第80話 ミミズとオオカミⅡ
「えっと……つまり魔獣王はあの子……ユキを溺愛しすぎて不抜けたって事?」
(……そうです)
私は魔獣王を見る。
「おーよしよし、可愛いなお前はー!」
「ワン♪」
……魔獣王は凄くだらしない表情でユキに毛づくろいしている。
確かにこの顔なら不抜けていると言われても仕方ないかもしれない。
さっきまでは強大な存在に見えたのだが、今はただの親馬鹿にしか見えない。
あ、そう言えば魔獣王のステータスを確認していなかったな……鑑定させてもらうか。
私はユキに毛づくろいをしている魔獣王に鑑定を使いステータスを確認した。
ステータス
名前:ヴォルグ
種族:フェンリル
レベル:500/500
ランク:S
称号:魔獣王、野獣の召喚師、大酒、子煩悩
属性:獣
スキル:咆哮、俊足、育児
エクストラスキル:魔獣の氷牙、魔獣の氷爪、魔獣の氷柱、魔獣の剛毛、氷属性耐性Ex
ユニークスキル:野獣召喚(サモンビースト)、魔獣砲
流石魔獣王、レベルMAXだ、しかし大酒に子煩悩と育児って……
恐らく後の二つは魔獣王がユキを溺愛してから追加されたんだろう、それにしても……
「よしよしよし、可愛い奴めー♪」
「クーン♪」
……この毛づくろいはあとどれぐらいで終わるんだろうか……
「いやーすまんすまん! 娘が可愛すぎてつい時間を忘れて毛づくろいをしてしまった」
あの後、魔獣王は1時間ほどユキに毛づくろいをしていた。
その後私達は魔獣王が住んでいる廃墟の中に入った。
魔獣王がユキを甘やかしている姿を見てしばらく固まっていたミミズさんはようやく動き、魔獣王にさっきの事を質問した。
「魔獣王! さっきの姿は一体何じゃ!」
「さっきの? ああ、娘を愛でていた事か?」
「そうじゃ! 何じゃあのデレデレとした顔と声は!? 気持ち悪くてちょっと引いたぞ! と言うか娘ってどういう事じゃ!?」
「どういう事って、ユキは俺のスキルで召喚した俺の娘だ」
「スキルで召喚したのであればそ奴はしもべのはずじゃろう! その辺の事を説明せんか!」
「分かったよ、説明するから少し静かにしろって、確か今から2、3年前ぐらい前の事で……」
「クーン……」
魔獣王が説明しようとしたら、ユキが魔獣王の傍にやって来て弱弱しく鳴いた。
「ど、どうした娘よ? どこが具合が悪いのか!?」
「クーン……」
「腹が空いたのか! 待ってろ、お父さんが獲物を獲って来てやるからな!」
「いや獲って来るからなって、先に説明を……おいコラ無視するなぁ!」
魔獣王はミミズさんの言葉を無視して廃墟から出て獲物を獲りに行った。
「あ奴め……魔王がしもべのために率先して狩りに向かうか普通!」
「ミミズさん落ち着いてよ」
(魔蟲王様、私が代わりに説明させていただきます)
「ああ、頼むよ」
リュシルが魔獣王の代わりに説明し始めてくれた。
(魔獣王様は昔からしもべをあまり召喚しない方でして、召喚したとしても傍に置かず、魔獣王様はそのしもべに旅立つように命令していました)
「そう言えば、あ奴のしもべの数は昔から少なかったのう……」
(私は魔獣王様がこの大雪原に来てから召喚され、魔獣王様の身の回りの世話などをしていました、それからしばらく経ったある日、魔獣王は気まぐれにしもべを召喚しました、それがユキ様です)
「そこまでは分かった、それでどうして魔獣王はユキに溺愛したんだ?」
(ユキ様は魔獣王様が今まで召喚したしもべ達とは違い命令を聞かず、魔獣王様の傍にずっと居られました、魔獣王様がどれだけ命令してもユキ様は魔獣王様の傍を離れませんでした、それから魔獣王様は段々とユキ様を甘やかすようになって行き、そしてユキ様を自身の娘として溺愛するまでに至りました)
「成程ね……しかし何でユキは魔獣王の命令を聞かなかったんだ?」
(その事ですが、私達しもべは生まれる前から自身の主が誰なのか分かるのはご存知ですよね?)
「え? 初耳なんだけど……ミミズさん、また?」
「ん? うむ! 言ってないからのう!」
そろそろ本気でしばき倒そうかなこのミミズ。
しかし成程、だからスティンガー達は生まれたばかりなのに私が主だって分かっていたのか。
(本来ならさっき言った通り生まれる前から自身の主を分かっているはずなのですが……何故かユキ様は魔獣王が自分の主ではなく自分の父親だと理解していたのです)
「成程、少しややこしいけど大体の事は分かったよ、つまりユキは魔獣王が魔王である事も知らないって事?」
(そうです……)
「ところでユキはリュシルの事は誰だと思っているの?」
(ユキ様は私の事を姉だと思っています)
「成程……それで本題に戻るけど、私達に魔獣王を何とかして欲しいと言う事だけど、結局何をすればいいんだ?」
(魔獣王様のユキ様への溺愛ぶりを何とかして欲しいのです)
「うん、まぁ……話の流れ的に分かってはいたけど……」
できるかな……あの溺愛っぷりを見ては辞めさせるのは至難の業だと思うが……
「リュシル、絶対になんとかしなきゃ駄目なのか?」
(もちろんです! 魔獣王様はもっと気高く強いお方でした……ですが今はその姿を微塵も感じられなくなってしまったのです!)
