第44話 東西大決戦

―ランド大樹海、中央の森。








この場所に東の森王が一匹で立っていた。


「…来たか」


東の森王が言葉を発すると同時に西側の森から一匹の魔物が姿を現した。


「久しいな西の森王よ、四ヶ月ぶりだったか?」

「……そんなくだらない事、覚えていない」

「クハハハ、相変わらずだな」

「…お前、その傷はどうした」

「ん? これか?」


東の森王が胸の傷跡を触れる。


「実は南の森王と戦ってな、この傷はその時付けられたモノだ」

「南の森王…」

「ああ、そ奴がまた面白い奴でな…」

「そんな事はどうでもいい」


西の森王が東の森王の話を遮り、動き出す。


「今やるべきことは、貴様を食い腹を満たす事…それだけだ」

「クハハハ! 相変わらず食う事しか考えていないようだな! だが我を食う事は不可能だ、なぜなら…」


東の森王が翅を広げ、両手を掲げる。


「貴様は我に負けるのだからな!」

「戯言は腹の中に入ってから言うがいい!」


その言葉と同時に西の森王が東の森王に突進した!

















「この辺は久しぶりに来たけどそんなに変わらないね」

「そうじゃのう」


現在私はミミズさんと一緒に大樹海の中央近くに来ている。


「あと少し先に私達が出てきた穴があるはずだよね」

「うむ、まぁ隠してしまったので正確な場所は分からんがのう」

「あの時はいきなり目の前でキラーマンティスとヘルスパイダーが殺し合いの真っ最中で危なかったよね」

「そうじゃな、しかし! 今のお主ならあの二匹同時に相手をしても勝てるじゃろう!」

「いや、流石に二匹同時は無理だと思うけど…」

「何を言っとるのじゃ! それぐらいできなければあのクルーザーを倒すことなど不可能じゃぞ!」

「それは分かってるけどさ…」

「魔王たるもの、どんな敵にも臆せず立ち向かうものなのじゃ! お主も立派な魔王になるのならそれぐらいの度胸を身に着けるのじゃぞ」

「努力するよ、とりあえず今日はもう戻ろうか…ん?」

「何じゃ?」


前方から風切り音が聞こえ、音が徐々に近づいてきている。


そして。


ズバァァァン!


目の前の木を切り裂き、巨大衝撃波が私達目掛けて飛んできた!


「うわあっ!?」

「ぬおおお!?」


私とミミズさんはギリギリ回避し、巨大衝撃波はそのまま木を切り裂き突き進んでいった。


「あ、危なかった…ミミズさん、大丈夫か?」

「なんとかのう、死ぬかと思ったわい…」

「それにしても今の衝撃波…もしかして斬撃か?」

「むぅ…そう言われると斬撃に似ていたのう」

「この先に何かあるのかな…」

「考えても分からん、とにかく行ってみるぞ」


私達は斬撃の飛んできた方向に向かった。









森の中を進んで行くと、破壊音が聞こえてきた。


「この音…ただ事では無いのう」

「一体何が…ミミズさん、空からこの辺り一帯を見よう」

「うむ、それは良い考えじゃ」


私はミミズさんを乗せて空を飛び、辺りを見渡す。


「! あれは!」


前方に二匹の魔物が戦っているのが見える。

一匹は私が前に戦った東の森王だ。

そしてもう一匹、私はその魔物を見る。


頭胸部と腹部の二つに分かれ、体毛に覆われた身体、八つの単眼に八本の脚、間違いない!



「オオツチグモだ!」



オオツチグモとは、北アメリカ南西部から南アメリカ、熱帯アジア、地中海地方、熱帯アフリカ、ニューギニア島、オーストラリアなどの温暖な地方に分布しているクモ科の一種で、一般的にはタランチュラの名称で知られている。


タランチュラは有名な毒グモとして知られているが、実は毒はそれほど強くはないクモなのだ。


私はタランチュラを見る、あの身体の色…あいつは間違いなくルブロンオオツチグモだ。


ルブロンオオツチグモは南米の熱帯雨林に生息する種で、世界最大のクモとして知られている。


その大きさは何と20センチを超え、最も大きい個体になると大人の手のひらよりも大きいのだ。


しかしいくらなんでもデカ過ぎる。 


見た感じ体長三メートル半はあるぞ。


私はオオツチグモに鑑定を使い、ステータスを確認した。















ステータス

 名前:無し

 種族:ゴライアスバードイーター

 レベル:200/300

 ランク:A+

 属性:地

 称号:西の森王、大喰らい

 スキル:毛針

 エクストラスキル:岩の鋏角、岩の槍、鋼鉄の体毛

 ユニークスキル:熱死光線














西の森王。


そうか、こいつが西の森を支配する魔物なのか。


私がそう考えていると東の森王が西の森王に攻撃した。


「《斬撃》!」


西の森王が斬撃を回避しようとするが、避けきれず腹部に斬撃が当たる。


「ぬうっ!」

「クハハハハ! どうした西の森王! 食い過ぎで動きが鈍ったか?」

「ほざけ! 《岩の槍》!」


西の森王が前側二本の脚を地面に叩き付ける、すると地面が盛り上がり、槍の形になる。


「喰らえっ!」


その言葉と共に岩の槍が東の森王目掛けて撃ち出された!


