第78話 魔獣王

岩山の洞窟を通り、遂にレイド大雪原に到着した。

 そして私達はリュシルに案内されて魔獣王の住処に向かっていた。




「―さ、寒い……」


 私は寒さに体を震わせる。

 本当に寒い……『蓑』を着こんでいるのにこの寒さとは……




 大樹海から出発する前、私はバノンと共に防寒対策について考えた。

 私達虫は寒さに弱い、何も対策もせずに雪原を歩くのは人で例えると、素っ裸の人間が歩いているのと同じなのだ。


 ……自分で言ってて何だけど、嫌な例えだなぁ……


 そこで、私はミノムシの蓑を参考にすることにしたのだ。


 ミノムシは、チョウ目ミノガ科のガの幼虫で、一般にはオオミノガ、チャミノガの幼虫を指す。

 幼虫が作る巣が、藁で作った雨具「蓑(みの)」に形が似ているため、日本では「蓑虫」と呼ばれるようになったのだ。


 このミノムシは成虫、幼虫ともに面白い生態を持っている。


 まず生まれたばかりのミノムシは、蓑の外に出て糸を長く延ばし垂れ下がり、風に揺られて新しい枝や葉に移り、枝や葉の表皮をかじり取り糸でつづり合わせて小さな蓑を作る。


  木の葉を食べてどんどん大きくなっていくミノムシは、かじり取った葉を糸でつぎ足し、体に合わせて蓑も大きく丈夫にし、手ごろな枝に糸を巻き付け蓑に固定し、冬眠用の蓑を作る。

 ちなみに幼虫の蓑を剥がし、毛糸や色紙の中に入れると、とてもカラフルな蓑を作り上げるのだ。


 ミノムシの雄は蛹になって約1カ月後、蓑の下の口から、体を半分ほど外に出し羽化する。

 口が退化し、餌を取ることもなく雌を探して飛び回り、そして交尾を終えると死んでしまうのだ。


 そして雌も蛹になった後、成虫になるが、雌は無翅、無脚であり、形は小さい頭に、小さな胸と体の大半以上を腹部が占める形になり、腹部は卵が大量に入っている。

 雌は成虫になっても蛹の殻の先端を押しあけるだけで、体全体は蛹中に入ったまま一生を過ごす。


 雌は特有の匂いを出し雄を誘い、その匂いを頼りに雄は雌の入っている蓑に飛んできて、蓑の末端から腹部を差し込み交尾する。

 交尾後、雌はすぐに産卵を始め、数千個の卵を産み、2~3週間後、幼虫が孵化する頃には干からびて死んでしまうのだ。


 まさにミノムシは子孫を残すことのみに特化した昆虫なのである。



 ミノムシの冬眠用の蓑の内部はフェルト状になっており、温度変化から守るだけでなく、外敵から身を守る役割を持つ。

 その強度はカマキリの攻撃を防げると言う。


 これなら防寒対策にもピッタリだと思い、バノンに提案してみた。


「成程……任せろ、明日までには全員分の蓑を作ってやるよ!」


 そう言ってバノンはパピリオの粘糸を使い、私達全員分の蓑を制作してくれた。

 蓑と言っても流石にミノムシのように袋状ではなくマントみたいな感じに体に覆い被せ、糸で体に縛り付ける物で、外側には葉っぱや枝が縫い付けられている。


 これだけの物を一晩で作り上げるとは……バノンの腕は一流だな。






 ―そして、私達は洞窟から出る際に荷物に入れていた蓑を着て、大雪原を移動していたのだ。

 私は後ろにいるしもべ達に声を掛ける。


「お前達、大丈夫かー?」

「ご心配なく! この程度の寒さ平気で御座る!」

(ぼくはちょっとさむいよー……)

(私は大丈夫です)

(翅がちょっと動かしづらいです~)

(俺、鋏の調子少し悪い、言う)

(私も鎌の調子が悪いですわ……)

(僕も翅が少し……)

「さ、寒ぃ……もう一着作ってればよかったぜ……」


 ガタクとソイヤー以外は身体の調子が悪いようだ、やはり蓑があっても厳しいか……


(ヤタイズナ様、雲行きが怪しくなってきました、吹雪が来るかもしれませんし、この辺で休んだ方が良さそうです)