「……気高かったかのう? 溺愛している姿以外は昔と同じだったんじゃが……」
「娘よー! 戻ったぞー!」
私達が会話していると、魔獣王が口に何か加えて戻って来た。
「ワンワン♪」
「喜べ娘よ、お前の好物のスノーベアを獲って来たぞ」
「ワン♪」
魔獣王が加えていた獲物を地面に置く。
体長2メートル半はある白熊だ。
「さあたくさん食べるんだぞー」
「ワン♪」
ユキがスノ―ベアを食べ始めた。
そう言えばもう昼か……
「私達も食事でもするか」
「そうじゃのう」
私達は持ってきていたゲジ・ゲジを焼いて食べ始めた。
―レイド大雪原、魔獣王が棲む廃墟から最西端に位置する場所。
その場所に黄色の鎧の魔人、ザハクがいた。
「ザハク様、例の装置の準備完了致しました、何時でも動かせます」
「そうか、では明日作戦を実行させる、今日はもう休むよう部下達に知らせろ」
「分かりました」
副官が部隊の元に向かう。
「ギリエル様……このザハク、必ずや任務を成功させます……っ!?」
背後に何者かの気配を感じたザハクは戦闘態勢を取り後ろを向くと、謎の球体が浮いていた。
「……何だ?」
謎の球体は突然発光した!
「な、何だこの光は!?」
『私ですよ、ザハク』
「お前は……ブロスト!?」
発光が終わると、そこには青い鎧の魔人、ブロストがいた。
「何故貴様がここに……」
『魔道具で私の姿を映しているだけですので、実際にはここに来ては居ませんよ』
「魔道具だと? しかしそのような魔道具を貴様が使えるとは聞いていなかったが?」
「つい先日開発したばかりの代物ですので、使うのは今回初めてなんですよ」
「成程……それで私に何の用だ?」
『ギリエル様の命で貴方を支援するために連絡しました』
「おお、それは助かる……しかしこの場にいない者が何をしようというのだ?」
『その事ですが、貴方が行おうとしている任務は古代遺跡の地下に封印されているモノの回収……ですがあの場所には厄介な者がいる』
「ああ、だから奴を倒すために例の装置を持ってきたのではないか」
『ですが奴は素早い、一定の場所にとどまらせなければあの装置は使う事が出来ない』
「だから私と私の部隊が奴をおびき出して戦い、一定の場所にとどまらせて装置を使う、そう言う手筈だ」
『しかしその作戦では多くの被害が出てしまうでしょう?』
「……ああ、だがこれも全て魔人王様への忠義の証、この戦いで散ってしまった者達は代々英雄として語られるに違いあるまい」
『それならご安心を、被害が絶対に出ない作戦を私が考えました』
「何!? それはどんな作戦だ?」
『奴の弱点を突けばいいんですよ』
「弱点? それは何なんだ?」
『いいですか? 私の作戦はこうです……』
「……何だと!?」
ブロストの作戦を聞いたザハクが怒りを露わにする。
「そのような卑怯な作戦をこの私にやれと言うのか!」
『はい、これが一番確実に成功する作戦ですからね』
「貴様……!」
『これは魔人王様のためですよ?』
「くっ……」
ザハクが拳を握りしめる。
『異論がないようなので、この作戦を明日実行します、分かりましたね?』
「……分かった」
『ではまた明日、《総ては我らが主、魔人王様のために》』
「……《総ては我らが主、魔人王様のために》」
ブロストの姿は消え、球体はどこかに飛んで行った。
「……ブロストの卑怯な作戦を実行したくは無い……しかし、総ては魔人王様への忠義のためだ……」
ザハクは更に強く拳を握りしめ、ブロストの作戦を部下達に伝えに向かった。
「第42回次回予告の道ー!」
「さあ今回も始まったで御座るこのコーナー!」
(こんかいはぼくたちがー!)
(次回予告を!)
(していきますよー♪)
(俺、次回予告始める、言う)
(遂に暗躍していた者達が動き始めましたわね)
(奴らが求めている例のモノとは一体何でありますかね!)
『ギチチチチィィィィィィ!!』
(そして彼らは一体何者なんでしょうか?)
(私にはさっぱり分かりません……)
「うむ! その事については次回を見れば分かることじゃ! それでは次回」
「それでは、次回『捕縛』! お楽しみに!」
「ヤタイズナぁっ!? 久しぶりに出てきたと思ったら、儂の次回予告の邪魔をするなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
・注意、このコーナーは作者の思い付きで書いているので次回タイトルが変更される可能性があるのでご注意下さい。
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