第93話 水の都へ
私達はアルトランド王国に向けて出発した。
出発してから早2週間、今回も道中特に何も起きず、現在私達は空を飛び南へと真っ直ぐ進んでいた。
「バノン、本当にこっちで間違いないの?」
私は前胸部に乗せているバノンに問いかけた。
「ああ、このペースならもう見えてきてもいいはずだが…」
「本当か? 随分前に行ったと言うとったが、ひょっとしてど忘れしたのではあるまいな?」
「バノンに限ってそれは無いだろう、ミミズさんじゃないんだしさ」
「何じゃとぉ!? お主さらっと儂の事を馬鹿にしたな! 最近儂の扱いがより酷くなっている気がするぞ!」
私の前胸部の角に巻き付いているミミズさんが私の言葉で怒っていた。
私は後ろで飛んでいるしもべ達の事を気にかけた。
「お前達、大丈夫かー?」
(だいじょうぶだよー!)
(問題ないですー♪)
パピリオの脚で持ち上げられているスティンガーが元気に返事した。
(ご心配なくですわ)
(僕も平気ですよ)
その後ろに居るカトレアとベルも元気に返事した。
更にその後ろでは…
(我ら全員、問題は無いであります!)
(あっしも問題ありやせん)
『『『ギチチチチィィィィィィ!』』』
カヴキがレギオンを脚で掴み、更にレギオンがアントを掴み、またアントがアントを掴み…と言うようなまるで組体操のような感じで一本の橋のようになっていた。
「カヴキ、本当に大丈夫か? 1、2匹私が持とうか?」
(お気遣いありがとうございやす、ですが大丈夫です! これぐらいの重さ、どうってことありやせん!)
カヴキにとってあれぐらいの重量は全然問題ないようだ、流石は力自慢のタガメだな。
そのまま飛び続け、一時間程で私達は一旦地面に降りて休憩した。
「バノン、アルトランド王国は漁業が盛んだって言ってたよね? と言う事はやっぱり海鮮料理が有名なの?」
「ああそうだ、アルトランドの海鮮料理はすごく美味でな、アルトランドの料理を食べるためだけにやって来る旅人もいるくらいなんだ、俺も食べたことがあるが、まさに絶品だったぞ」
「そんなに美味いのか…楽しみが一つ増えたよ」
「儂も食ってみたくなったのう」
(ぼくもー♪)
(私もですー♪)
(楽しみで涎が出てきましたわ)
(今から行くのが楽しみですね)
(あっしも楽しみになってきやした)
(自分達もであります!)
「「ギチチチチィィィィィィ!」」
バノンの話を聞いてミミズさん達が集まって来た。
まったく、皆相変わらず食い意地が張っているな、…まぁ私も人の事は言えないけど。
それから30分ほど休憩し、私達はアルトランド王国に向けて再び出発した。
空を飛ぶこと一時間、真っ直ぐ進んでいると、下から何やら悲鳴のような声が聞こえた。
下を見てみると、横に倒れている馬車に武器を持った男女が3人、そして荷馬車を囲むようにゴブリン達が50匹程集まっていた。
「どうやら魔物に襲われているようじゃのう」
「苦戦しているみたいだね…助けようか」
「儂は別にどっちでもいいがのう、ま、お主の好きなようにすると良いわ」
「分かった、バノン、ミミズさん、一気に降下するから掴まっててくれ」
「え? ちょっ…⁉」
私は下のゴブリン達目掛けて急降下した!
「ぬおおおおおおお!? またこれかぁぁぁぁぁぁ!」
「うおおおおおおおおお!?」
下に居た3人とゴブリン達がバノンとミミズさんの悲鳴に反応して上を見た。
「《斬撃》!」
私は急降下しながらゴブリン達目掛けて斬撃を放った!
「グケェア!?」
「ギャギャ―!?」
「ゴギャー!?」
数匹のゴブリン達が斬撃を喰らって真っ二つになった!
私はそのままゴブリン達に突進した!
「ゴゲァ!?」
「ニギャー!?」
私の突進を喰らってゴブリン達が吹き飛ぶ!
「な、何だ!?」
「あの魔物、俺達を助けてくれたのか?」
「見て、あの魔物誰かを乗せてるわ!」
3人が私を見て驚いていた。
「バノン、ミミズさん、降りてくれ」
「分かった」
「こんな雑魚共早く蹴散らすのじゃぞ」
ミミズさんとバノンを降ろした私は、ゴブリン達に突撃する!
「《炎の角》!」
「グギャー!?」
「ゴゲェ!?」
私は炎の角でゴブリン達を焼き切って行く!