 リュシルもこう言っているし、今日はもう夜営した方がよさそうだな……


「ミミズさん、ミミズさん!」


 私は角の先端に付いている蓑に話しかけると、蓑の先端からミミズさんが顔を出した。

 ミミズさんの蓑は本物のミノムシと同じ袋状となっており、移動中は私の角に付いているのだ。


「何じゃ騒々しい……どうかしたのか?」

「今日はここで夜営することにしたんだ、これから地面に巣穴を作るからどいてくれない?」

「ええー……この蓑から出ろと言うのか? 寒いから嫌じゃ」


 そう言ってミミズさんは頭を蓑の中に引っ込めた。

 この蓑ミミズ……


 私は角を振り、ミミズさんの蓑を大回転させる。


「ぬおおおおおおお!? 酔う、酔うから止めろぉぉぉぉぉぉぉっ!?」











「いやー危ない危ない、あのまま回されていたら吐くところじゃったわ……」


 あの後、私達は地面に簡易的な巣穴を作り、そこで夜営している。


「思ったんだけどさ、ミミズさん全属性耐性exってスキルを持ってるんだから寒さとか感じないんじゃないの?」

「なわけあるか、全属性耐性exは自身に対しての攻撃に対して発動するのじゃ、故に攻撃ではない自然現象には発動しないのじゃ」

「成程……ところでリュシル、魔獣王の居る場所はここから後どれぐらいなんだ?」

(もう近くまで来ています、ですので明日の昼前には着くでしょう)

「そうか、それじゃあ今日はもう食事を取って寝るとするか」


 私達は洞窟で倒したゲジ・ゲジを焼いて食べ、そのまま就寝した。













 ―翌日。

 私達は魔獣王の住処に向けて移動を再開した。




 そして歩くこと一時間、前方に森林が見えてきた。


(ヤタイズナ様、ミミズさん様、あの森林に魔獣王様の住処があります)

「あそこに魔獣王が……」

「ようやく奴に会えるのう……あと様付けは止めろと言っとるじゃろうが」

「それじゃあ行こう、魔獣王に会いに」


 私達は森林の中に入り、しばらく森林を真っ直ぐ進んいると、先頭を歩いていたリュシルが止まる。


(ヤタイズナ様、到着しました)

「ここに魔獣王が?」

(はい、そうです)


 私達が着いた場所には古い建物があった。


 ボロボロで崩れている場所もあるが、大きくて結構立派だ。

 元は神殿か何かだったのかな?


 私がそう思っていると、建物の中から何かが出てきた。


 出てきたのは体長70センチ程の白狼だった。

 白狼はそのままリュシルに近づく。


「ワン!」

(ユキ様、ただいま戻りました)

「クーン♪」


 白狼はリュシルの顔を舐める。


「リュシル、その白狼は?」

(この方はユキ様、私と同じく魔獣王様に生み出された方です)

「ワン?」


 ユキが私に近づき、私を嗅ぎ始めた。


「クンクン……ワン♪」


 ユキが私の角を舐めた。


「えっと、これは……?」

(ユキ様はヤタイズナ様の事を歓迎しているのです)

「そうか、ありがとう……ん?」


 何か廃墟の方から大きな音が聞こえてきた。

 これは……足音?


 私は廃墟を見ると、廃墟から巨大な狼が現れた。

 全長10メートルはあり、真っ白な身体には紋様のようなモノが刻まれている。


 白狼はそのまま私達の元に悠然と歩いてくる。


 その歩く姿は気高く、美しかった。

 これが、この狼が……


「お前ら誰だ?」


 狼が私達を睨み、問いかけた。


「あの、貴方は……」

「俺が誰かって言いたいんだろ? いいぜ教えてやるよ……ガハハハハハハハハハハハッ!!!」


 狼は突然高笑いを始めた。


「聞くが良い愚かなる者どもよ! 俺はこの世界に災厄をもたらす存在! 六大魔王が一体、魔獣王ヴォルグである!!」















「第41回次回予告の道ー!」

「さあ今回も始まったこのコーナー!」

「どうも、ティーガ―です、本編ではまだ出番が少ないのでこのコーナーでは頑張りたいと思っています……でも私なんかに次回予告が出来るがどうか心配です……」

「何か暗い奴じゃのう……今回もヤタイズナは休みか」

「はい、何かの準備があるらしくて……」

「あ奴本当に何をしているのじゃ? 気になって来たぞ……まあそれは置いといて次回予告を始めるぞ」

「はい……遂に魔獣王が本編に出てきました、次回は魔獣王とミミズさんの再会話になる予定みたいですね」

「うむ、奴と会うのは千年ぶりじゃからのう、積もる話もあるというものじゃ」

「それでは次回『ミミズとオオカミ』を楽しみにしていて下さい……」


 ・注意、このコーナーは作者の思い付きで書いているので次回タイトルが変更される可能性があるのでご注意下さい。

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