「《大鎌鼬》!」


東の森王の周りに巨大な風の刃が出現し、そのまま岩の槍に向けて打ち出される!


岩の槍と大鎌鼬がぶつかり合い、砕け散る!


「クハハハ! 《風の鎌》!」


東の森王の鎌に風が纏われる。


「ぬぅううう! 《岩の鋏角》!」


西の森王の鋏角に岩が取り着き、まるで巨大な牙のようになる。


「はあああっ!」

「うおおおっ!」


二匹同時に飛び出し、風の鎌と岩の鋏角がぶつかり合う!


その衝撃に耐えきれず二匹が吹き飛ぶ!


「ぐおおおお!?」

「ぬぅぅぅぅ!?」


東の森王は木に激突し、西の森王は地面に叩き付けられる。


「く、クハハハハ…やはり戦いは楽しいなぁ西の森王よ」

「この戦闘狂が…」

「そう言う貴様は食う事しか考えていないではないか」

「それの何が悪い!」


起き上がった西の森王が体毛を逆立てる。


「《毛針》!」


西の森王の体毛が飛び出し東の森王を襲う!


「《暴風》!」


しかし東の森王の暴風により毛針は勢いを無くし地面に落ちる。


「クハハハハ! そのような小技で我を倒せると思ったのか?」

「……もういい」

「ぬ?」

「ちまちまと技を出すのは面倒になった…次の一撃で貴様を葬ってくれる!」


西の森王が鋏角を開ける、それと同時に口の中に光が集まって行く。


「来るか! ならば我も最強の技を出してくれようぞ!」


東の森王が両腕を掲げる、すると東の森王の周りに風が纏わり始めた。


「喰らうがいい! 《死神の暴風刃》!!」


その言葉と共に両腕を振り下ろす!


纏われていた風が一つに集まり、巨大な竜巻が出現した!


「う、うわあああ!?」


遠くに居る私にも竜巻の風が吹き荒れ、態勢を崩してしまう。


「ぬおおおおおお!? 落ちるぅぅぅぅ!?」


ミミズさんは落ちないように私の前胸部の角に巻き付く。


竜巻は木々を巻き込み西の森王に向かう!


しかし西の森王は動かず光を集め続けている。


「充填完了…消え去るがいい! 《熱死光線》!」


西の森王が口から光線を打ち出す!


光線はそのまま竜巻に直撃する!


そして次の瞬間、大爆発が起きた!


「があああああああああああ!?」

「ぐおおおおおおおおおおお!?」

「うわああああああああああ!?」

「ぬおおおおおおおおおおお!?」


東と西の森王が吹き飛ぶ!


私達も爆風で吹き飛ばされ地面に落ちてしまった。


「痛たたたた…ミミズさん、大丈夫?」

「な、何とかのう…」


私達は起き上がり、再び空を飛び状況を確認する。


爆発が起きた場所は大きなクレーターが出来ていた。


そしてクレーターの両端に森王達が見える。


両方とも爆発に巻き込まれ重傷のようだ。


「く、クハハハハハ…またも引き分けか、これで通算200回目の引き分けだな」

「…フン、また貴様を食えずじまいか」

「クハハハハ!食えずに良かったではないか! おかげでまた戦える!」

「貴様と一緒にするな…」


西の森王が東の森王に背を向ける。


「もう戻るのか?」

「当たり前だ、貴様のような戦闘狂といつまでも居られるか…巣に戻って飯にする」

「そうか、それは残念だな…次はいつ戦う?」

「……6か月後だ」

「クハハハハ! よかろう、楽しみにしているぞ!」


西の森王はそのまま西側に戻って行き、東の森王も東側に戻って行った。





…えーと、どうゆう事?


確か東と西の森王は仲が悪いって聞いてたんだけど…


しかし実際にあの二匹を見ると仲が悪いというより、宿敵と書いて友と呼ぶ感じだったな…


「それにしても…凄い戦いだったな」

「全くじゃのう、しかしお主も立派な魔王を目指すのならあれくらいの戦いは出来るようにならんといかんぞ」

「うん、頑張るよ」


私達はそのまま空を飛んで巣に戻って行った。

















「第16回次回予告の道―!」

「と言うわけで今回も始まったこのコーナー!」

「今回は西の森王の初登場だったね」

「うむ、作者も西の森王はタランチュラにするのは決まっていたが、どの種類にするか最後まで迷っていたからのう」

「で、最終的にルブロンオオツチグモになったわけか」

「そうじゃ、まぁこの話は終わりにして次回予告をするぞ」

「次回は私のしもべの一人が進化するよ」

「一体誰が進化するのか…それは次回のお楽しみじゃ!」

「と言うわけで次回『更なる忠義』! お楽しみに!」



・注意、このコーナーは作者の思い付きで書いているので次回タイトルが変更される可能性があるのでご注意下さい。

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