第79話 ミミズとオオカミⅠ

…何だろう、このデジャヴな感じ、前にどこかで同じようなセリフを聞いた気が…


「ガハハハハハハッ! どうだ驚いたか? まあ俺を見て驚かない奴なんて居るわけないがな!」


…あ、思い出した、私がミミズさんと初めて会った時に言ってたセリフとほぼ同じセリフだこれ。


「…おい、流石に無反応はないだろう、何か反応しろよ」


確かあの時はいきなり目の前の巨大ミミズが魔王だって言うからこういったんだよなぁ…


「…何かびみょー…」


「な、何ぃ!?」


懐かしい、私がこう言った時ミミズさん凄く落ち込んでたよなー…ってあれ?


何か目の前にいた魔獣王が耳をへたらせて落ち込んでいる。


「びみょー…? 俺が考えに考え抜いたセリフがびみょー…」

「あ、あれ? 何があったの一体?」

「…ヤタイズナよ、お主無意識に言ってたのか? お主魔獣王のセリフをびみょーと言ったのじゃぞ?」

「え、さっきの言葉口に出してたの私!?」


心の中で言ったつもりだったのだが…


「びみょー…びみょーなのか…」


魔獣王はまだ落ち込んでいた。


「まったく…いつまで落ち込んでいるのじゃ魔獣王! 昔のようにすぐ立ち直らんかこのたわけが!」


ミミズさんが魔獣王に怒鳴ると、魔獣王の耳がピンと立たせ、驚きの表情でミミズさんを見た。


「そ、その声、その喋り方…匂い…まさか…」

「久しぶりじゃのう魔獣王、千年ぶりぐらいかのう?」

「魔蟲王…なのか?」

「そうじゃ」

「…………」


魔獣王はミミズさんを見つめたまま沈黙する。


そして数秒後。


「ガハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」


突然魔獣王が笑い始めた。


「な、何じゃ!? 儂の姿を見て急に笑い始めるとはどういう事じゃ!?」

「な、何だよそのちんちくりんな姿は⁉ お前もうただのワームになってるじゃねぇか! がハハハハハハッ! だ、駄目だ…可笑し過ぎて笑いが止まらねぇ!」

「ただのワームじゃとお!? 失礼な! このような姿になってはいるが、種族は昔のまま変わっていないのじゃぞ!」

「いや、どう見てもただのワームにしか見えねぇよ!? がハハハハハハハハハ!」

「貴様ぁっ! いくらなんでも笑い過ぎじゃろう!?」

「ハハハハハハ…いやすまねぇ、つい…だけどよ」


魔獣王が笑顔でミミズさんを見る。


「生きていてくれて本当に嬉しいぜ…久しぶりだな、魔蟲王ヤタイズナ」

「ふんっ、儂があの程度でくたばると思ってたのか? 魔獣王ヴォルグよ、後一つ言っておくが、儂はもう魔蟲王ヤタイズナではないぞ?」

「は? どういう事だそれ?」

「うむ、実はのう…」


ミミズさんは魔獣王に私がミミズさんの跡を継ぎ魔王になった事、そして自分の名前がミミズさんになった事を話した。


その話を聞いて魔獣王は再び笑いだした。


「ガハハハハハハハハハハハッ! ミ、ミミズさん…お前今ミミズさんって名前なのか!?」

「う、うむ、不本意ではあるが今はそれが儂の名前じゃ」

「ハ、ハハハハハハハハハハッ! お、お前俺を笑い死にさせる気か!? 駄目だ、全然笑いが止まらねぇ! ガハハハハハハハハハハハッ!」

「だから笑い過ぎだと言っとるじゃろうが! 失礼じゃろうが!」

「そうですよ、ミミズさんの名前を笑うなんて酷いと思いますよ!」

「お主が笑われるような名前を付けたのじゃろうがぁ!!」

「そうかなあ? そんな変な名前だと思わないけど…」

「名前にさん付けが入っとる時点で十分変じゃろうが!」


私達のやりとりを見て魔獣王がさらに笑う。


「ガハハハハハハハッ! お前ら仲が良いな! それで、お前が新しい魔蟲王ヤタイズナでいいんだな?」

「そうです、初めまして」

「中々良い面構えじゃねぇか、魔獣王ヴォルグだ、改めてよろしくな」

「はい、よろしくお願いします」

「そう言えば、何でお前らは俺の元に来たんだ? と言うかよく俺の居場所が分かったな」

「実はリュシルに頼まれてここまで来たんです」

「リュシルに?」


私達はここに来た経緯を魔獣王に話した。


話を聞いた魔獣王がリュシルを見る。


「突然どこかに出かけたと思っていたら…俺が不抜けたから何とかして欲しいだって? 俺のどこが不抜けていると言うんだ?」

「確かに、別段不抜けた所なんて無かったよね? ミミズさん」

「そうじゃのう、話した感じ昔の魔獣王と同じだったしのう、どこが不抜けているのじゃ?」

(それはですね…)

「クーン♪」


リュシルが話そうとした時、ユキが魔獣王の前足に擦り寄った。


「おおー! 俺の愛しい娘よ、どうしたんだ?」

「ワン♪」

「お父さんに甘えたくなったって? 可愛い奴め! ほら、お父さんが毛づくろいをしてやるぞ」


魔獣王は凄いデレデレとした表情でユキに毛づくろいをしていた。


「クーン♪」

「お父さん大好きだって!? お父さんもお前の事が大好きだぞー!」

「ワン♪」


魔獣王が凄いデレデレとした表情でユキを甘やかしている。


突然の事に私達は呆然としている。


特にミミズさんは信じられないモノを見ているような顔だ。


私はリュシルに質問する。


「あの、リュシル…これが君の言っていた?」


リュシルはため息を吐いて私の質問に答えた。


「そうです、これが私が魔獣王様が不抜けてしまったと言っている理由です」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る