第81話 捕縛Ⅰ

「ワンワン!」

「もう直ぐ焼けるから待っててね」


私が炎の角でスノ―ベアの肉を焼いているをユキは尻尾を振って見ている。


私達がゲジ・ゲジを焼いていると、ユキが私の出した炎に興味を持ったのだ。


ユキは炎を初めて見たらしく、眼を輝かせて私の炎を見ていた。


そして私がゲジ・ゲジを焼いている姿を見て、私の元にスノ―ベアの肉を持ってきて「ワン!」と鳴いた。


言葉は分からないが、肉を焼いて欲しい事は分かったので、私はスノ―ベアの肉を焼いてあげているのだ。


「はい、焼けたから食べていいよ、熱いから気よ付けて食べてね」


私は焼きあがった肉をユキの足元に置く。


「ワン♪」


ユキはスノ―ベアの焼肉を嬉しそうに食べる。


「美味しい?」

「ハグハグ…ワン♪」


ユキが嬉しそうに返事をした。


焼肉を気に入ったみたいだ。


「すまないな新しい魔蟲王、娘は好奇心旺盛でな、どんなものにも興味を持つんだ」

「そうなんですか」

「ああ、そして気に入ったらしばらくずっと気に入った物から離れないんだ、少し困った所だが、そこも娘のチャームポイントの一つでもあるがな」

「は、はぁ…」


何か突然娘の自慢をしてきたぞ。


「ワン」

「ん?」


ユキが食べていたスノ―ベアの肉の一部を私の脚元に置いた。


「私に食べろって?」

「ワン!」

(どうやらユキ様は魔蟲王様の事を気に入ったみたいですね)

「え、そうなのか?」

(はい、ユキ様が自分の食べ物を他人に分けるなんて初めてですよ、私や魔獣王様にも分けたことが無いのですよ)

「へー、成程…!?」


何か、背後から物凄い殺気が…


「…娘が自分の飯を他人に渡すなんて…俺でも貰ったことが無いと言うのに…殺してやりたいほど羨ましいぃぃ…」


…何か魔獣王が小声で凄く物騒な事を言っている気がするが…気のせいだよな? むしろ気のせいであってほしい。


「クーン?」


ユキが私に「食べないの?」という感じの声色で鳴いた。


「ああ、今食べるね」


私はスノ―ベアの肉を食べた、癖のある味だが結構美味しかった。











その後、私は廃墟の中で休憩しながら、リュシルに頼まれた事について考える。


溺愛するのを止めさせてほしいと言われたが、そもそも辞めさせる必要があるのだろうか?


