第90話 虫愛づる姫君のお出掛け


アメリア王国、王城、オリーブの自室。












「はぁぁぁ…」


私はベットの上で深いため息を吐きました。


勇者様達が西から戻って来たと爺やに聞いた時、私の幸せな気分は何処かに吹き飛ばされてしまいました。


勇者様達が戻って来て早一週間、王国は勇者様達が戻ってこられたことによりお祭りのように騒がしくなりました。


城でも勇者様達を祝う宴で皆笑顔でした。


…私を除いてですけど。


勇者様が戻って来てから私はとても憂鬱です。


何故って? そんなの決まっています。


お父様によって勝手に婚約者に決められた、あの好きでも何でも無い勇者様、鳳悠矢(おおとりゆうや)様とほぼ毎日のように顔を合わせなければならないからです!


勇者様が戻って来たあの日、私は勇者様達の元に嫌々向かいました。


いくら会うのが嫌だからと言っても、この国のために戦ってくれた勇者様達に礼を言わないなど失礼ですから。


私は戻って来た勇者様達に感謝と労いの言葉を笑顔で言いました。


すると鳳様が私に近づき、私の手を握ってこう言いました。


「君の笑顔を見るために戻って来たよ…オリーブ、僕の心に咲く一輪の花」


何かよく分からない言葉を言った後、私の手の甲にキスしてきたのです。


それを見ていた周りの侍女達は黄色い声を上げ、他の勇者様達、橘綾香様はため息を吐き、森山海斗様は口笛を吹き、渡辺瑞樹様は顔を赤くしていました。


手の甲にキスされた私は、あまりの不快感に鳥肌が立ちました。


すぐに勇者様から離れて部屋に帰りたかったのですが、私は何とか我慢し、笑顔を崩しませんでした。


その後、勇者様達はお父様に呼ばれて謁見の間に向かいました。


その瞬間私は一目散に部屋に戻り、手の甲を水で洗い流しました。


あの時は本当にゾッとしました。


好きでもない人にあのような行為をされる事がここまで不快になるなど初めて知りました。


私はしばらく不快な気分になり、カブトムシのぬいぐるみ(命名ヤタイズナさん)を抱きしめてベットに倒れ込みました。


その後、もしヤタイズナさんが手の甲にキスしてくれたら…と言う妄想をして、悶えてしまいましたけど…


その翌日からも、ほぼ毎日のように鳳様は私に会いに来て、一緒にいたりしなければなりませんでした。


私の楽しみである庭園でのティータイムの時にすら一緒に居られて、全然楽しくありませんでした…


そんな日々が続いたある日、王国に一通の手紙が届きました。


その手紙はアメリア王国第一王女、つまり私の姉様からの手紙でした。


姉様はとても優しくて強く、武技に長けていて第一王女であると同時にアメリア王国の騎士団長だったのですが、10年前に姉様はアメリアから東にある国に嫁いで行かれたのです。


姉様からの手紙、それは姉様が嫁いだ国でこの時期に行われる祭りへの招待状でした。


久しぶりに姉様に会える、と思い私はとても嬉しい気持ちになりました。


…でも、その気持ちも直ぐに消え憂鬱な気分になりました。


私が馬車で姉様の国に向かう際の護衛として勇者様達が付いてくるからです。


仕方のないことだとは思います、姉様のいる国はここから馬車で3週間はかかる、勇者様達が護衛なら道中に野盗や魔物に遭遇しても安心ですから。


でもせっかく姉様に会えると思ってたのに、姉様の国に向かう間も鳳様と一緒に居なければならないなんて…憂鬱です。


私は憂鬱な気分のまま、明日の出発のために早く寝ました。














そして翌日。



私は馬車が待っている城門前に向かっていました。


その途中、城の中が何か慌ただしかったのですが…何かあったのでしょうか?


