第89話 さらばレイド大雪原

―魔獣王の棲みかから最東端の場所。








「…壊れましたか、あれお気に入りだったんですけどねぇ…」


先程までヤタイズナとザハクの戦いを映していた水晶は何も見えなくなっていた。


「しかし、あの装置で力を奪われていたにも関わらずあの強さ、流石は六大魔王ですね、集めていた魔物の半分以上を失ったのは痛いですが…まぁこれが手に入っただけでも良しとしましょう」


ブロストは左手に持っている石を見て、笑みを浮かべる。


その石の中心は赤く光っていた。


「さて、それでは戻って研究の続きでもしますかね」


ブロストは部下と共にレイド大雪原から去って行った。
















「…ん、うぅん…あれ、ここは…」

「ヤタイズナ、目覚めたか」


目を覚ますと、ミミズさんとベルがいた。


「ミミズさん、ここは…魔獣王の棲みかか…」

「うむ、お主が倒れてから直ぐにここに運んできたのじゃ、ベルがお主をずっと癒しておったのじゃぞ」

「そうなんだ、ベル、ありがとうな」

(ご主人のしもべとして当然の事をしただけですよ)


私が目覚めたことに気付いて、ガタク達が私の元に集まって来た。


「殿! お目覚めになられたで御座るか!」

(ごしゅじんがおきたー!)

(主殿、お身体の調子はどうですか?)

(ご主人様、大丈夫ですか?)

(俺、ご主人起きるか心配だった、言う)

(御主人様がお目覚めになられて嬉しいですわ)

「心配したぜ」

「皆、心配してくれてありがとう、…ガタク」


私はガタクの折れた大顎を見る。


「ごめんな、私が不甲斐無いばっかりに、お前の大顎が…」

「殿、あの時も言ったはずで御座る、殿の命を救えたのであれば本望で御座ると! だからお気になさらずにで御座るよ」

「…わかった、ありがとう、ガタク」

「ワンワン!」


ユキが私に向かって走って来て、そのまま私に擦り寄って来た。


「クーン♪」

(ユキ様も魔蟲王様が目覚めたことを喜んでいるようです)


リュシルがこちらにゆっくりと歩いてきた。


「そうなのか、ありがとうユキ」

「ワン♪」

「ところでリュシル、魔獣王は大丈夫なの?」


確か私が気絶する前に、倒れていたはずだ。


(ご安心を、今は向こうでおやすみにになっておられます)

「あ奴はあの鎖によって力を吸われた上に魔狼砲を使ったからのう、しばらくは動けんかもしれんのう」

「そうなのか…」

(とりあえず今はお休みください、明日になれば魔獣王様も少しは回復なされるはずです)

「分かった」


この後、私は食事をして再び眠った。










―翌日。


私とミミズさんは魔獣王がいる部屋に来ていた。


「ヤタイズナ、元気になったようだな、良かったぜ」

「魔獣王も、元気そうで良かったよ」

「ガハハハハハハ! 俺はいつも元気だぞ?」

「よく言うわい、ここに戻ってきた時はへとへとだったではないか…」

「ははは…それにしても、結局あの六色魔将って一体何者だったんだろうね」

「うむ、ザハクとかいう奴の力の事も結局分からずじまいじゃったしのう…」

「そうだね…でもあいつら何で魔獣王の事を狙って来たのかな?」

「さぁのう…だが、奴らが他の六大魔王も狙っている可能性は十分にあるはずじゃ」

「それじゃあ、私達が他の六大魔王に会えば、奴らと遭遇するかもしれないって事?」

「そうじゃ、奴らからは聞きたいことが山ほどあるからのう…今度会った時にはとっ捕まえて聞きだしてくれるわ!」

「でもミミズさん、私達他の六大魔王の居場所を知らないんだよ? 何か考えがあるの?」

「ふっ、愚問じゃのうヤタイズナ…あるわけが無いじゃろうが!!」

「《炎の角・槍》!」

「ぬおおおおおおおおお!?」


私は炎の角・槍でミミズさんを攻撃した!


