第99話 お祭り
―翌日。
朝食を済ませた私たちが厩舎でくつろいでいると、厩舎の扉が開き、誰かが入ってきた。
誰だろう? またオリーブ達が来たのかな?
そう考えていると、私たちの前に5、6歳ぐらいの女の子が立っていた。
髪は綺麗な蜂蜜色で、とても愛らしい顔をしている。
「わぁーおっきい~かっこいい~」
女の子は私たちを見て目を輝かせ、そのまま私たちの部屋に入ってきた。
女の子は私に近づき、私の身体を触り始めた。
「かたーい、つるつるするー」
私を触り終えた女の子は私から離れ、隣にいるスティンガーに近づき、スティンガーの身体を触り始めた。
(く、くすぐったいよー)
スティンガーを触り終えると次はミミズさんの前に来て、ミミズさんをじっと見つめている。
「…おいしそー」
「っ!?」
女の子がボソっと発した言葉を聞いてミミズさんは凄い速さで後退し、女の子と距離を取っていた。
その後女の子は別のしもべの元に向かった。
…誰だろうこの子。
着ている服は結構高価な物っぽいから貴族の子か何かかな?
いや、だとしても何でそんな子がこんな所に?
そう考えていると、再び厩舎の扉が開き、誰かが入ってきた。
「あー! やっぱりここにいたー!」
入ってきたのはウィズだ。
「うぃずおねーちゃん」
「だめだよーミモザちゃん、誰にも言わないで勝手にどっかに行ったらー、皆探してたよー」
「ウィズー!」
厩舎にオリーブが慌てて入ってきた。
「あ、お姉ちゃん、ミモザちゃんここにいたよー」
「はぁっ…良かった…もうミモザちゃん、心配したのよ」
「ごめんなさーい、おりーぶおばちゃん」
オリーブおばちゃん⁉
女の子におばちゃんと呼ばれたオリーブの顔が少しだけ引き攣っている。
「ミ、ミモザちゃん、おばちゃんじゃなくてせめてお姉ちゃんって言ってくれない?」
「? おばちゃんをおばちゃんっていっちゃだめなの? わたしまちがってる?」
「間違っては無いけど…」
「…ウィズ、ウィズ」
私は近くに居たウィズに話しかけた。
「ん? ヤタイズナさんどうしたのー?」
「あの女の子は誰なの?」
「ああ、あの子はねー、ミモザちゃんって言ってー、お姉ちゃんのお姉ちゃんの娘さんなんだってー」
「オリーブのお姉さんの娘…つまりこの国のお姫様か」
成程、オリーブの事をおばちゃんと言っていたのはそういう事だったのか。
あの子、ミモザ姫はオリーブの姪っ子で、オリーブはあの子の叔母に当たるわけだ。
「しゃべったー⁉」
私がそう考えていると、ミモザ姫が私が喋った事に驚いていた。
「おはようございますヤタイズナさん、この子がご迷惑をお掛けしたみたいで…」
「いえいえ、迷惑な事なんて何もされていないので気にしないで下さい」
「やたいずなさん? ねぇおりーぶおばちゃん、このまものさん、やたいずなさんっていうの?」
「ええそうよ、ヤタイズナさん、私の姪のミモザちゃんです」
「はじめましてーやたいずなさん、みもざです」
「どうも初めまして、ヤタイズナです…所でオリーブ、どうしてミモザ姫はここに来たんですか?」
「それがですね、朝食の時に姉様がミモザちゃんにバノンさんの事を話したんです、そしたらミモザちゃんがバノンさんの従魔の話にとても興味を持ちまして…朝食が終わって直ぐに『じゅうまさんをみにいく』と言って部屋から飛び出していったんです」
「成程…」
「お姉ちゃん、早く戻ってミモザちゃんが見つかったって皆に知らせた方が良いんじゃないのー?」
「確かにそうね、それじゃあヤタイズナさん、私達はこれで…さぁミモザちゃん、戻りましょう」
「はーい、やたいずなさん、ばいばーい」
オリーブ達はミモザ姫を連れて城に戻って行った。
しかしミモザ姫か…
オリーブがおばちゃんと呼ばれたときは驚いたなー
「私達の事を怖がってなかったし、私の事カッコイイって言ってくれたし、ミモザ姫は結構いい子だな」
