第39話 羽化
「うーん…」
私は自分の部屋でこれからの事を考えていた。
この前のブラックローカストとオ・ケラとの戦いで改めて思った事がある。
やっぱり遠距離からの攻撃手段がないと色々と不便だと言う事だ。
あの時遠距離から攻撃できれば少なくともあそこまで苦戦はしなかっただろう。
いや、遠距離攻撃手段は一応エッグホームラン(ミミズさん命名)があるのだが、使い勝手が悪すぎる。
威力が強いのは魅力的だが相手が避けてしまったらそれで終わりだ。
そもそも三日に一度しか使えない昆虫召喚をすでに使ってしまってしまった時に敵と遭遇したらもうエッグホームランは使えない。
以上の点を踏まえて、私は新しいスキルを覚えるのが一番だろう。
よし、そうと決まれば早速スキルを教えてもらいに行くか。
私は部屋から出て巣の外に向かった。
「ガタク、ちょっといいか」
「おや、殿では御座らぬか、拙者に御用ですか?」
「ああ、ガタクのスキルの斬撃を私に教えてもらいたいんだ」
「お任せ下さい! 殿に拙者の斬撃を必ずお教えいたすで御座るよ!」
私はガタクにスキルを教えてもらうことにした。
ガタクの斬撃は私の今欲しい遠距離攻撃にピッタリのスキルだ。
それにソイヤーがガタクから斬撃を教えてもらっていたから恐らく私も覚えることが出来るはずだ。
「それでは斬撃の出し方をお教えするで御座る」
「ああ、よろしく頼むよ」
「まず最初に体をグィーッとして頭をブンッと振ればズバーッと斬撃が出るで御座る」
「……何だって?」
「ですから、体をグィーッとして頭をブンッと振ればズバーッと斬撃が出るで御座る」
「…成程」
全っ然分からん!
なぜ説明に擬音を使うんだ!?
「ガタク、ソイヤーに斬撃を教えた時もその説明をしたのか?」
「? はい、そうで御座るが」
「そ、そうか…」
私は直ぐに理解した。
ガタクは教えることが下手だと言う事を。
というかソイヤーはよくこの説明で分かったな…
とりあえず教えられた通りにやってみるか。
えっと確か…体をグィーッと曲げて頭をブンッと振ればいいんだっけ?
「こんな感じか?」
「はい、それで大丈夫で御座る」
「よし、じゃああの木で試してみるか」
私は勢いよく角を振る。
「《斬撃》!」
ズバァン!!
出来たよ。
あの説明で本当に良かったのか…
何はともあれ斬撃を出すことに成功した。
それと同時に頭に声が響く。
《条件を達成しました。 スキル:斬撃を獲得しました。》
よし、これで私は遠距離攻撃を手に入れたぞ。
「お見事! 一回で成功とは流石殿で御座る!」
私が斬撃を成功したことをガタクがまるで自分の事のように喜んでいる。
「ふふふ、ガタクよ、喜ぶのは私の新必殺技を見てからの方がいいぞ」
「何と!? 新必殺技で御座るか⁉」
ガタクが私の言葉を聞いてガタクが驚く。
そう、私は斬撃を手に入れることを考えて新必殺技を考えていたのだ!
「見てろ…《炎の角》! からの《斬撃》!」
私が放った斬撃は炎を纏い、木に飛んで行く、そして。
ズバァァン!!
炎の斬撃は木をいともたやすく切断した!
「よし、上手くいったぞ!」
やはり私の思った通りだ。
前に使用した炎の角と超突進の同時使用で強力な攻撃が繰り出せた。
つまり今回も炎の角と斬撃を同時に使えば強力な一撃を出せるのではと思ったが、結果は大成功だ!
「凄いで御座る! さすがは殿!」
「何、ガタクもこれぐらい直ぐにできるようになるさ」
「はい! 殿と同じくらい強くなるためにこれからも努力するで御座る!」
「頑張れよ…ん? 何か焦げ臭い…!?」
さっき私の斬撃で切断した木が燃え上がり他の木にも火が燃え移っていた!
「いかん! ガタク、火を消すぞ!」
「了解で御座る!」
他の木に燃え移る前に私とガタクが火を鎮火した。
教訓、これからは森の中でこの技は使わないようにしよう。
危険だから。
翌日、私は蛹になったパピリオを見にパピリオのぶら下がっている木にやって来た。
パピリオが蛹になってほぼ二週間、そろそろ羽化してもおかしくない時期だ。
蛹を見るとうっすらと中から翅の色が見えている。
これは間違いなく羽化直前だ!
よし、今日はずっとここでパピリオが羽化するまで待っていよう!
30分後…
まだかなー♪ 楽しみだなー♪
1時間後…
「何しとるんじゃお主?」
「あ、ミミズさん良い所に来たね! ミミズさんも羽化までここに居ようよ!」
「は? 何で儂が」
「つべこべ言わずにここに座る!」
「わ、分かった…」
2時間後…
(ごしゅじん、なにしてるのー?)
(主殿、それに非常食殿も何故ここに?)
「おお、スティンガーにソイヤーか、もうすぐパピリオが羽化しそうだからここで待っているんだ、スティンガー達もここで一緒に羽化するのを待つか?」
(うん! ぼくごしゅじんといっしょにまつー!)
(私も主殿と一緒にパピリオの羽化までここで待ちます!)
