第20話 蟻の巣へ

「…ここは?」

「殿! お目覚めになられましたか!」

「ガタク! 私はどれくらい眠っていた!?」

「一日で御座るが…」


どうやら新しく獲得したスキルのおかげで早く回復できたようだ。


「早くミミズさんを助けに行かないと!」

「殿、落ち着いてくだされ、今ソイヤーに奴らの後を追わせているで御座る、じきに奴らの巣が分かるかと」

「そうか…よし! スティンガー達をここに集めろ! ミミズさんの居場所が分かり次第すぐに向かうぞ!」

「わかったで御座る、では皆を集めてくるで御座る!」

「待っていてくれミミズさん、すぐに助けに行くからな!」












「おい離せ! 離すのじゃ!」

「ギチチチ!」

「ぬぅぅぅぅぅ…」


なんとゆうことじゃ…儂とした事がこんな蟻共に捕まってしまうとは、何とかして逃げたいがこの糞蟻め、儂を顎で捕まえたまま離そうともせんし、周りは他の蟻共が見張ってどうすることも出来ん。


あ奴らが早く助けに来ることを願うしかなさそうじゃのう…


儂がそんなことを考えていると蟻共が止まった。


なんじゃ? そう思い前を見ると地面に巨大な穴がある。 


恐らく蟻共の巣の入り口じゃろう。


蟻共が儂を巣に運ぶ。巣の中は複雑に入り組んだ通路があり、蟻共は曲がりくねった通路を進み儂を最下層の部屋に運び込んだ。


その部屋には鳥や狼など様々な生物が捕らえられていた。


「ギチチチ」

「な、何する気じゃ」

「ペッ!」

「ぬお!?」


蟻が口から糸を吐き出し儂を壁に貼り付けた。


「おのれぇ儂をどうするつもりじゃこの糞蟻が!」

「ギチチ、ギチチチ」

「ええい、ギチチギチチうるさいわ! 儂に分かる言葉で話さんか!」

「ギ、ギチ?」


ぬう、こやつらがなに言っとるのかさえ分かればまだ打つ手があるかもしれんとゆうのに…以前の肉体なら念話でこやつらとも会話が出来たんじゃが、この肉体になってからほとんどのスキルを失ってしまった。


それどころか元魔王(笑)と過去の栄光を引きずる者(哀れ)という不名誉な称号までつけられ、あまつさえ蟻共に連れ去られる始末だし!


「くそったれがぁ!! なぜ儂ばかりこんな目に遭わなければならんのじゃ! もし運命の女神が存在するならそいつ絶対儂の事嫌いじゃろうがぁ!!!」

「ギ、ギチチ!?」

「うるさいと言っているじゃろうが! さっさと出ていかんかこのボケ蟻共が!」

「ギチチ…」


儂に怒鳴られた蟻共が部屋から出ていく。


「まったく…ギチギチとうるさいんじゃ蟻共が」

「…おい、そこの喋るワーム」

「む?」


儂は声の聞こえた方を向いた、そこにいたのはドワーフと呼ばれる種族じゃった。


儂と同じで糸で壁に張り付れられておる。


「なんじゃドワーフ、儂に何か用か?」

「いや、喋るワームなんて初めて見たからちょっとだけ気になってな」

「そうか…ちょうどいい、お主ここが何の部屋か分かるか?」

「言わなくても見れば分かるだろ…食料の貯蔵部屋だよ」

「やはりか…」

「しかし、俺も300年生きてるがお前みたいなワームは見たことないぜ…上位種か?」

「ふん、お主中々見る目があるではないか! その通り、儂こそがワーム種の頂点、エンペラーワームのミミズさんじゃ!」

「…種族はともかく、なんだその変な名前は?」

「……やっぱり変か、そうか…やっぱりかぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「ど、どうしたんだ急に⁉」

