荷物を山頂に持っていって行くのを見たらしいんだが、奴らに気付かれて襲われたが、何とが逃げてきたそうだ」

「大量の荷物? ……そいつらはどんな格好をしていたんですか?」

「確か話だと連中は全員真っ白のマントを着けていたそうだ」


白いマント……前にレイド大雪原で戦ったザハクは黄色の鎧、その部下達は黄色いマントを着けていた。


ひょっとして六色魔将とか言う奴らの内の一人がドラン火山で何かを行おうとしているのか……?


「そう言うわけだからよ、しばらくあの山は危険だからお前らも近寄らねぇ方が良いぞ」




ガノンから話を聞いた後、ガノンは「武器作りを再開するからしばらくの間、外に出かけてろ」と言われて町を散策することにした。


「ガノンはああ言っていたけど、やっぱりドラン火山には向かわないとね」

「そうじゃな、それに白いマントの連中はほぼ間違いなく魔人共の事、奴らの狙いは間違いなく魔竜王じゃろう」

「だよね……よし、それじゃあ準備が出来次第すぐにドラン火山に向かおうか」

「うむ、それでバノン、この町の名物料理は何じゃ?」

「名物って程の物じゃねぇけど……焼きポテトって食い物ならあるぞ」


焼きポテト……ジャガイモを焼いた食べ物か?


「バノン、それは何処で食べられるの?」

「ああ、あっちに屋台があってな……」


その時、何処からか鐘の音が聞こえてきた。


それと同時に町中に居た人々が急いで近くの建物へ入って行った。


「バノン、これはもしかして……」

「ああ、町に魔物が侵入した事を知らせる鐘だ!」


私達が辺りを警戒していると、私達の上空を一匹の魔物が凄い速さで通過していった。


「! あの魔物はまさか!」


丸い頭部に発達した複眼、発達した二対の翅、間違いない!


「トンボだ!」


トンボとはトンボ目の昆虫で、卵・幼虫・成虫という成長段階を経る不完全変態の昆虫だ。


孵化した幼虫は翅がなくて脚が長く、腹部の太くて短いものもあれば細長いものもある。


腹の内部に気管鰓をもち、腹部の先端から水を吸って呼吸を行う。素早く移動するときは腹部の先端から水を噴出し、ジェット噴射の要領で移動することもできる。


幼虫はヤゴと呼ばれ、水中で生物を捕食して成長する。幼虫の下顎はヒトの腕のように変形しており、曲げ伸ばしができる。先端がかぎ状で左右に開き、獲物を捕える時は下顎へ瞬間的に体液を送り込むことによってこれを伸ばしてはさみ取る。


小さい頃の獲物はミジンコやボウフラだが、大きくなると小魚やオタマジャクシなどになり、えさが少ないと共食いもして、強いものが生き残る。幼虫の期間は、ウスバキトンボのように1か月足らずのものもいれば、オニヤンマなど数年に及ぶものもいるのだ。


成虫の頭部は丸く、複眼が大きい。約270°もの視界がある。


胸部は箱形で、よく発達した長い2対の翅を持つ。これをそれぞれ交互にはばたかせて飛行し、空中で静止、ホバリングすることもできる。宙返りが観察された種も存在している。


留まるときには、翅を上に背中合わせに立てるか、平らに左右に広げ、一般的な昆虫のように後ろに曲げて背中に並べることが出来ないのだ。

翅には、横方向から見て折れ曲がった構造をしていて凹凸が有り、飛行中に気流の渦ができる。その発見以前の翼の理論では、そのような状態は失速のように、性能が劣ると考えられていたのだ。 翅は1枚だけが消失しても飛ぶことが出来る。


腹部は細長く、後方へのびる。


脚は捕獲するために使用されるが、歩行するのには適しておらず、トンボは枝先に留まるのに脚を使う他は、少しの移動でも翅を使って飛ぶことが多い。


食性は肉食で、カ、ハエ、チョウ、ガ、あるいは他のトンボなどの飛翔昆虫を空中で捕食する。獲物を捕える時は6本の脚をかごのように組んで獲物をわしづかみにする。脚には太い毛が多く生えていて、捕えた獲物を逃さない役割を果たす。口には鋭い大あごが発達しており、獲物をかじって食べるのだ。


ちなみに西洋においてはトンボは基本的には不吉な虫と考えられている。


トンボの英名はドラゴンフライというが、ドラゴンはその西洋において不吉なものということを考えると納得がいく。しかし一方で、イトトンボ類にはダムゼル(乙女)フライといった優雅な呼称もある。


ヨーロッパでは「魔女の針」などとも呼ばれたり、その翅はカミソリになっていて触れると切り裂かれるとか、嘘をつく人の口を縫いつけてしまう、あるいは耳を縫いつけるという迷信もあった。


魔女の針という名称はこの「縫いつける」という迷信と関連づけられた事によってつけられたらしいのだ。


また、トンボが刺すという誤解も広く流布しているようである。また、「ヘビの先生」との名もあり、これは危険が近づいていることをトンボがヘビに教える、という伝承によるものだ。



「あっちは市場がある方向だ!」

「まだ人が残ってるかもしれない……行ってみよう!」


私達はトンボが飛んで行った方に向かった。









市場に到着すると、バノンの知り合いである門兵のゲンルと数人の門兵がいた。


「ゲンル!」

「バノン!? どうしてここに居るんだ!? 鐘の音が聞こえただろう」

「力を貸そうと思ってな……魔物は?」

「あそこだ」


ゲンルが指差した方向を見ると、トンボが市場に木箱に止まり、置かれている食べ物を前脚で掴み、食べていた。


私はトンボの全体をよく見る、トンボの体長は2メートル半はある。


あいつの身体の色……間違いない! ギンヤンマだ!