「おい、儂の時は無理やりだったのに何でこやつらの時はちゃんと聞くのじゃお主!?」
3時間後…
「殿、何をしているので御座るか?」
「ガタクか、私達はパピリオが羽化するまで待っているんだ、お前も一緒にどうだ?」
「勿論拙者も一緒に待つで御座る! そうだ! せっかくですのでしもべ全員を連れて来るで御座る!」
5時間後…
私はしもべ達全員と一緒にパピリオの羽化を待っていた。
「まだかなまだかなー♪」
「まだかのう」
「まだで御座るかなー」
「まだ何かねぇ」
(まだかなー♪)
(まだですかね)
(俺、まだかな、言う)
(まだなんですかねー)
(まだでありますかなー)
『ギチチチチチ』
とその時、
パキッ! と言う音を上げて蛹の下部が裂け始めた!
「キタァァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
ついに、ついに羽化が始まった!
蛹の下部が裂けて頭部と翅の一部が見えて来た。
そしてズルズルと身体の半分まで出てくるとあっという間に全身が現れた!
しかしここからが羽化の本番だ。
蛹から出てきたパピリオの腹部が大きく膨らんでいる。
あれは翅に送られる体液が腹部に集まっていて今から翅全体に腹部の体液が送られるのだ!
ハピリオは蛹の抜け殻に脚を掛けて身体を回転させ始めた。
(ごしゅじんー、なんでパピリオはからだをぐるぐるまわしてるのー?)
「あれは翅に体液を送るために回ってるんだよ」
(へーそうなんだー)
縮んでいた翅が次第に延びていった。
後は翅が乾くまでこのまま2時間半ほど静止するのだ。
そして2時間後。
翅が乾き、ついにパピリオが翅を広げて私の元に飛んできた!
(お久しぶりですご主人さま!)
「久しぶりだなパピリオ、とても綺麗だぞ」
(本当ですか! ご主人さまに褒められてとても嬉しいです♪)
「そうか! しかし…」
私はパピリオを見る。
体の大きさは1メートル20センチ程で翅を含めると1メートル80センチはあるとても立派なオオムラサキだ。
しかし私はパピリオの翅を見てある疑問が浮かんだ。
(どうしたんですかご主人さま?)
「パピリオ、お前…オスだったのか?」
そう、私が疑問に思ったのはパピリオの翅の色だ。
オオムラサキは青紫色の翅が特徴的なのだが、実は青紫色の翅を持つのはオスだけなのだ。
メスはこげ茶色の翅をしている。
パピリオの翅は青紫色なので、パピリオはオスと言う事になる。
(何言ってるんですか! 私はメスですよ!)
「え?」
パピリオは自分はメスだと言った。
どういう事だ? あの翅の色は間違いなくオスの物なのだが…
私はパピリオに鑑定を使ってみた。
ステータス
名前:パピリオ
種族:グレートパープルエンペラー(突然変異種)
レベル:1/50
ランク:B
称号:魔王のしもべ
属性:風
スキル:粘糸
エクストラスキル:風の翅
ユニークスキル:鱗粉
パピリオは凄く強くなっていた。
いや、今驚くところはそこではない!
パピリオが突然変異種というところだ!
つまりパピリオはメスでありながらオスの翅を持つとてもレアな虫だと言う事だ!
これは凄い! マジで凄い!
私は改めてパピリオの翅を見る。
本当に美しい翅だ、見ていて惚れ惚れしてくるよ…いやーマジで綺麗だ…
「この状態になるのは久しぶりじゃのう…戻ってこい!」
「あ痛っ⁉」
ミミズさんが私を叩いてきた。
どうやらまたトリップしていたみたいだ。
反省しなければ。
(パピリオひさしぶりー♪)
(2週間ぶりです)
「でかくなったのう」
「まったくで御座るな」
(俺、久しぶり、言う)
(皆さん、お久しぶりです、そちらにいる方たちはご主人さまの新しいしもべですね)
パピリオがカトレアたちの元に行く。
(初めまして、私はパピリオです)
(カトレアですわ)
(レギオンであります!)
『ギチチチチィィィィィィ!』
(皆さんこれからよろしくお願いしますね)
パピリオが全員に挨拶する。
「よし、今日はパピリオが羽化した記念に盛大に祝おう!」
「おお、それは良いのう」
「同感で御座る!」
(ぼくもさんせいー!)
(私もです)
(俺、賛成、言う)
(カトレアも賛成ですわ)
(了解であります! 我ら全員でパピリオ殿を祝うであります!)
『ギチチチチィィィィィィ!!』
こうして、私達は夜遅くまでパピリオ羽化成功パーティーを盛大に行った。
「第11回次回予告の道―!」
「さぁ今回も始まったこのコーナー!」
「ついにパピリオが羽化したよ!」
「そうじゃのう、しかし本編でも言っていたが強くなり過ぎではないか?」
「大丈夫さ、他の皆もいずれパピリオと同じくらい強くなるから」
「だといいがのう」
「さて、次回は私達は出番が一切無いみたいだよ」
「何ぃ!? まさかまたあの不届き者が主役なのか!?」
「いや、オリーブが主役でも無いみたいだね」
「はぁ? どういう事じゃ?」
「まぁそれは次回のお楽しみと言う事だよ! それでは次回『お伽話』! お楽しみに!」
・注意、このコーナーは作者の思い付きで書いているので次回タイトルが変更される可能性があるのでご注意下さい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます