第68話 強くなる

―数時間後、地底洞窟、最深部。







「キシャアアアアア」


崩落によって最深部で生き埋めになっていたクルーザーは、何とか脱出し、獲物を探して洞窟内を移動していた。


「キシャアアアア…」


ヤタイズナによって切断された下半身は自己修復により徐々に、徐々に再生を続けていた。


クルーザーはこのスキルを手に入れてからは多少の傷は直ぐに直せていた、しかし今回は身体の半分を失ってしまった。


これ程の傷を受けたことがないクルーザーは、下半身が再生するにはどれだけの時間が掛かるのか分からなかった。


早くこの傷を治さなければ、強くなるために。



洞窟を移動していると、クルーザーは壁を歩いているテールシザーを発見した。


クルーザーは気付かれないようにテールシザーに近づき一瞬でテールシザーを捕らえた。


捕まえたテールシザーを噛み砕いて食べていく。


「キシャアアアアア…」


テールシザーを食べ終わったクルーザーは別の獲物を探すために洞窟を移動する。


全ては、強くなるために。






―強くなる。





それがクルーザーの目的であり、クルーザーの全て。


クルーザーの行動は、全て強くなる事に集約されている。


獲物を見つけた、強くなるために襲い、喰らう。


敵が襲いかかって来た、強くなるために敵と戦う。


食べものに毒が入っていた、強くなるためにその毒を喰らい、克服する。


全ては強くなるために。


何故クルーザーは強くなることにこだわるのか?


それは百年前、クルーザーが生まれた時にまで遡る。
















百年前、クルーザーはリトルセンチピードという魔物でまだ名無しだった。


昆虫の卵から生まれたばかりのクルーザーが卵の殻を食べていると、後ろから声が聞こえた。


「おい、そこのお主、儂の言葉が分かるか? 分かるならこっちを向け」


その声を聞き、クルーザーは後ろを向いた。


そこにいたのはとても巨大な魔物だった。


「ようやく少しは儂の言う事を聞く奴が生まれたか…」


巨大な魔物は小言で何か独り言を呟いた後、クルーザーを見る。


「さて、まずはお主に名をやろう、今日からお主はクルーザーじゃ」


クルーザーの頭に声が響いた。


《魔蟲王ヤタイズナより名前が与えられました。》


「さて、名前も与えたことじゃし、早速じゃがお主にはこれからある命令を与える、クルーザーよ、お主はこれより外に向かうのじゃ、そして実戦経験を積んで強くなるのじゃ、分かったな?」


クルーザーはヤタイズナの命令を聞き、外へと移動し始めた。


強くなる。


クルーザーはその言葉を胸に刻み、強くなるために戦った。


レベルを上げ、スキルを手に入れ、進化を続けた結果、いつしかクルーザーは地底洞窟の守護者と呼ばれる存在にまでなった。


命令を実行し、強くなった、しかしクルーザーにはある事が欠落していた。


強くなる、その後、何をするのかをクルーザーは知らなかったのだ。


それでもクルーザーは強くなり続けた、それが自分に与えられた使命だから。


何十年の時が経ち、クルーザーは何故強くなるのか、誰に命令されたのかも忘れた。


それでもクルーザーに強くなると言う言葉だけは忘れなかった。


そして、クルーザーは強くなり続けた。


それがクルーザーの全てだから。


しかし、今日クルーザーに初めて強くなる以外に別の感情が生まれた。


自分の身体を半分に切断したあの魔物。


あの魔物を倒す、倒したい、という感情。


…でも何故?


なぜ倒したい、何故そこまであの魔物を倒したいと思う?


何故?


何故?






何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故、何故?





…そうだ、強くなるためだ。


あの魔物を倒したいのは、更に強くなるためだ、そのためにはまず身体を治し、あの魔物より強くなる。


そしてあの魔物を倒す、そして、そして…強くなる。


「キシャアアアアア…」


クルーザーは洞窟を移動する。


全ては、強くなるために―













「第33回次回予告の道ー!」

「ジィ、ジィィィィィィィ」

「キシャアアアアア…」

「ジィィィィィィィ…」

「キシャアアアアア! キシャアアアアア」

「ジィィィィィィィ、ジィィ、ジィィィィィィィ」

「キシャ、キシャキシャアアアアア」

「ええい! さっきから聞いていたがキシャ! ジィィ! ばっかりで内容が全然分からん! 誰じゃこ奴等に次回予告をさせたのは!?」

「ジィィッ!? ジィィィィィィィ!」

「しまった隠れていたのについ叫んでしまったぁ! じ、次回『夏』! お楽しみに! ぬおおおおおおお!?」

「ジィィィィィィィィッ!」



・注意、このコーナーは作者の思い付きで書いているので次回タイトルが変更される可能性があるのでご注意下さい。

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