第108話 守りし秘密Ⅰ

―数時間後、歌姫……いや、魔海王のライブは終わった。


『みんなー! 最後まで聴いてくれてありがとー♪』


『『『うおおおおおおおおおおおおおおお!!!』』』


観客たちは歌姫に拍手喝采を送っていた。


「いやー……何か色々と凄かったねー……」

「……うむ」


歌姫の正体が魔海王という事実には驚いた。


しかしそれ以上に魔海王の歌はそんな驚きを吹き飛ばすほど素晴らしかった。


まるで女神の声を効いたかのように、私は感動してしまった。


本当に素晴らしかった……


ただ、ミミズさんは歌を聴いて感動しているとかではなく、魔海王の現状を知って驚愕している感じだった。


「いやー、凄かったな……あんなに美しい歌声を聞いたのは初めてだぜ……」

(とってもすごかったー♪)

(歌声綺麗でしたー♪)

(ええ、とても素晴らしかったですわ)

(僕は今、とても感動しています……)

(あんないい歌声を聴けて嬉しいでさぁ)

(素晴らしかったであります! 感動であります!)

『『ギチチチチィィィィィィ!』』


他の皆も魔海王の歌を聞いて感動しているようだ。


「お姉ちゃん! 歌姫様凄かったねー♪」

「そうね、はぁ……何度聞いても素晴らしいです」

「うたひめさまのうたさいこー♪」


オリーブ達も魔海王の歌を聴いて感動しているようだ。


「どうだったヤタイズナ殿、彼女の歌は?」

「ガーベラ王妃、一体どういう事なんですかあの歌姫が……」

「私がどうかした?」

「!?」


突然背後から声が聞こえ、背後を振り向くと、先程まで舞台で歌っていた魔海王がいた。


「レヴィヤ、今回の歌もとても素晴らしいかったぞ、流石だな」

「ふふーん♪ 当たり前よ♪」

「あー! 歌姫様だー!」

「うたひめさまー♪」


ウィズ達が魔海王の元に来る。


「あらミモザ、今日も私の歌は最高だったでしょう?」

「うん! さいこうだったー♪」

「ふふーん♪ やっぱりそうよねー♪ ……あら? 貴女誰?」

「私はウィズでーす! 歌姫様、歌とっても素敵でしたー!」

「うふふふ♪ そうでしょう? やっぱりそうよねー♪ 私の歌の虜にならない人間なんていないわよねー……んん?」


とても上機嫌だった魔海王の視線が私で止まり、私を見つめてきた。


「……アンタ、どっかで会ったかしら? 何か懐かしい感じが……」

「……オリーブ、ウィズ、ミモザ、私達はこれから大事な話をする、すまないが部屋に戻っていてくれ」

「大事な話ですか? ……分かりました、ウィズ、ミモザちゃん、行きましょう」

「分かったー!」

「わかったー!」


ガーベラ王妃の言葉を聞き、オリーブ達が部屋から出ていった。


「おい魔海王! 何じゃその姿は!」


ミミズさんが魔海王に怒鳴ると、魔海王が驚きの表情でミミズさんを見た。


「……え、嘘、アンタもしかして……魔蟲王?」

「そうじゃ、久しぶりじゃのう、魔海王」


一瞬の静寂。


そして。


「……ぷっ、あははははははははははははははははははは!!」


魔海王が大声で笑い始めた。


「な、何じゃ!? 何故笑うのじゃ!?」

「アンタ何なのよそのちんちくりんな姿は!? あはははははははははははははははははは!! お、可笑しくて笑いが止まらないわ!」

「何じゃとぉ!? 魔獣王だけでなく貴様まで笑うのか!?」

「あははははははははははは……はぁっ、あー笑った笑った、良いサプライズだったわよ? ……で? 何でアンタここに居るの? ていうかアンタ死んだんじゃなかったっけ?」

「うむ……話せば長くなるのじゃが……」

「じゃあ話さなくていいわ」

「って待てぇっ! ここは話を聞くのが常識じゃろうが!?」

「だって長くなるんでしょ? 昔からアンタの話は大半がつまらないから聞いてて退屈なのよ」

「儂の話が退屈じゃとぉ!?」

「ああそれは分かる」

「おいコラヤタイズナ、そこは否定するところじゃろうがぁ!!」

「……ヤタイズナ? それ魔蟲王の名前でしょ? なんでこの魔物がその名前を名乗ってるのよ?」

「ええっとですね、実はですね……」


私は分かりやすく、かつ短めに今までの経緯を話した。


「ふーん、なるほどねぇ……つまり魔蟲王、ミミズさんはアンタに魔王の座を譲って魔王でも何でも無いただの非常食のワームになったてわけね?」

「そう言う事です」

「ただのワームではない! 種族はそのままじゃ! というか非常食でもないし!!」

「まぁまぁ、落ち着いてよミミズさん」


私は起こるミミズさんをなだめる。


「それにしても新しい魔蟲王ねぇ……まあ良いわ、それじゃあ新しい魔蟲王に自己紹介しましょうか♪ ……オーッホホホホホホホホホホホホホ!!!」


そう言うと魔海王はいきなり高笑いをし始めた。


「私は歌で総ての人間を虜にする者! キュートで可愛い六大魔王が一体♪ 魔海王レヴィヤ・ターンよ!!」


……六大魔王は何かしら口上言わないと駄目なルールでもあるのか?


「ふふふ……決まったわ!」


魔海王は自分なりに口上が上手くいったらしくどや顔をしていた。


「決まったわ、じゃないわ! 何じゃその口上は! 前の口上と違うではないか!」

「そりゃそうよ、変えたんだもん」

「そんな簡単に変えるな! 一度決めた口上は変えずにずっと使うもんじゃろうが!」

「別に良いじゃない、本当アンタは昔からそう言う所だけはお堅いんだから」


ミミズさんと魔海王が口上の事で揉めていた。


……どうでもいいからさっさと話し進めて欲しいんだけど……








―30分後、やっとミミズさんと魔海王は口上の話を止めた。


「ところで魔海王、その姿は一体何じゃ!」

「? この姿が何だっていうの?」

「何故人間の姿に化けているのじゃ! というかそもそも、何故お主はこの国で歌なぞ歌っているのじゃ!」

「んー……その辺の話は長くなるわよ? 良いの?」

「かまわん!」

「そう、それじゃあガーベラ、あそこに行きましょうか」

「……分かった、ヤタイズナ殿、来てほしい場所がある、付いてきてくれないか?」

「? 何処に行くんですか?」

「何故私が魔海王と知り合いなのか、そしてあのブロストと言う者がこの国を襲った理由が分かる場所だ」

「ブロストが襲った理由……?」


そう言えばブロストの奴、王妃から聞きたい事は聞いたとか言ってたな……


そのブロストがアルトランド王国を襲った理由も分かると言う事は……ブロストの狙いは六大魔王に関係するモノだったのか?


「……分かりました、行こうミミズさん」

「うむ」


私達はガーベラ王妃に付いて行き、目的の場所へと移動し始めた。

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