「どこが良い子じゃ⁉ あのガキ儂の事『美味しそうって』…あれは完全に食い物を見る目じゃったぞ!!」
「まぁまぁ、ミミズさんが食い物扱いされるのはいつもの事なんだから、もう慣れたら?」
「慣れるかこのたわけが!!」
私の発言にミミズさんは激怒していた。
―数時間後。
オリーブは庭園でガーベラ達とお茶会を楽しんでいました。
「聞いたぞオリーブ、ウィズとバノン殿と共に祭りを見て回るらしいな」
「はい、そうなんです」
「今から楽しみだよねー♪」
「おやおや? オリーブちゃん、何だか前に来た時より嬉しそうだねー」
「え、そう見えますか?」
「うん見えるよ、あっ、さてはオリーブちゃん…バノン殿の事が好きで一緒に行けるのが嬉しいとか?」
「それはありません、私バノン様の事は何とも思ってないので」
オリーブはリオンの言葉を完全否定した。
「そ、そうなの? でも本当は…」
「絶対にありません」
「そ、そっか…」
「ははははは! リオン、お前はオリーブの事を何もわかっていないな」
「それじゃあガーベラはオリーブちゃんが嬉しそうな理由が分かるの?」
「勿論だ、オリーブ、お前が嬉しそうにしている理由は…バノン殿の従魔であるあのカブトムシと一緒に居られるからだろ?」
「えっ⁉」
オリーブはガーベラの言葉を聞いて顔を少し赤くした。
「やはりな、お前は子供の頃からあのカブトムシと言う虫に夢中だったからな…そう言えばオリーブ、お前勇者殿の一人と婚約したそうだな」
「…はい」
「…その様子だと、その勇者殿と結婚するのは嫌なようだな」
「はい…」
「父上はオリーブの幸せのためだと思ってやっているのだろうが…全く、娘の幸せを考えるならば好きな相手と結婚させてやればいいと言うのに…」
「でも仕方ないんじゃないかな? 勇者殿はアメリア王国を救ってくれた英雄なんだし…その英雄の血を王家に取り入れて国をより繁栄させようとするのは王としては当たり前なんじゃないのかな?」
「だからと言って娘が嫌だと言うのに聞く耳持たずに結婚させようなど親のする事ではない!!」
「ひぃぃっ⁉ 」
「全く…母上が国に居ればそのような事にはならなかったはずなのだがな…」
「そうですね…」
「っとすまんな、せっかくの茶会を暗くしてしまって…ところでオリーブ、お前に頼みたい事があるんだが…」
「? 何ですか?」
「明日の祭りの事なんだが…」
―祭り当日。
天気は晴天、絶好の祭り日和だ。
私達は城門前でオリーブとウィズを待っていた。
「…オリーブとウィズ遅いな…何かあったのかな?」
「さぁのう」
「バノン、何か知らない」
「いや、知らない」
しばらく待っていると、城からオリーブ達がやって来た。
オリーブはいつものドレスではなく平民が来ていそうな服で、その上にマントを被っている。
「ヤタイズナさん達お待たせー!」
「申し訳ありません、待たせてしまったみたいで…」
「大丈夫です、そんなに待ってないので…ん?」
「やたいずなさん、おはよー!」
オリーブの隣にミモザ姫が居た。
ミモザ姫も平民のような服を着ていた。
「オリーブ、どうしてミモザ姫が?」
「実はですね、ミモザちゃんも一緒に観光に連れて行って欲しいと姉様に頼まれたんですけど…駄目でしたか?」
「いえ、別に構いませんよ」
「そう言ってもらえて安心しました」
「ねーねー、早くお祭りに行こうよー♪」
「おまつりたのしみー♪」
「そうだね、それじゃあ行こうか」
私達は城を出て街に出た。
「おお、凄いな…」
街は最初に来た時よりも通行人が多くなっていて、出店もたくさん出ていて活気にあふれていた。
「凄ーい! 人がたくさんいるよー!」
「前に俺が来た時よりも人がいるな」
「美味そうな食べ物がたくさんあるのう」
(ぼく、おなかがすいてきたよー!)