そんな中、他のゴブリンとは違うゴブリン達がいた。
そのゴブリン達は肌が紫色で、獣の骸骨を頭に被り、杖を持っていた。
紫ゴブリンは全部で5匹だ。
私は紫ゴブリンに鑑定を使い、ステータスを確認した。
ステータス
名前:無し
種族:ゴブリン・メイジ
レベル:10/20
ランク:D+
属性:地
称号:無し
スキル:炎魔法レベル1、防御魔法レベル1
D+か、普通のゴブリンに比べたら強いな。
他のゴブリン・メイジも鑑定したが、全員同じステータスだ。
「グギャギャ!」
「ギャギャギャ!」
「ギャギャグギャ!」
ゴブリン・メイジ達が炎の玉を作り出し、私目掛けて一斉に放ってきた!
炎の玉のスピードは結構速いが、回避できない程ではない。
その炎の玉を、私はあえて避けずにそのまま突進した。
炎の玉が私に直撃し、全身が炎に包まれる。
「グギャギャギャ!」
「ギャギャギャギャ!」
「ギャッハハー!」
ゴブリン・メイジ達が勝ち誇ったように大笑いしている。
私はそんなゴブリン・メイジ達に向かって私はそのまま突進していく。
「グ、グギャ!?」
「ギャグギャ!?」
ゴブリンメイジ達が驚いている。
私はそのまま驚いているゴブリン・メイジ達に突進した!
「グゲェアー!?」
「ギャギャー!?」
炎に包まれた私の突進を喰らい、ゴブリン・メイジ達は吹き飛んだ。
私は身体を振り、身体を包んでいる炎を消した。
自分の身体を見ると、焦げ跡一つ無かった。
ふむ、やっぱり炎属性耐性レベル2を持ってる私にはあの程度の炎だったらダメージは全然喰らわないようだ。
「ギャ、ギャヒー!」
「ギャギャギャー!」
ゴブリン・メイジ達が倒されるのを見たゴブリン達が逃げていく。
しかし逃げた先には私より後に降りてきたスティンガー達がいた。
(くらえー!)
(《風の翅》! えーい!)
(《花の鎌》! さぁ来なさい、私のご飯達)
(殲滅であります!)
(全員ぶっ飛ばしてやらぁ!)
「「ギチチチチィィィィィィ!」」
こうして、ゴブリン達は全滅した。
バノンが3人に話しかける。
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ、大丈夫だ、ありがとう」
「助けていただき、ありがとうございます」
「あの魔物達は…あなたの従魔なんですか?」
「はい、その通りです」
私達はバノン達の元に集まった。
「これだけの魔物を使役しているなんて…」
「凄すぎる…」
「一体何者なの…」
3人が驚いていると、倒れている荷馬車の扉が開き、中から一人の中年男性が出てきた。
中年男性が小走りでバノンの元にやって来た。
「あ、貴方が助けてくれたのですか⁉」
「は、はい」
「ありがとうございます! 貴方は命の恩人です!」
中年男性がバノンの手を取り感謝の言葉を言った。
「失礼ですが、お名前を聞かせていただいてもよろしいですか?」
「ば、バノンです」
バノンが名乗ると、3人が驚いていた。
「バノン!? バノンってまさか…」
「アメリア王国に迫っていた魔物の大群を、使役していた従魔達で半分以上を蹴散らし、サイクロプスをも倒したと言うあの…」
「『救国の従魔使いバノン』!?」
「ハァッ!?」
3人の言葉を聞きバノンは驚いていた。
「ち、ちょっと待ってください、何処でそんな話を!?」
「アメリア王国周辺の町とかの冒険者ギルドでは結構有名な話ですよ?」
どうやらあの戦いでの活躍が広まり、バノンは結構な有名人になってしまったようだ。
「バノン様、助けていただきありがとうございます、私はダイト、この辺りの町で商人をしている者です」
「いや本当に助かったぜ、まさかゴブリン・メイジが居るなんてな…」
「全くです、危うく全滅してしまう所でした」
「バノンさんのおかげです、ありがとうございました」
「いえいえ、所であの馬車は大丈夫なんですか?」
バノンが倒れている馬車を指差した。
「そうだった!」
ダイトは慌てて荷馬車に向かい、荷馬車に積んである数個の木箱を確認した。
「良かった、荷物は無事だ…」
「そんなに大事な荷物だったんですか?」
「はい、この荷物は今度アルトランド王国で行われる祭りで出店を出す店に届けなければならない大事な物なんです」
「と言う事は、その木箱の中身は食べ物ですか?」
「はい、アメリア王国の名産品、プラチナコーンです」
プラチナコーン!?
