第102話 アルトランド王国防衛戦Ⅲ

―北側の街。


「…妙だな…魔物の数が急に減ったぞ?」


私達は北側の街で魔物討伐を行っていたのだが、突然魔物の数が激減したのだ。


ついさっきまでブルークラブが大量に出てきていたのに、見る影すらない。


「何やら面倒なことが起こってそうじゃのう…」

「どうするんだ?」

「…この辺りには魔物がいなくなったみたいだし、別の場所の手助けに行こう」

「それが良さそうじゃのう」

「よし、それじゃあここから一番近い東の方に行くか、ミミズさん、バノン、私に乗ってくれ」


私はミミズさんとバノンを乗せて空を飛び、東側の街に向かった。













「…おかしい、ここにも魔物がいないぞ?」


私達は東の街に到着したのだが、全然魔物が見当たらない。


一体何があったんだ?


そう思った時。


「ぎゃあああああ⁉」


近くから人の悲鳴が聞こえた。


「魔物か⁉」

「あっちから聞こえたぞ!」


声の聞こえた方に向かうと、騎士達がブルークラブと戦っていた。


「ぐあああああ⁉」

「ぎゃああああ⁉」


ブルークラブの攻撃を受け、数人の騎士が吹き飛ばされた!


「バノン、ベルを連れて負傷した騎士達を治療してくれ!」

「分かった!」


私は空を飛び、ブルークラブの真上へと向かった。


「お、おい、上を見ろ!」

「あれは…バノン様の従魔⁉」

「《炎の角・槍》!」


そしてそのままブルークラブの目掛けて落下し、炎の角をブルークラブの背中に突き刺した!


そしてそのまま炎の角・槍を炎の角に戻し、ブルークラブを焼いて行く!


ブルークラブは激しく暴れて私を振り落とそうとするが、段々動きが鈍くなって行き、数分後には真っ赤に焼き上がって地面に倒れた。


私は角を引き抜き、バノンの元に向かった。


(《癒しの鈴音》)


リーン♪ リーンリーン♪ リリーン♪ リリリーン…


ベルの癒しの鈴音によって負傷していた騎士達の傷が癒えていった。


「おお…傷が治っていく」

「助かった…」

「バノン様、助けていただきありがとうございます、バノン様が来てくれなければどうなっていたか…」


ゼイムがバノンに礼を言った。


「礼なんていいですよ、ところでゼイムさん、王妃様の姿が見当たらないんですが…」


バノンは辺りを見渡していると、ゼイムはとても悔しそうな表情で話し始めた。


「…王妃様は、敵に攫われてしまったのです」


何だって⁉ 王妃が攫われた⁉


「王妃様が攫われたって…い、一体何があったんですか⁉」

「…私達が王妃様と共に魔物達を討伐していたら、空間に突然亀裂が現れ、青い鎧の男が現れたのです、名前は確か、ブロストと…」


ブロスト⁉


私はその名前に聞き覚えがあった。


レイド大雪原で仲間であるはずの黄のザハクを攻撃し、大量の魔物達を操って私達を殺そうとした球体が名乗っていた名前だ。


「その男は王妃様に話がしたいと言いました、王妃様がそれを拒否したその時、王国騎士団副団長のリンドが裏切り、王妃様を攻撃し、王妃様を連れてその男と共に亀裂の中に消えて行きました…」


リンド? 


…確か私達を厩舎まで案内してくれた…あの騎士がブロストの手先だったとは…


「私達は王妃様を助けようとしましたが…魔物達に阻まれて…まさかリンドが裏切るなんて…」


ゼイムは拳を強く握りしめて悔しがっていた。


…しかし、これからどうしようか…王妃を助け出そうにも居場所が分からない。


それにブロストは何故この王国を襲ったんだ?


私がそう考えていると。


「バノンさ―――――ん!」


城の方角からバノンを呼ぶ声が聞こえた。


この声…ウィズ⁉


何でここに…ってオリーブ⁉ ミモザ姫⁉


声が聞こえた方を向くと、ウィズだけでなくオリーブとミモザ姫まで来ていた。


「はぁっ…はぁっ…た、大変…」

「ウィズ、城に居るはずじゃ、それにオリーブ姫まで…一体どうしたんだ?」

「大変ー! 大変なんだよバノンさん! 城の中に魔物達が現れたのー!」

「何だって⁉ 本当か⁉」

「本当です、私達が城の中に居る時に突然魔物が現れて…ウィズのおかげで私とミモザちゃんは何とか城から逃げてこられたのですが…リオン義兄様が魔物に捕まってしまって…」

「おとーさん…」


城に魔物が…と言う事はブロストは城に居ると言う事か?


