第26話 大樹海周辺

「くはははははははははははは!」


我は今満足している!


まさか我の身体に穴を開けるような者が南の森にいたとは!


今まで我をここまで満足させた強者は西の森王ぐらいだったからな!


我は我の巣に戻っている途中だ。その間あの面白い奴の事で笑いが止まらん!


ヤタイズナ、あれは面白い、面白すぎるぞ!


「くははははははははは…ん?」


我の前に人間が出てきたぞ? 


「いたぞ! 間違いない、東の森王だ!」

「見ろよ、身体にどでかい穴が開いてるぜ!」

「奴は手負いのようですね…弱っている今なら倒せるかも知れませんね」

「ほ、本当にやるんですか? やっぱりやめた方がいいんじゃ…」

「何をビビってんだ! 俺達『紫狼の牙』ならこんな奴瞬殺だぜ!」

「その通りだ! 俺達は今までどんな強い魔物でも勝って来たんだ! 俺達ならやれる!」


…何だこの雑魚共は?


我は今最高の気分で巣に帰っているというのに…


「お前たち、我に何の用だ」


何だ? 我の声を聴いた人間共が驚いているぞ?


「し、喋ったぞ!」

「知性があるとは…皆、気よ付けろ! 手負いだからといって侮るなよ!」

「おう!」

「分かりました!」

「まずは俺から行くぞ!《フレイムソード》!」


人間どもが我に向かって来た。


…この雑魚共、我の質問にも答えないどころか、我を倒そうとしているのか?


雑魚の分際で我の気分を害するとは…


「うおおおおおおお!」

「図に乗るな人間風情が」


我は鎌を振り、斬りかかって来た人間の首を刎ねた。


「リーダー!」

「うわあああああ! やっぱり無理だよ! 逃げようよ!」

「腰抜けが! 逃げたきゃ自分だけで逃げろ!」


我は両腕を天に掲げる、それと同時に我の身体に風が纏い始める。


「お前たちは我の気分を害した…本来ならもっと楽しんでから殺してやるところだが、お前たちは一撃で葬ってやろう!」

「何か来るぞ! 防御魔法だ!」

「分かりました!《プロテクトサークル》!」


人間共を覆うように魔法陣が出現する。


愚かな…その程度で我が最強の技が防げるとでも?


我は掲げた両腕を振り下ろした。


「《死神の暴風刃》!!」

















「ねぇミミズさん」

「何じゃ?」

「よくよく考えみたら私はこの世界のことを全然知らないんだよなぁ…だから情報が欲しいんだ」

「確かにその通りじゃのう…ならば恒例のあれをやるかのう」

「…あれ?」


…と言うわけで。


「第3回魔王への道! ランド大樹海周辺についてー!」

(いえ―い!)

(いえ―いです!)

(俺、いえーい、言う)

(いえーいであります!)

「いえーいで御座る!」

「うむ! 元気があってよいのう! さて今回は特別講師を用意してある。来るのじゃ!」

「バノンだ、よろしく頼むぜ…というかなんだこれ?」

「ミミズさんが私に魔王になるための知識を教えたりしてくれるミミズさんのコーナーだけど」

「コーナー?」

「まぁ細かいことは気にするなと言う事じゃ! ではバノン、大樹海周辺について詳しく教えてくれ、儂は今回見学しとくから」

「それ結局俺に全部任せるってことじゃねーか! …ったくしかたねーな、んじゃまずは今の大樹海について説明するぜ」

「うん、よろしく頼むよバノン」

「まず俺達がいるのが南の森、ここは他の森よりも生息している魔物が弱いから冒険者達が依頼で来たりするんだ」

「へぇー」

「次に東の森と西の森だ、東と西はBランクの魔物が多く住んでいる危険地帯だ、そしてその森の頂点に立つものが森王…おまえが戦ったあの化け物だ」

「うん、恐ろしく強く、そしてカッコ良かったよ」

「…殺されそうになった奴の言葉かそれ?」

「いや、だってニセハナマオウカマキリだよ!? カッコイイに決まってるじゃないか」

「ヤタイズナ! 話が脱線しとるぞ!」

「あ、ごめんつい…」

「じゃ話を戻すぜ、東と西の森王は長年争い続けている、だから東と西は危険でほとんど立ち入る者も居ないんだ」

「じゃあ北の森はどんな森なんだ?」

「…分からん」

「え?」

「北の森の情報がないんだ…北の森は昔から立ち入ってはならないと言われている場所なんだ、だからこの辺りには昔から短い歌が伝わっているんだ」

「歌? どんな歌なんだ?」

「ああ、『南は安全、東西危険、北には絶対近寄るな』、ていう歌だ」

「南は安全ねぇ…」

「ああ…今までは比較的に安全だったかもしれねぇが…まさかこの森に東の森王が現れるとはな…しかも今目の前にいるのが南の森王ときたもんだ、人生何が起こるか分かったもんじゃねぇな」


バノンは面白そうに笑っている。


「あと、この森の中央の木には守り神がいるとかいう伝説もあったな」

「守り神?」

「中央の大樹から森を見守り、森の生末を見ているとかそんな感じの伝説さ」

「へぇー」

「うむ、ではそろそろこの森周辺の国家について教えてはくれぬかのう」

「わかった、じゃあまずはアメリア王国について教えるぜ」

「アメリア王国? …何かどっかで聞いたことがあるのう…」

「アメリア王国はここから東にある国で、緑豊かな美しい国だ、俺もそこに行く予定だったんだがな…」


バノンの顔が一瞬暗くなる、仲間の事をまだ気にしているのだろう。


「おっとすまねぇ、話を戻すがその国では少し前に勇者が召喚されたらしいんだ」

「勇者?」


「ああ、この周辺の魔物が急に活発になったらしくてな、その事態を治めるためにアメリア王国で4人の勇者が召喚されたらしいんだ」

「4人も召喚されたのか…」

「勇者たちのおかげで活発化した魔物は倒されこの辺りにも平和が訪れたわけだ」

「めでたしめでたしってわけだね」

「……」

「ミミズさん?」

「ううむ…」


ミミズさんが何やら考え事をしている。


…もしかして勇者の事で何か考えているのか?


「ヤタイズナよ…」

「な、なにミミズさん?」

「お主が東の森王に喰らわせた技じゃが…エッグホームランなんて名前はどうじゃ!」


私は前脚でミミズさんを引っ叩いた。


「何をするんじゃ! 痛いではないか!」

「心配した私が馬鹿だったよ!」

「なんじゃとぉ!」


私とミミズさんが口喧嘩をしているとスティンガーが叫んだ。


(ごしゅじん! そらからなにかが!)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る