「くそが! あやつが儂の事をミミズさんなんて呼ぶからこの名前になってしまったんじゃ! そもそも名前にさん付けが入ることなんて普通あり得んじゃろうが普通は!」

「お、おい…」

「くそったれがぁ! 何で儂ばかりこんな仕打ちを受けなければならんのじゃ…もうヤダ…」

「そ、そんなに名前の事気にしてたのか…すまん」

「よい、もう慣れた…それよりも儂らはこれからどうなるのじゃ? …まぁどうせ幼虫の餌にされるとかそんなところじゃろうが」

「それならまだいい方さ…恐らく、俺達は女王の餌さ」

「なぜそんなことが分かるのじゃ?」

「昔書物で見たことがあるんだ…アーミーアントの女王は生きた獲物を丸呑みにすると書いていた、俺達が生かされているのはそれが理由だろう…それに、俺が次の餌だしな」

「…なぜ次じゃと分かるのじゃ?」

「俺の仲間は全員連れていかれたからさ」

「仲間? お主冒険者か」

「いや、俺は商人だ、俺はアメリア王国に行く途中この南の森近くの草原を移動してたんだ…そこでアーミーアントに襲撃されそのまま巣に連れていかれ今に至るというわけさ」

「次が自分だと言う割には随分と元気じゃのう」

「俺はもう300年生きてんだ、今更こんなことではビビったりはしないさ、…だが仲間は人間だったからな…女王の餌にされると分かった時は皆錯乱していた」

「やはり人間は脆弱な生きものじゃのう」

「確かにな…だがいい奴らだった、俺はあいつらの仇を取りたい、だから女王の腹の中で暴れまわって少しでも苦しめてやるのさ!」

「…浅はかな考えじゃのう」

「何だと!」

「アーミーアントの女王がその程度で苦しむわけがなかろうが、胃液で10秒もせずに消化されるぞ」

「じゃあどうしろって言うんだ!」

「お主は運がいいぞ、もうすぐ儂を助けにやって来る奴らがおる。ついでに助けてやろう」

「助けがくるだって? ここにはアーミーアントが1000匹はいるんだぞ!? どうやってこの最下層にくるんだ!?」

「ふん、たった1000匹程度あ奴はすぐに蹴散らすぞ?」

「何だと!? 一体何者なんだそいつは!」

「魔王じゃ」

「は?」

「これから助けに来るのは魔王じゃ」

「ま、魔王?」

「…その顔は信じて無いようじゃのう」

「あ、当たり前だ! 魔王が助けに来るなんて信じられるわけないだろ!」

「なら信じろ、もうすぐ魔王がお主の前に現れるのじゃからのう…ん?」

「ギチチチ、ギチチ」

「…残念だが俺はここまでのようだ、女王の食事の時間だ」

「そうか…残念じゃ」

「ああ、じゃあなミミズさん…え?」

「ギチチチ」


アーミーアントはドワーフと一緒に儂を運び始めた。


「ギチチチチ!」

「え、儂も!? 何でじゃ!?」

「ギチチチ!」

「おいどうゆう事じゃ! この糞蟻が!」

「ギチチチ」

「え、嘘マジで!? 儂もこやつと一緒に食われるのか!? 待ってくれ、儂は不味いからやめた方がいいぞ!」

「おい! さっきまでの余裕はどこに行ったんだよ!?」

「いやだってこんなに早く儂の番が来るなんて思ってなかったから…」

「おいどうするんだ! 魔王はあとどれくらいで助けに来るんだ!?」

「知らん!」

「はぁ!?」

「とにかく信じて待つのじゃ!」

「つまり神頼みって事か!?」

「うむ!儂は信じているぞ、あ奴が助けに来ることを、だから……マジで早く来てくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


ミミズさんの叫びが蟻の巣に響き渡った。
















「ソイヤー! こっちで間違いないんだな!」

(はい!もうすぐ奴らの巣に着きます!)

「いいか皆、巣に到着次第すぐに巣に入るぞ!」

「了解で御座る!」

(わかったー!)

(分かりました!)

(ご主人、俺分かった!)

(主殿、着きました!)

「あれか! よし行くぞ皆!」


ミミズさん、待っていてくれ、今助けに行くからな!!

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