(いい匂いがたくさんしますねー♪)
(俺、美味い食べ物たくさん食べたい、言う)
(匂いを嗅いだだけで涎が出てきましたわ)
(とっても美味しそうですね)
(楽しみでさぁ)
(美味な食べ物を早く食べたいであります!)
『『ギチチチチィィィィィィ!』』
スティンガー達は出店の食べ物の匂いを嗅いで我慢できなさそうだ。
「それじゃあ最初は何を食べようか?」
「この近くに美味しい焼き魚の出店があるのでそこから行きましょうか」
焼き魚か…良いな。
「よし、それじゃあ早速その店に出発だ」
私達は焼き魚の店に向かった。
「いやー、いろんな店を回ったけど、全部美味しかったねー」
「そうじゃのう」
「全くだな」
「美味しかったねーお姉ちゃん」
「ええ、そうねウィズ」
「ぜんぶおいしかった~」
(やきざかなおいしかったなー♪)
(あのジュースは絶品でしたー♪)
(俺、たこ焼き美味かった、言う)
(焼きプラチナコーンは美味でしたわ)
(僕はプラチナポップコーンと言う食べ物が美味しかったですね)
(蒲焼きが美味かったでさぁ)
(全部美味だったであります!)
『『ギチチチチィィィィィィ!!』』
大体の出店を回った私達は、広場で休憩していた。
いやー、本当に美味しかった。
「しかし色々な店を回っている間も、私達は結構注目されてたね」
「まぁ当然と言えば当然じゃがな」
出店を回っている間、多くの人々が私達を見ていた。
その多くはバノンを見ていた気がする。
「まぁ敬愛する王妃の故郷を救ってくれたバノンを見るのは仕方ない事だよね」
「前来た時と違って少し緊張したぜ…」
「そういえば…ここに来る途中運河にあったあれは何だったんだろうな…」
この広場に来る途中、運河の近くを通ったら運河に大きな円形上の物体が浮かんでいた。
あれは一体何だったんだ?
そう思っていると、私の疑問にオリーブが答えてくれた。
「あれは歌姫様のための舞台ですよ」
「歌姫様?」
「はい、夜になるとあの舞台に歌姫様が現れて、お祭りの最後を飾る歌を歌ってくれるんです、このお祭りに来る人の多くは歌姫様の歌を聞くために来たそうなんですよ」
「へー…そうなんですか」
「はい、歌姫様の歌はとても素晴らしくて、一度聴いたら忘れられなくなるんです」
「そんなに凄いんですか…」
「はい、凄いですよ」
「歌姫ねぇ…俺が前に来たときは居なかった気がするんだが…」
「歌姫様がお祭りの最後に歌うようになったのは十年くらい前ですから、バノン様はそれより前に来られたんでしょう」
歌姫か…どんな歌なんだろう?
今から歌を聴くのが楽しみだな。
「さて、それじゃあ休憩した事だし次はどこに行こうかな」
「そうですね…この広場付近で美味しいパン屋さんがあるそうなんです、そこに行ってみませんか…」
次に何処に行こうか相談していると。
カーン…カーン…カーン…カーン…
何処からか鐘の音が聞こえてきた。
何だ? と思っていると、鐘の音を聞いた人々がどよめき始めた。
「オリーブ、これは祭りの催しが始まる知らせですか?」
「いいえ違います…これは、非常事態を伝える鐘です!」
「非常事態⁉」
私達は周囲を警戒する。
すると後ろのほうから悲鳴が聞こえてきた。
「何だ⁉」
「運河の方からです!」
私達は運河に向かう。
運河に着くと、水上を滑るように移動する大量の巨大昆虫の姿が見えた。
「あの昆虫は!」
体長1メートル程で、鋭い口吻に細長い棒状の身体に非常に長い中脚と後脚、あの昆虫を私は知っている。
「ナミアメンボだ!」
ナミアメンボはカメムシ目アメンボ科に属する昆虫で、水面に浮いて生活する昆虫で、ミズグモ、カワグモ、スイバ、ミズスマシ、チョウマ、アシタカなど様々な別名を持っている。
しかし現代ではミズグモは水生の蜘蛛の一種、ミズスマシは水生昆虫の一群を意味するようになっている。
アメンボの名前の由来は飴棒で、飴はアメンボが体から飴のような臭いを放つことから、棒はアメンボの体が細長く棒のように見える事から来ている語源だ。
アメンボは水面に浮くことが出来るのだが、何故浮くことが出来るのか?
