第96話 ガーベラⅠ
私達はゼイムに案内されて、船に乗って運河を渡り王城へと向かっていた。
(わーい♪ ぼくたちみずのうえをすすんでるよー♪)
(何だか新鮮ですねー♪)
(この川に魚はいるのかしら)
(こんな素敵な場所で演奏出来たら気持ちいいだろうなぁ…)
(凄いであります! こんな乗り物初めてであります!)
「「ギチチチチィィィィィィ!」」
初めての船に皆少し楽しそうだ。
ちなみにカヴキは船に乗らず自分で泳いでいる。
(水の中はとても落ち着いていい気分でさぁ…)
凄くご満悦のようだ。
私とミミズさんとバノンは、ゼイム達と同じ船に乗っている。
「バノン様、もうすぐ王城前に到着します」
「そうですか、いやしかしありがとうございます、従魔全員分の船を準備してくれて…」
「いえいえ、バノン様は王妃様の生まれ故郷を救ってくださった英雄同然のお方、そのお方に失礼があっては、王妃様に顔向けできませんから」
「貴方達は王妃様を尊敬されているんですね」
バノンの言葉を聞き、ゼイム達が目を輝かせて話してきた。
「当然です! 我らアルトランド騎士団、いや国民全員にとって王妃様は敬愛すべき存在! 美しく武技にも長け、優しさすら併せ持つ素晴らしいお方なのです!」
「騎士団長の言う通りです!」
「王妃様は本当に素晴らしいお方だ…」
「模擬戦で怪我をした私を心配して下さった事があった…」
「自分は王妃様に怪我の手当てをしてもらった」
「俺は王妃様との模擬戦の後、強くなったと褒めてもらったぞ!」
周りの騎士たちが王妃の話題で盛り上がっていた。
…ん? 王妃との模擬戦?
私と同じで疑問に思ったのか、バノンがゼイムに質問した。
「あの、王妃様が騎士団と模擬戦をするんですか?」
「はい、しかし私達全員、今だに王妃様との模擬戦で勝った事は無いのですよ」
ゼイムが照れくさそうに言った。
オリーブのお姉さん、相当強いんだな…
「そ、そうなんですか…しかし王妃様が相手となると、躊躇してしまう事があるんじゃないですか?」
「それはありません、王妃様相手に手加減なんて一切しません、全力で戦う事が王妃様への忠義の表れでもあるのです!」
『騎士団長の言う通りです!!』
ゼイムの言葉に騎士たち全員が賛同していた。
オリーブのお姉さんはとても人望が厚い素晴らしい人なんだな。
会うのが楽しみになって来たな。
船で移動する事数十分、目的の場所に着いたらしく、私達は船から降りて歩き出した。
「バノン様、あれがアルトランド城です」
前を見ると、とても立派な城が見えた。
城門に着くと、門番がゼイムに敬礼した。
「これは騎士団長様! 後ろに居られる方はもしや…」
「ああ、アメリア王国を救ってくださったバノン様だ」
「や、やはりそうでありましたか! 直ぐに門を開けますのでお待ちください!」
城門が開き、私達は城の中に入った。
「バノン様、王妃様と国王様が玉座の間にてお待ちしております、どうぞこちらに」
ゼイムに案内されて城内を移動する。
「ここが玉座の間になります、どうぞお入り下さい」
玉座の間に入ると、20代後半ぐらいの顔立ちの整った男女が玉座に座っていた。
「王妃様、国王様、『救国の従魔使い』バノン様をお連れ致しました」
「初めまして国王様、バノンと申します」
「おお、彼が妻の故郷を救ってくれた…初めまして、私はリオン・アルトランド、このアルトランド王国の国王だ、改めて妻の故郷を救ってくれてありがとう」
国王は柔らかな物腰でバノンに礼を言った。
「…所でバノン殿、そこに居るのが君の従魔達かい?」
「はい、そうです」
「良ければ触らせてもらってもいいかな?」
「はい?」
「いやー、魔物をこんな間近に見られる機会なんて滅多にないからさ、良いかな? ね?」
「え、いや…あの」
国王が玉座から立ちあがり、バノンの元に来てお願いしてきた。
いきなりの国王の願いにバノンが戸惑っている。
「…」
そんな中、王妃が立ち上がり、国王の後ろに来た。
そして。
「お願いだよー…痛いっ!?」
王妃が国王の頭に拳骨を喰らわせた!
「…リオン、客人に対して失礼な行動はするなとさっき聞かせたはずだが?」
「ご、ごめん、こんな機会滅多にないと思って…」
「言い訳をするな! それでも男か!」
「ひぃっ!? ごめんなさ~い!」
突然の事に私達は呆然としていると、王妃がバノンを見た。
「すまない、夫が無礼を働いた事を許してほしい」
王妃がバノンに頭を下げた。
「い、いえっ、気にしていないので大丈夫です」
「そう言ってもらえて助かる、名乗るのが遅れたな、私がアルトランド王国王妃、ガーベラ・アルトランドだ、私の故郷、アメリア王国を救ってくれてありがとう」
ガーベラ!?
オリーブのお姉さんの名前がガーベラ…
ひょっとしてオリーブのお姉さんが魔海王が気に入ったという人間なのか?
私がそう考えていると、玉座の間に兵士が入って来た。
「王妃様! アメリア王国よりオリーブ・アメリア様と勇者様達がご到着いたしました!」
「おおそうか、来たか」
え、オリーブがここに?
しかも勇者だって?
「…勇者…」
勇者と言う単語に私の隣に居たミミズさんが強く反応していた。
扉が開き、玉座の間に4人の女性が入って来る。
そのうち二人は見たことのない10代後半ぐらいの女の子達だ。
そして残る二人は…
「…ヤタイズナ、さん?」
「あれー!? ヤタイズナさん達だー!」
アメリア王国の第二王女で私と同じ虫が大好きなオリーブと、オリーブをお姉ちゃんと呼び慕っているウィズが、私達を見て驚いていた。
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