第107話 魔海王

「うーん……」


ガーベラ王妃と話した翌日、私は厩舎で考えていた。


「どうしたのじゃヤタイズナ、考え事か?」

「ミミズさん、いや魔海王が今日この国に来るって話……本当なのかな?」

「そんなこと儂に聞かれても困るぞ……とりあえずあの人間が今日来ると言っていたのじゃから、本当なんじゃろ多分」

「うーん……」


昨日ガーベラ王妃が魔海王が明日来ると言った時、私はどういう事なのかガーベラ王妃に聞いたのだが、ガーベラ王妃は「明日になれば分かるから明日またこの部屋に来てくれ」と言って教えてくれなかった。


「ところでミミズさん、聞いてなかったけど、魔海王の名前ってなんていうの?」

「そう言えば言ってなかったのう、魔海王の名前はレヴィヤ・ターンと言うのじゃ」


レヴィヤ・ターン……あのレヴィアタンか?


確か別名リバイアサンで、七大罪の悪魔の一体とかで有名な海の怪物だったはずだ。


「ミミズさん、魔海王ってやっぱり大きいの?」

「ん? そうじゃのう……以前の儂と同じぐらいだったはずじゃが……」


以前と同じ……と言う事は10メートルぐらいか?


そんな巨大な魔物が王国に入ってきたら国民達が大騒ぎするんじゃないのかな……?


しかしガーベラ王妃は魔海王が来ることに全然狼狽えたりしていない……それに王妃が言っていた楽しみにしていてくれって……どういう意味なのだろうか?


考えていると、外が暗くなり始めていた。


もう夕方か……


そう思っていると、厩舎に誰かが入って来た。


「よう」


入って来たのはバノンだった。


「バノンか、どうしたの?」

「ああ、王妃様からお前達を連れて部屋に来てくれと言われてな」

「そうか、それじゃあ行こうか」


王妃が呼んでいるって事は、昨日の言葉の意味がようやく分かるのか。


私達はガーベラ王妃の部屋に向かった。






「王妃様、バノンです」

「おお来たか、入ってくれ」


王妃の言葉を聞き、私達は扉を開けて中に入った。


「あれ? ヤタイズナさん達だー!」

「やたいずなさんだー♪」


すると部屋にはガーベラ王妃と国王リオン以外に、オリーブ、ウィズにミモザ姫が居た。


「オリーブ、ウィズにミモザ姫、何故ここに?」

「姉様に部屋に来いと言われまして……あれ? ヤタイズナさん姉様の前で普通に喋っていますけど良いんですか?」

「それは大丈夫です、ガーベラ王妃達には私が喋れることは教えているので」

「そうだったんですね、それなら安心ですね」

「オリーブ、そろそろ始まるぞ、テラスへ来い、バノン殿達もこっちへ」

「あ、はい」

「始まるって……これから何かあるんですか?」


私の質問にウィズが答えた。


「それはねー、もうすぐ歌姫様が舞台で歌を歌ってくれるんだよー」

「歌姫って……祭りの最後に歌うっていうあの? でも祭りは魔物の襲撃で途中で中止になったんじゃ……」


私の疑問にオリーブが答えてくれた。


「それがですね、魔物の襲撃で傷ついた人達を元気づけるために、歌姫様が歌を歌ってくれることになったんです」

「へー……」


傷ついた人達のために…その歌姫様はとても素晴らしい人なんだな…


「傷ついた人のため……か、ははっ……」

「?」


オリーブの言葉を聞いて、ガーベラ王妃が何故か苦笑いをしていた。


「まあとにかくこっちに来い、ここなら舞台が良く見えるからな」


私達はテラスに移動した。


テラスから街を見ると、祭りの時に見た舞台の周りに、多くの船が停まっていた。


街道も人で埋まっていた。


「凄い数の人ですね」

「皆それだけ歌姫様の歌を楽しみにしていたんですよ」

「……ん? お、おい! アレを見ろ!」

「!?」


バノンが空を指差した方角を見ると、空に何かが漂っていた。


あれって……クラゲか?


空を漂っていたのは、全長6メートルはある巨大なクラゲだった。


クラゲは舞台に向かってどんどん下に降りて行く。


よく見るとクラゲの頭の真上に人影が見えた。


「ふふっ、今回も派手な登場だな」

「今回も?」


……てことは、あのクラゲの真上にある人影が歌姫なのか!?


そしてあのクラゲは歌姫の従魔なのだろう。


クラゲが舞台に到着すると、クラゲに乗っていた人影が飛び降り、舞台に着地した。


その瞬間、舞台の周りに居た人々が歓声を上げた。


あれが歌姫……


歌姫は身長150センチ程で均整の取れた顔に青の瞳、髪は青色のロング。


水色のフリフリドレスを着ていてとても可愛らしい美少女だ。


しかし一つだけ、変な部分がある。


スカートの下から青色の鱗に覆われた尻尾が生えているのだ。


普通の人間に尻尾が生えているわけが無い。


彼女は一体何者なんだ?


そう思っていると、歌姫の周りに青色の水晶玉が現れる。


そして歌姫の手にはいつの間にか小さな水晶がはめ込まれたバトンが握られていた。


そして歌姫は周りの観客に向けてポーズを取った。


『最強!』


『『『無敵ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!』』』


歌姫の言葉に応えるように観客たちが大声で叫び始めた!


『とっても♪』


『『『ラブリィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!』』』


『この世の人間は総て私の虜! スーパー☆歌姫レヴィヤ・ターン!! ただいま参上♪』


『『『『レヴィヤたーーーーーーーーーーーーーーん!!!!』』』』


歌姫が口上を終えると、観客たちは大歓声を上げた。


『みんな-! 今日はレヴィヤのために集まってくれてありがとー!』


「キャー!」

「うおおおおおお!」

「レヴィヤたーん!」

「素敵ー!」


『レヴィヤ、今日はみんなのために精一杯歌うから、みんなレヴィヤの歌で元気になってねー♪ それじゃあ一曲目、『恋のアトランティス』! 行くよー♪』


『『『『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』』』』


歌姫の周りの水晶玉から音楽が鳴り始め、歌姫が歌い始めた。


観客たちが盛り上がる中、私達は突然の事に呆然とする。


「……え? レヴィヤ・ターン? ……ガーベラ王妃、まさかと思うけど、あれが……?」

「ああ、彼女がそうだ」

「な……な……何しとるんじゃ魔海王ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!?」


ミミズさんの心からの叫びは、観客たちの大歓声に掻き消された。
















「第60回次回予告の道ー!」

「と言うわけで始まったこのコーナー!」

「まさか歌姫が魔海王だったなんてね……」

「全く、本当に何しとるんじゃあ奴は!」

「まぁまぁ、落ち着いてよミミズさん、さて次回はこの王国の秘密について話すらしいよ」

「秘密? ブロストが王妃に聞いてた事と関係しとるのかのう……」

「それは次回『守りし秘密』を見れば分かるよ!」

「「それでは、次回をお楽しみに!!」」


・注意、このコーナーは作者の思い付きで書いているので次回タイトルが変更される可能性があるのでご注意下さい。

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