その言葉を聞いて私としもべ達全員が木箱を凝視する。
プラチナコーン、あの味は今でも憶えている。
アメリア王国で貰ったプラチナコーンはこの前帰った時にもうすべて平らげてしまったんだよなぁ…
「何とか数日後に行われる祭りに間に合わせなければいけないのに…ゴブリン達の襲撃で馬車は壊れ、馬は逃げてしまった…このままでは祭りに間に合わない…」
ダイトがバノンの元に来て頭を下げてきた。
「バノンさん! お願いです、貴方の従魔達の力を貸していただけないでしょうか⁉」
「え、いやその…」
「勿論お礼も致します! ここにあるプラチナコーンを一箱バノンさんにお譲り致します!」
何っ!?
「あー…その、少しだけ待ってもらえますか?」
そう言うとバノンと私達はダイト達から少し離れた場所で話し合った。
「どうするんだ? 力を貸すのか?」
「勿論だよ、力を貸してあげよう」
プラチナコーンが一箱手に入るんだ、こんないい話はそうそう無い。
「うむ、今回は儂も賛成じゃ」
(ぷらちなこーんたべたーい♪)
(私もです~♪)
(またあの美味なる食べ物が食べられるのですわね)
(今から食べるのが楽しみです)
(あっしはまだ食ったこと無いんで食ってみたいですね)
(自分達も食べたいであります!)
「「ギチチチチィィィィィィ!」」
満場一致でダイト達を助けてあげることにした。
私はバノンに指示してダイトの元に向かわせた。
「ダイトさん、その話受けさせてもらいます」
「本当ですか!? ありがとうごさいます!」
「それじゃあ馬車を起こしますので、少し離れていてください」
「分かりました」
ダイト達が馬車を離れる。
私は馬車に近づき、角で馬車を起こした。
「す、凄い…馬車を軽々と…」
「それでは皆さん、馬車に乗って下さい」
「え? しかし馬が居ないから動かないのでは…」
「大丈夫です、乗って下さい」
「わ、分かりました…」
バノンの言葉に従い、ダイト達が馬車に乗り込む。
「ところでヤタイズナ、お前の言われた通りにしたが、これからどうする気だ?」
「勿論馬車を運ぶんだよ」
「運ぶって、お前が馬の代わりに馬車を引くのか? それだと結構時間かかるんじゃないのか?」
「いや引くんじゃなくて、『運ぶ』んだよ」
「…どういう事だ?」
「いいからいいから、ほらバノンも乗って」
「わ、分かった」
バノンが荷馬車に乗り込んだ。
「よし、それじゃあ始めるか、いくぞカヴキ、レギオン」
(分かりやした)
(了解であります! 全員、荷馬車に掴まるであります!)
「「ギチチチチィィィィィィ!」」
私は馬車の真下に潜り、カヴキが馬車の屋根を掴んだ。
そして荷馬車の側面にレギオン達が掴まった。
「フンッ!」
私は角で荷馬車を持ちあげた。
「な、何だ!?」
「馬車が揺れたぞ!?」
「バ、バノンさん、これは一体!?」
「だ、大丈夫です、安心してください」
「よし、カヴキ、同時に行くぞ!」
(へい!)
私とカヴキは翅を広げ、そのまま荷馬車を空中に持ち上げた。
「ちょっ!? この馬車飛んでるわよ⁉」
「ば、バノンさん!?」
「だ、大丈夫、大丈夫ですから安心してください」
「ミミズさん達は後ろをついてきてくれ」
「分かった、しかしお主、無茶なことするのう」
「そう?」
カブトムシは自分の身体の倍以上の物も持ち上げられるほどの力持ちだ、これぐらいならどうってことは無い。
それにカヴキも力は相当強い、これなら歩いて行くより数段早くアルトランド王国に着くだろう。
「よし、それじゃあ出発だ!」
(はい!)
私とカヴキは馬車を持ちあげたまま空を進んで行く。
その後ろからパピリオがスティンガーとミミズさんを抱えて飛び、カトレアがベルを脚で掴み後に続いて飛んだ。
よし、このまま一気にアルトランドに向かうぞ!
「バ、バノンさん、恩人に対してこういう事を言うのも失礼かもしれませんが…本当に大丈夫なんですよね!?」
「はい! 本当に大丈夫です!」
馬車の中が少し騒がしいが、私達は順調にアルトランド王国に向かって進んで行った。
「第51回次回予告の道ー!」
「と言うわけで今回も始まったこのコーナー!」
「今回は特に話は進まなかったね」
「そうじゃな、しかしプラチナコーンが手に入るのなら良いのではないか」
「その通りだね、さて次回はランド大樹海に居るガタクが主役になるみたいだね」
「あ奴は今回留守番じゃからのう、一体何をしているのかのう…」
「それでは次回『ガタクの出会い』!」
「「それでは、次回をお楽しみに!!」」
・注意、このコーナーは作者の思い付きで書いているので、次回タイトルが変更される可能性があるのでご注意下さい。
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