「ミミズさん、ゼイムが言っていた亀裂って…」

「うむ、恐らくは空間移動のスキルじゃろうな」


やっぱりか…ブロストはそのスキルを使って魔物達をこの王国に侵入させたのだろう。


そして城に突然魔物が現れたと言う事は、ブロストは今城に居ると言う事だろう。


私はバノンに小声で呼び、こう喋れと伝えた。


バノンは分かったと言い、ゼイム達に近づき喋り始めた。


「ゼイムさん、恐らく王妃様を攫った奴らは城に居ます」

「本当ですか⁉」

「はい、私達は今から城に向かい、魔物達から国王様を助けに行ってきます」

「それでしたら、私達も一緒に…」

「駄目です、これだけの大人数で向かったら敵に気付かれる可能性がありますので私と従魔達だけで行きます、ゼイムさん達はオリーブ姫達を守っていてください」

「…分かりました」

「それでは行ってきます」

「バノンさん! 頼んだねー!」

「バノンさん、よろしくお願いします…ヤタイズナさん、頑張ってください…」


私達は全速力で城に向かって飛んだ。









城門前に着くと、城門に魔物がいたので建物に隠れて様子を見ることにした。


城門前に居るのはオーガとゴブリン達だ。


「やっぱり見張りがいるね…」

「どうする気じゃ?」


いつもならこのまま正面突破するところだけど、今回は国王と王妃の救出だ。


下手に騒いで気付かれてしまい、王妃や国王を人質にされたらそれで終わりだ。


今回は隠密行動で行こう。


「カトレア、花の鎌であの魔物達をこっちに誘導してくれ」

(分かりましたわ、《花の鎌》!)


カトレアの花の鎌の香りが魔物達の元に向かって漂っていく。


「グギャ? …グ、ギャギャ…」

「グオオオ…」


花の鎌の香りを嗅いだゴブリンとオーガ達はうつろな表情で私達の元に向かって歩いてくる。


私達の元にまで魔物達が来た瞬間、私達は魔物達の首を切り落としていった。


「よし、パピリオ、周囲に他に魔物がいないか確かめてくれ」

(分かりました)


パピリオが空を飛び周囲を確認する。


(他に魔物はいないみたいですー)


「よし、突入だ」


幸い城門は開いたままだったので、私達はそのまま城門から城の中に入った。


そして物陰に隠れながら進み、城内に入った。


「…結構手薄だな、もっと大量の魔物が徘徊していると思ったのに…」

「そうじゃのう、しかし油断は禁物じゃぞ」

「分かってるよ」


その後、城内に居る魔物達を発見次第カトレアの花の鎌で誘導してから始末していくと、大きな扉の前に大量のオーガとゴブリン達が居た。


「あそこだけ凄く厳重だな…」


恐らくあそこに国王が居るのだろう。


「カトレア、頼む」

(《花の鎌》!)


カトレアの花の鎌でオーガとゴブリン達をこちらに誘導し、斬り殺していく。


扉の前の魔物達を全員倒し、扉の前に来た。


中に魔物が居るかもしれないので、炎の角・槍で扉に小さな覗き穴を作った。


「バノン、中がどうなっているか確認してくれ」

「分かった」


バノンが覗き穴から部屋の中を確認する。


「…城で働いていた人達が集められているみたいだ…! 国王が居たぞ!」

「そうか、魔物はいる?」

「ああ、結構な数のオーガ達がいるぞ」

「よし、カトレア」

(《花の鎌》!)


カトレアが覗き穴から花の鎌の香りを部屋の中に送って行く。


「グ、グオオオオオ…」

「オオオオオオオ…」


花の鎌の香りが聞いてきたので、私は炎の角で扉の鍵を溶かし、扉を開けた。


「オオオオオ…」


部屋の中に居たオーガ達がうつろな表情でこちらに向かって歩いてきたので、全員斬り殺し、部屋の中に入った。


「あああ…ああああ…」

「ううう…」


…部屋の中に居た人達にも花の鎌が効いてしまったらしく、皆虚ろな表情をしていた。


「あああああ…」

「国王様! しっかりしてください!」

「あああああ…あ? あれ? 私は一体…ってバノン殿⁉ どうしてここに…」


バノンが国王の身体を揺さぶると、国王は正気に戻ったので、バノンが助けに来たことを説明した。


「そうか…ありがとう、城の者達を助けてくれて…」

「礼はいいです、それより、この城の何処かに王妃様が捕まっています」

「何だって⁉ ガーベラが⁉」

「はい、私達は城の中を探しますので、国王様達はここにいる人達を連れて避難していて下さい」

「分かった、バノン殿、ガーベラを頼む」

『探す必要なんてないですよ?』


突然天井から声が聞こえてきた!


上を見ると、青色に光る球体が天井付近を漂っていた。


『いやはやさすがですねぇ、しかしまさかザハクを倒したあなた方がこの国に居るとは…偶然って凄いですねぇ…』


この声は、間違いない! ブロストだ!


ブロストの声を聞いたミミズさんが球体に向かって怒鳴り始めた。


「おい貴様! あの時の奴じゃな! 儂が奴から話を聞こうとしたのに邪魔をしよって!」

「え⁉ わ、ワームが喋った⁉」


ミミズさんが喋った事に国王が驚いていた。


『邪魔と言われましてもねぇ、こちらに不利になりそうな情報を言いそうだったからついやってしまっただけですよぉ…まぁそんな話は良いとして、貴方達が探しているガーベラ王妃は玉座の間にいますよ』


何? 何でそんな事を私達に教えるんだ? 


何か企んでいるのか…?


「怪しいのう…絶対何か企んどるぞあいつ」

『何も企んでなんていませんよぉ、それではお待ちしておりますので、なるべく早く来てくださいねぇ、ふふふふ…』


その言葉を最後に球体は部屋から出ていき、上へと飛んで行った。


「ヤタイズナ、どうするのじゃ」

「…玉座の間に行こう」


罠かもしれないが、王妃を助けるには玉座の間に行くしかない。


「よし、皆行くぞ!」

「ええっ⁉ その従魔も喋れるの⁉」

「国王様! 驚いてないで城の人達を連れて避難してください!」

「わ、分かった!」


私達は玉座の間を目指して上に向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る