ギンヤンマはトンボ目ヤンマ亜科ギンヤンマ属の昆虫で、日本ではオニヤンマと並んで広く分布する大型のトンボだ。


体長は7cm前後、翅長は5前後ほど。鮮やかな草色の体と、腹部の前にある青い胸部の外殻が特徴で腹部は外殻の間接に沿って黒い線が走っている


飛行性昆虫としては最も優れた飛行能力を持つ生物の一つであり、特に飛行速度は平均時速60km、種によっては最大時速100kmという、恐るべき速力を有している。


この速力は昆虫界最速の部類と判定されているのだ。


それにしても……やっぱりカッコイイなー……


私はトンボの中でもギンヤンマとオニヤンマが一番好きなのだ。


ギンヤンマの美しい身体の色合いはいつ見ても惚れ惚れしてしまいそうになる。


いやー、本当に美しい……痛っ!?


ミミズさんが私の頭を引っ叩いたようだ。


いかんいかん、今はうっとりしている時では無かったな。


「くそっ、また食い物を食いまくってやがる」

「また? どういう事だゲンル?」

「ああ、あの魔物は最近になってこの町に現れるようになってな……見つけた食い物を食い漁ると直ぐに何処かに飛び去って行くんだ、しかも厄介な事に食い足りない場合は周りの建物を破壊して、食い物を見つけようとするんだよ」

「それは厄介だな……」

「ああ、何とかしてあの魔物を倒したいが、俺達の力じゃあいつを倒せないんだ……だからいつもあいつが食い物を食い終わって満足するのを遠くで見ているしかないんだよ……」

「……分かった、ここは俺の従魔に任せてくれ」

「お前の従魔達に? そいつらはあいつを倒せるほど強いのか?」

「ああ、だから任せてくれ」

「……分かった、任せたぜ」


バノンがゲンルを説得し、私達はギンヤンマの元へと向かう。


私はギンヤンマに鑑定を使い、ステータスを見た。













ステータス

 名前:無し

 種族:シルバードラゴンフライ

 レベル:50/100

 ランク:A-

 称号:捨てられし者、ハンター

 属性:風

 スキル:水中移動レベル5、昆虫の鎧、怪力鋏、俊敏

 エクストラスキル:奇襲、大鎌鼬














A-……レベルも高いし、中々の強敵だな……でも何だこの称号……捨てられし者? 何でこんな称号を持っているんだ?


まぁいい、まずは先制攻撃だ!


「《炎の角》、《斬撃》!」


私は炎の斬撃をシルバードラゴンフライ目掛けて撃ち放った!


シルバードラゴンフライは私の攻撃に気付いたのか、食べるのを止め、翅を高速に羽ばたかせて空を飛び、炎の斬撃を回避した!


くそっ外れたか……流石の動体視力だな……


(ちょっと、何するんすか!)


え?


私がそう思っていると、知らない声が聞こえてきた。


ひょっとして逃げ遅れた人か?


そう思い私は辺りを見渡すが、人っ子一人いない、まさか……


私はシルバードラゴンフライを見る。


(自分の食事を邪魔するなんて酷いっす! 自分怒ったすよ!)


「喋った!?」


そう、シルバードラゴンフライが喋っているのだ。


私が驚いていると、私の声を聞いたシルバードラゴンフライも驚いていた。


(お前自分の声が聞こえるんすか!? ……まさかお前……)


シルバードラゴンフライの雰囲気が変わった。


(……ついに、ついに見つけたっすよ……)


見つけた? 何を?


(この時をずっと待っていたっす……お前をぶっ殺せるこの時を! 《大鎌鼬》!)


シルバードラゴンフライの周りに巨大な風の刃が発生し、そのまま私目掛けて撃ち放たれた!
















「第66回次回予告の道ー!」

「と言うわけで始まったこのコーナー!」

「遂にトンボが登場したね」

「そうじゃのう、作者が好きな昆虫の種類の一つじゃからのう……しかしあのトンボが言うとった言葉はどういう事なのじゃろうな?」

「それは私にも分からない……でも次回には分かると思うよ」

「うむ、それでは次回『カブトvsトンボ』!」

「「それでは、次回をお楽しみに!!」」


・注意、このコーナーは作者の思い付きで書いているので次回タイトルが変更される可能性があるのでご注意下さい。

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