第63話 地底洞窟再びⅠ
アメリア王国から出発して早二日。
私達は大樹海にある巣に戻って来ていた。
(おかえりなさいであります魔王様! 魔王様のご帰還をお待ちしていましたであります!)
『『ギチチチチチチチィィィィィィィィィィィィ!!!』』
レギオン達が私達の帰還を盛大に祝ってくれた。
相変わらず声が大きくてうるさかったけど。
「ただいまレギオン、私達が巣を留守にしている間何も問題は無かったか?」
「大丈夫であります! 魔王様が留守の間、問題は何も起きなかったであります!」
「そうか、それは良かった」
「はい、後、魔王様が留守の間に卵が孵化したであります」
「おお、そうか」
レギオンの話を聞くと、孵化した昆虫の卵は全部で5つで、その内4つから生まれたのはソードアントとシールドアントが二匹づつだそうだ。
しかし最後の一つからは知らない奴が生まれたらしい。
見たこと無い奴か…どんな虫だろうか? 楽しみだな。
「レギオン、そいつは何処に居るんだ?」
「あっちに居るであります、案内しますであります」
私はレギオンに連れられて新しいしもべがいる場所に向かった。
「ここであります」
「ここにいるのか?」
レギオンに連れてこられた場所には何も居ない。
「レギオン、新しいしもべは何処に…ん?」
周りを見渡すと、地面に50センチ程の穴が一つ空いていた。
これはまさか…
「レギオン、あの穴か?」
「そうであります」
私は穴に近づき、穴を覗く。
すると穴からニュッと何かが出てきた。
穴から出てきたのは円盤状の頭部をしており、大きな顎を持っている芋虫だ。
「やっぱりハンミョウか!」
ハンミョウとは、日本に生息するコウチュウ目ハンミョウ科の肉食昆虫だ。
日本のハンミョウ類で最も大きい種で、ナミハンミョウとも言う。
大きな複眼と鋭い大顎を持っていることが特徴だ。
そしてハンミョウは体色が鮮やかで美しい昆虫だ。
頭部は金属光沢のある緑色、前翅はビロード状の黒紫色に白い斑点があり、前胸部と前翅の中央部に赤い横帯が入っている。
体の下面は金属光沢のある青緑色をしていて、体は独特のいい香りがするのだ。
あんなに美しい姿をしているのに性格は獰猛、俊敏な動きで獲物を狩る姿はまさに美しきハンターだ。
ハンミョウは人が近づくと直ぐに飛んで逃げるのだが、ある程度人間と距離が離れると確認のためにこちらを振り返り、また近づくと飛んで逃げて再び振り返るという動作を繰り返す。
この動作がまるで人に道を教えるように見えることから別名『ミチオシエ』、『ミチシルベ』と呼ばれているのだ。
こういうユニークな所も面白いからハンミョウは私の好きな昆虫の一種でもあるのだ。
ハンミョウは幼虫と成虫で違う狩りの仕方をする。
成虫が動き回って獲物を狩るに対して幼虫は地面に細長い穴を掘ってそこに巣として獲物を待ち構える。
獲物が射程圏内に入ると一瞬で獲物に飛び掛かり、巣穴に引きずり込むのだ。
その早業は肉眼では何が起こったか把握できないほどだ。
さらに幼虫は背面にはコブやトゲがありそれを穴の壁に引っ掛けることで自分の身体を引き抜かれないようにしているのだ。
今私が見ているのはハンミョウの幼虫だ。
いやー懐かしいなー…昔はハンミョウの巣を見つけたらハンミョウ釣りをやっていたなー。
巣に草や糸を入れて幼虫がそれを咥えたら引き上げるんだけどそれが結構楽しかったんだよなー、いやー懐かしい…
(魔王様、どうなされたのでありますか?)
「何じゃ、どうかしたのか?」
(非常食殿、魔王様がブツブツと独り言を言い始めてしまったのであります)
「またか…全く、戻ってこんか!」
「痛っ⁉」
ミミズさんが尻尾で私を引っ叩いた。
「何するんだよ、ミミズさん」
「また正気を失っていたぞ、いい加減何とかならんのかそれ」
またトリップしてたのか…反省しないとな。
(……主様)
「ん?」
聞いたことのない声が聞こえた。
声の方を向くと穴からハンミョウの幼虫が顔を出していた。
(初めまして主様、こんな穴の中からの挨拶申し訳ございません)
「ああ、初めましてだな」
(失礼ながら自分の名前は何でありましょうか?)
「名前か…ちょっと待ってくれるか? 今考えるから」
どうするか…ハンミョウは英語でタイガービートルだったな…
タイガー…よし、決めたぞ。
「お前の名前はティーガーだ」
ティーガーはドイツ語で虎と言う意味だ。
(ありがとうございます主様、私などには勿体無いほど良い名前をありがとうございます、早く進化して主様のお役に立てるようなりたいと思います)
気に入ってくれたようだ、私はティーガーに鑑定を使いステータスを見た。
ステータス
名前:ティーガー
種族:タイガービートル・ラーヴァ
レベル:1/30
ランク:C-
称号:魔王のしもべ
属性:地
スキル:穴堀初心者
C-か、しかし英名そのままか…
その後、私達は持ち帰ったプラチナコーンをレギオン達に食べさせた。
(美味いであります! こんなに美味い物は初めて食べたであります!)
『『ギチチチィィィィィィ!!』』
ティーガーにもプラチナコーンを与えた。
(こんなに美味しいものを頂けて嬉しいです、ありがとうございます主様)
その後私は炎の角でプラチナコーンを焼き、皆で食べた。
甘みがさらに出て美味しかった。
美味しすぎて二箱分を完食してしまった…
翌日。
「分からない…」
私は部屋であの時の事について悩んでいた。
「オリーブは何で私にキスしたんだ…?」
私はオリーブの言葉を思い出す。
『ヤタイズナさん…大好きです』
うーん…オリーブがカブトムシを好きなのは知っているがまさかキスするほどとは…
いや気持ちは分からないわけではない、私もカブトムシはキスしたいぐらい好きだからな…
「しかし…まさかとは思うが…私の事を好きってわけでキスしたのではないだろうな…」
いや、やはりそれは無いだろう。
オリーブが好きなのはカブトムシであって私ではないはずだ。
あれ? でも私はカブトムシでもあるわけで…
いかん、何か頭がこんがらがって来たぞ。
「うーん…」
「ヤタイズナよ、話があるのじゃが」
私が考えていると、ミミズさんが私の部屋に入って来た。
「どうしたのミミズさん、話って何?」
「うむ、お主もAランクに進化したから頃合いと思ってのう…ヤタイズナよ、あの場所に戻るぞ」
「あの場所…それってもしかして…」
「そうじゃ…地底洞窟に戻り、クルーザーと戦う時が来たのじゃ」
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