「な、何をするんじゃ! 殺す気かお主!?」

「うるさいよ! 毎度の事になってるけど、何も策も無いのに威張ってるんじゃないよ!」

「ガハハハハハハ! お前らの会話面白れぇな!」


私達のやりとりを見て魔獣王が笑っていた。


「全く…ねぇ魔獣王、他の六大魔王の情報とか知らない?」

「ん? あー…知らねぇことはねえけど…」

「本当⁉ 良かったら教えてくれないかな?」

「いいぜ、…あれは確か4、5年くらい前だったか? 俺が昼寝をしていたとき、突然魔海王の奴が俺の元を訪ねてきたんだ」

「何じゃと!? 魔海王がここに!?」

「ああ、何でも帰りの途中に近くを通ったんで久しぶりに会いに来たって言ってたな…それで酒を飲みながら会話をしたんだが、魔海王の奴、相変わらずよく分かんねぇ事ばっか言ってたんだが…何か気に入った人間がいるとか言ってたな…」

「何じゃと!? あの魔海王が人間を気に入った!?」

「ああ、俺も最初は耳を疑ったんだが、その人間の事を話している時の魔海王がすげぇ楽しそうだったから本当なんだろう、その人間を見つければ、魔海王の居場所が分かるかもな」

「成程、その人間の名前は分かる?」

「ああ、魔海王の奴、そいつの名前だけじゃなくそいつがいる国の名前まで言ってたぜ」

「本当!? 教えてくれ魔獣王、そいつは一体どこの誰?」

「確か…『アルトランド』とか言う国の『ガーベラ』って人間だ」

「アルトランドにいるガーベラ…そいつに会えば魔海王の居場所が分かるんだね」

「おそらくな」

「ありがとう、魔獣王」

「うむ、では大樹海に戻り次第、そのアルトランドとか言う国に行くかのう」

「そうだね」

「お前らもう帰っちまうのか」

「うん、大樹海に残しているしもべ達の事も心配だしね」

「そうか、なら今夜がお前らがここに居る最後の夜か…よし! ヤタイズナ、ミミズさん! 今夜はとことん一緒に飲もうじゃねぇか!」

「ふっ、良いじゃろう、とことん飲んでくれるわ!」

「えっ」


…何だろう、嫌な予感が…












―一時間後。


「ガハハハハハハハハハッ!」

「フハハハハハハハハハッ!」


ミミズさんと魔獣王が高笑いをしながら酒を飲んでいる。


「…やっぱりこうなるのか」

「どうしたヤタイズナ? 全然飲んでおらんではないか? フハハハハハハハハハ!」

「ガハハハハハハ! 遠慮する事はないぞ! どんどん飲め! ガハハハハハハハハ!」

「…またこのパターンか…」


いや、今回の方が前回よりひどいだろう。


何故なら。


「美味で御座る! おかわりで御座る!」

「美味いな、こんな酒滅多に飲めんだろうな」

(なんかあたまがくらくらするー)

(主殿、主殿が3人に増えています!)

(あははははは! 世界がまわってますー!)

(俺、もっと飲む、言う)

(美味しいですわ、このゲジ・ゲジと一緒に食べるとなおさら美味しいですわ)

(ははははは、こんなに沢山の方達に僕の演奏を聞いていただけて幸せですよー)


何故かガタク達も参加し、宴会状態になっている。


…何匹かは酔って変な行動をしているし。


「フハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」

「ガハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」



…その後、私は前と同じように無理矢理酒を飲まされて意識を失った。













―翌日。


私達は廃墟の入り口前に集まっていた。


(魔蟲王様、今回は魔獣王様をお助けいただいた事、感謝しております、帰りも私が案内いたしますのでよろしくお願いします)

「ありがとう、ところでリュシル、一応聞いておくけど…魔獣王のユキへの溺愛はまだ止めさせる気なの?」

(勿論です)

「…そっか」

「ワンワン♪」

(また来てねと言っておられます)

「ワン♪」

「ありがとう、また来るよ」

「ミミズさん、久々に一緒に酒を飲めて楽しかったぜ、次会った時も一緒に飲もうぜ」

「うむ、そのときは夜まで飲み明かそうでわないか」

「それじゃあ皆、出発しようか、魔獣王、ユキ、さようなら!」

「ああ、元気でな!」

「ワンワン!」


こうして私達は、ランド大樹海に帰るためにレイド大雪原から出発した。














「第47回次回予告の道ー!」

「と言うわけで、魔獣王編は今回で終わりじゃ」

「次回からは新章突入だね」

「うむ、しかしその前に再びあの不届き者の話じゃ」

「久しぶりに私も登場するよー!」

「ウィズ!」

「またお前か!」

「幸せ気分のお姉ちゃんの耳に入った勇者の帰還、その後お姉ちゃんはどうなったのか? それでは次回『虫愛づる姫君のお出掛け』ー!」

「おいこらまた儂のコーナーを奪う気か! 良いか何度も言うがこのコーナーの主役はこの儂」

「「それでは、次回をお楽しみに!」」

「無視すんなって言ってるじゃろうがぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


・注意、このコーナーは作者の思い付きで書いているので次回タイトルが変更される可能性があるのでご注意下さい。

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