そう思いながら私は城門前に向かって歩いていました。


城門前に着くと、後ろから声が聞こえてきました。


「お姉ちゃーん!」

「えっ? この声は…ウィズ?」


私が後ろを振り向くと、ウィズが私に向かって抱き着いてきました。


「えへへー、お姉ちゃんおはよー!」

「おはよう、ウィズ、どうしてここに? 何かあったの?」

「実はねー、私お姉ちゃんの護衛をする事になったのー!」

「え!? 何でウィズが護衛に?」

「んっとねーそれはー」

「私が説明するわ」


前を向くと、綾香様と瑞樹様がこちらにやって来た。


「綾香様、護衛は勇者様達だけではなかったんですか?」

「そうだったんだけど、実は朝早くに王様に呼ばれてある知らせを聞いたのよ」

「知らせ?」

「ええ、北の方で魔物達が活性化して、周辺の村を襲っているって、それで王様に北の魔物の討伐を頼まれたんだけど、今回は貴女の護衛をしなければならないから、二手に分けることにしたの」

「二手に、ですか?」

「そう、私と瑞樹がオリーブ姫の護衛に、悠矢と海斗達は兵を率いて魔物討伐に、と言う事なの」

「なるほど…そうだったのですね」

「ええ、そして冒険者ギルドにオリーブ姫の護衛を頼んでら、ウィズちゃんが一緒に来てくれることになったのよ」

「そうだったんですか、ウィズ、ありがとう」

「えへへー、お姉ちゃんのためならたとえ火の中水の中だよー!」

「ふふ…それでは改めて、綾香様、瑞樹様、旅の護衛、よろしくお願いします」

「任せておいて」

「が、頑張って姫様をお守りします!」

「姫様、出発の準備が整いました、どうぞお乗りください」


爺やの言葉を聞いて、私達は出発のために馬車に向かいました。


その時私はある疑問が頭に浮かびました。


何故鳳様が魔物討伐に向かわれたのでしょうか?


鳳様が護衛として一緒に行けば、姉様の国に勇者様を私の婚約者として紹介できたはず、お父様もそれが狙いで今回の護衛を任せたのもあるはずです。


だけど鳳様は私の護衛ではなく魔物討伐に向かわれた。


何故なのでしょう?


私がそう思っていると、横から綾香様が声を掛けてきました。


「悠矢が護衛に来なかったことを疑問に思ってるんでしょ?」


私は綾香様の言葉を聞いて驚きました。


何故私の考えていることを!? と。


「私が悠矢に魔物討伐に行くように言ったの、悠矢は私達の中で一番強いから適任だって言ってね、それにオリーブ姫もほぼ毎日あいつと一緒にいてうんざりしていたでしょ?」

「あ、綾香様…」


私のためにわさわざ…


「…ありがとうございます、綾香様」

「礼なんて良いわよ」

「いってらっしゃいませ姫様、良い旅でありますように」


私達は馬車に乗り、城門を出発した。


馬車の中でウィズが私に話しかけてきました。


「ねーお姉ちゃん、お姉ちゃんのお姉ちゃんってどんな人なのー?」

「ふふ、そういえばウィズは姉様に会ったことは無かったわね」

「うん! ねーどんな人なのー?」

「それは…会うまでのお楽しみ♪」

「ええー!」

「ふふふ…」

「本当に仲が良いわねあの二人」

「そうですね」


私とウィズのやりとりを綾香様と瑞樹様が微笑ましそうに見ていた。


ああ…本当に今から楽しみ、姉様に早く会いたい。


早く着かないかな…







―姉様の国、アルトランド王国に。

















「第48回次回予告の道ー!」

「と言うわけで今回も始まったこのコーナー!」

「今回は勇者達が久しぶりの登場だったね」

「うむ、84話振りぐらいかのう?」

「さて次回はまたしても私達の出番はありません!」

「またじゃと!? 今回一切出番が無かったのにまた出番なしか!」

「そういう事もあるよ…と言うわけで次回『暗躍する者達Ⅲ』!」

「「それでは次回をお楽しみに!!」」


・注意、このコーナーは作者の思い付きで書いているので次回タイトルが変更される可能性があるのでご注意下さい。

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