その秘密はアメンボの脚にある。
アメンボには6本の脚があるが、中脚と後脚は細長く発達しており、前脚は短い。
脚全体に細かい毛が生え、更に足先から油を出しており、これにより水の表面張力を利用して水面に立つことができ、自由に移動する事が出来るのだ。
水面を移動するときは前脚と後脚で身体を支え、中脚で水面を蹴り、滑るように移動する。
水面の蹴り方によっては素早いジャンプも出来る。
しかし水面が石鹸や洗剤などで汚れていると、表面張力が弱まり、アメンボは浮くことが出来ずに溺れ死んでしまうのだ。
それ故にアメンボは足の手入れを欠かさず、足から出る油を足先の毛に塗り付けたり、掃除をしたりしている。
ちなみに翅があるので飛ぶこともでき、新しい住処や出会いを求めて飛ぶのだ。
アメンボは幼虫、成虫共に肉食で、主に水面に落ちた昆虫に口吻を突き刺し、消化液を注入し消化された液体を吸汁する。
時には魚の死体やボウフラなどを捕食するときもある。
アメンボは感覚器官がとても発達した昆虫で、獲物を探す際は目で周囲の景色を認識しながら浮いていたり、触角や足先を使って獲物の臭いや水面に伝わる振動を感知して獲物の位置を掴む。
種類によっては縄張りや異性へのアピールなどに波を活用しているものもいるのだ。
私はアメンボに鑑定を使い、ステータスを見た。
ステータス
名前:無し
種族:ウォーターホース
レベル:10/35
ランク:C
称号:無し
属性:水
スキル:水玉
ウォーターホース…Cランクか。
ウォーターホースの群れは水面を移動しながら、船に乗っている人間達を襲っていた。
そして群れの一部が地上に上陸し、陸の人間達を襲い始めた。
あまり知られていないが、アメンボは陸上でも生活できるのだ。
「ミミズさんとバノンはオリーブ達を連れて城に戻ってくれ」
「分かった」
「あのような奴らさっさと倒すのじゃぞ!」
「レギオンとアント達とカヴキはミミズさん達と一緒に行動するんだ」
(わかりやした!)
(了解であります!)
『『ギチチチチィィィィィィ!!』』
「ヤタイズナさん、気を付けて下さいね!」
ミミズさん達はオリーブ達を連れて城に向かった。
「よし、それじゃあ皆行くぞ! 《炎の角》!」
(わかったー!)
(楽しいお祭りを邪魔する奴らは許しません!)
(俺、あいつら挟み殺す、言う)
(今回の獲物はあまり美味しそうではありませんわね)
(サポートはお任せ下さい!)
私達はウォーターホース目掛けて攻撃を仕掛けた!
「第56回次回予告の道ー!」
「と言うわけで今回も始まったこのコーナー!」
「せっかくのお祭りだったのに魔物が現れるなんて……許せないね!」
「まったく、美味い食い物をたらふく食えると思っておったのに……さて、それでは次回予告を始めるかのう」
「アルトランド王国に突如現れた魔物の大群! 王国を守るために私達は魔物を倒していくが、そこにまさかのあいつが現れる! 次回『アルトランド王国防衛戦』!」
「「それでは、次回をお楽しみに!!」」
・注意このコーナーは作者の思い付きで書いているので、次回タイトルが変更される可能性があるのでご注意下さい。
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