私はミミズさんにこの事を相談した。


「ミミズさん」

「何じゃ?」

「ミミズさんは魔獣王のユキへの溺愛を止めさせた方が良いと思う?」

「当然じゃ、あ奴のあんな気味悪い姿をこれ以上見たくはないからのう」

「でも実際の所あれ以外は昔と全然変わっていないんだよね? だったら無理に止めさせる必要はないんじゃないかな?」

「まあお主が言いたい事は分かるが…」

「お前ら何話してんだ?」


私達が話していると、後ろから魔獣王が話しかけてきた。


「何、ちょっとした世間話をしていただけじゃよ」

「そうか? 何か溺愛が何とか聞こえた気がしたが…」

「そんな事一言も言ってないですよ、所で何か用ですか?」

「ああ、ちょっとお前らと話をしたくてな、ちょっとこっちに来てくれないか?」

「別に良いですよ、ねぇミミズさん」

「うむ、かまわんぞ」

「それは良かったぜ、じゃあ来てくれ」


私達は魔獣王に案内されて廃墟の中を移動した。


「着いたぞ、この部屋だ」


魔獣王に連れられて来た場所は、最初の部屋よりも一回り大きい部屋だった。


私は部屋の周囲を見渡すと部屋の端の方に大小様々の樽が大量に置かれていた。


「で、魔獣王よ、話とは何じゃ?」

「まあ待てよミミズさん、俺達が話をするときはやっぱりアレが無いとな」

「アレと言うと、アレか…全く」

「アレ?」


アレって何だ? と私が思っていると、魔獣王が部屋の端に置いている樽を一つ加えて私達の元に持ってきた。


「この匂いは…酒?」

「そうだ! 俺とミミズさんは会うたびに酒を飲んで楽しく会話してたんだよ」

「いや会話なんてほとんどしてなくて酒をただ飲み続けていた事が大半だった気がするが…」


ああ、そう言えば前に六大魔王の事を聞いた時に魔獣王とよく酒を飲んでいたって言ってたな。


「しかし、酒何て何処で手に入れたんですか?」

「ああ、ここから結構遠い場所に人間の村があってよ、そこらへんを散歩している時にそこの人間に俺の事を見られたんだよ、そしたら人間達が俺の事を山神様とか言って俺にひれ伏してさ、肉とか酒を捧げてきたんだよ、その時肉は要らなかったから酒だけ持って帰ったんだ、それからしばらくして気まぐれに人間達の村の付近に来てみたら何か祭壇みたいな所が出来ていてそこに大量の酒樽が置かれてたんだよ、それで酒樽を持って帰ってしばらくしてからまた来るとまた酒樽が置いてあってよ、よく分からなかったが、定期的に酒が手に入るようになったから嬉しかったぜ」

「ああ、そう言う事ですか」


つまりその村の人間達は魔獣王の事を山に棲む神様だと思い、定期的に神様への貢物として酒を捧げていると言う事か。


「まぁそんな下らん話は置いて、酒を飲もう!」

「そうじゃのう、ヤタイズナすまんが樽を開けてくれんかのう」

「分かった」


私は角で酒樽の蓋を開けた。


「ではいただくかのう…ふむ、結構美味いではないか」

「そうだろ? 新しい魔蟲王も飲んでみろ」

「それじゃあいただきます…あ、美味しい」

「だろ? 酒はまだたくさんあるからな、どんどん飲めよ!」


魔獣王に進められて、私達は酒を飲み始めた。
















―1時間後。


「ガハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!」

「フハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!」


魔獣王とミミズさんは高笑いをしながら、凄いペースで酒を飲んでいた。


魔獣王は酒樽30個は飲んでいるし、ミミズさんは今飲んでいる酒樽で28個目だ。


一体あの小さい身体のどこにあれだけの量の酒が入るんだ? 謎だ…


「ん? どうしたのじゃヤタイズナ? お主まだ最初の一個を飲み干していないではないか? だらしないのう」

「ガハハハハハハハハハハハッ! そんなペースじゃ俺達が残りの酒全部飲みつくしちまうぞぉ?」

「お構いなく、私は私のペースで飲むので」

「そうか? ガハハハハハハハハハハハッ!」

「なら遠慮なく飲ませてもらうぞ! フハハハハハハハハハハハッ!」


…凄くうるさい。


ミミズさんと魔獣王って笑い上戸何だな…


「ガハハハハハハハハハハハッ!」

「フハハハハハハハハハハハッ!」



…その後、酔っ払ったミミズさんと魔獣王に無理矢理酒樽一個分飲まされた所で私の意識は途切れた。














―深夜。


ガタク達はすでに寝ており、辺りは静かだった。


「クー…」


ユキはリュシルの傍で寝ていた。


すると、ユキの頭に聞き覚えの無い声が響いた。


《こっちにおいで…》


「?」


声の方を向くと、入り口の方に、光る球体が漂っていた。


《こっちにおいで…》

「ワン?」


ユキは光る球体に興味を持ち、白い球体の元へ向かう。


ユキが近づくと、光る球体は外に向かって移動する。


それを追ってユキは廃墟の外に出た。


《こっちにおいで…》


外に出たユキは、光る球体に近づいた。


「ワン?」

《いい子だね……捕らえなさい》


その言葉と共に、突然現れた魔人達がユキの周りを囲んだ。



「ワン!?」


ユキは瞬時に捕らえられ、足と口を縛られ、麻袋の中に入れられた。


「……!」


麻袋の中でユキは暴れている。


《これで作戦第一段階は成功ですね、それではあなたたちは指定の場所に移動しなさい》

「了解しました」


魔人達はユキが入った麻袋を抱えて、雪の中に消えていった。


《餌は手に入った、後は獲物が向こうから来るのを待つだけ…ふふふ…》


光る球体はそのままどこかに飛び去っていった。

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