第13話 武人

「……ん、朝か……」


 目が覚めた私は巣の外に出る。 外は晴天だ。


「うむ! 絶好の特訓日和じゃのう」


 いつの間にか後ろにミミズさんがいた。


「びっくりした……驚かさないでよミミズさん」

「別に驚かすつもりはなかったんじゃが……すまん」


(なにー? うるさいよー……あ! おはよーごしゅじん!)

(おはようごさいます、ご主人さま)

(おはようございます主殿、今日はいい天気ですね)


 巣穴からスティンガー達が出てきた。 ミミズさんが三匹に言い放つ。


「よいか! お前たち三匹は自力で朝食を獲ってくるのじゃ!」

(えー!? ひじょうしょくなんでー!?)

(私たちまだ生まれて三日も経ってないんですよ!? ひどいです非常食さん!)

(非常食殿に我々を命令する権限はありません! 横暴です!)

「おいお主ら! いい加減非常食扱いするのをやめろ! 儂泣くよ!?」

「スティンガー、ソイヤー、パピリオ、今日から実践訓練なんだ、お前たちも経験を積んだ方がいいと私は思うけどな」

(わかったー! ごしゅじんがいうならがんばるねー♪)

(わかりました、ご主人さまがそこまで言うなら)

(了解しました、非常食殿ではなく主殿が言うのならば)

「ねぇ、儂泣くよ? 本気で泣くよ?」


 最近ミミズさんの扱いがどんどんひどくなっている気がするが……まぁいいか。


「じゃあミミズさん、私は今から昆虫の卵を召喚するからミミズさんは巣で卵を守っていてよ」


 昆虫の卵はユニークスキル絶対防殻を持っている。


 このスキルは外からの攻撃を完全に遮断するスキルだが、卵に危害を加えなければ持ち運ぶことができる。全員が外に言っている間にもし巣に侵入者が来たら、卵を持ちだされる可能性がある。 


 だからミミズさんに留守番していてもらった方が安全だろう。


「うむ! 確かにその方がよさそうじゃのう……わかった! 儂は留守番しとくとするか」

「ところでミミズさんは食事しなくていいの?」

「儂は土食べるから問題ないぞ?」


 あ、そこは普通のミミズと同じなんだ……

 それはともかく早く昆虫の卵を召喚しよう。


「《昆虫召喚サモンインセクト》!」


 目の前が光り、卵が出現する、しかし……


「あれ……なんか大きくない?」


 今まで召喚した昆虫の卵は大体15センチから30センチほどだったが今回の昆虫の卵は2メートルもある。


「ミミズさん、なんかいつもよりでかいけど……」

「でかっ!? なんじゃこの卵!?」

「何でミミズさんも驚いてるんだよ!?」

「いや、儂の時はせいぜい1メートルほどの卵しか召喚されなかったからのぅ……こんなでかいのは初めて見たぞ……」

「……まじで?」

「うむ、マジと読んで本気じゃ!」

「……その言葉気に入ったの?」

「うむ! 結構響きがよくてのう、まぁこの卵は儂に任せて言って来い」

「それじゃあ行ってくるよ」







 ミミズさんに昆虫の卵を任せて、私たちは樹海の中を移動する。


「さて、ここにはどんな魔物がいるのかな……お?」


 周りを見渡すと早速魔物を発見した。 

 約7メートル先にメタリックグリーンの昆虫が見える。 


 全長80センチ程のコガネムシだ、ただ普通のコガネムシとは身体の形が違う。 


「あの体の形状……マンマルコガネだな……」


 マンマルコガネはコウチュウ目アツバコガネ科に分類される昆虫で、危険を感じるとダンゴムシのように身体を丸くすることが出来るのだ。 

 こいつの凄い所は触角と脚を体内に完全に収納することが出来るのだが、この丸まった姿が可愛いのだ。


 ほら! 今私に気付いたマンマルコガネが身体を丸めた! 可愛いなぁおい! そしてそのまま私に向かって転がって来て……転がる?


「危なぁっ!?」


 何とマンマルコガネが私に向かって転がってきたのだ!


 私はぎりぎりそれに気付いて避けた。

 スティンガー達もなんとか避けれたようだ。 


 マンマルコガネはそのまま木に激突した。


 メキメキ……バキャア! 


 マンマルコガネが激突した木が音を立てて倒れるが、マンマルコガネは無傷だ、私はすぐに鑑定を使用してステータスを確認した。








 ステータス

 名前:無し

 種族:ローリングコガネ

 レベル:7

 属性:地

 称号:無し

 スキル:ローリングアタック










 ローリングコガネ……またそのまんまな名前だな、しかしあの転がり攻撃は厄介だな……


 普通のマンマルコガネは丸くなるだけで平面を自分で転がったりはしないんだが……この世界で私の知識を鵜呑みにするのは危険だな……


 ローリングコガネはこちらを向くと、再び私目掛けて転がってきた!


「お前たちは下がっていろ!」

(わかったー! ごしゅじんがんばってー!)

(ご主人さま、ファイトです!)

(主殿、頑張ってください!)


 スティンガー達は後ろで応援してくれている、これは頑張らないとな。

 ローリングコガネが接近してくる、私はローリングコガネを角で受け止めた!


「ふん!」


 そのままローリングコガネを投げ飛ばす! 


 投げ飛ばされたローリングコガネは再び木に激突するが全然ダメージが入っていない。 

 こうなったら……


 ローリングコガネが三度転がってくる、私は野球バッターのように角を構え大きく振った!


「おらぁぁっ!」


 カキィィン! という音が響き、ローリングコガネは天高く飛んで行き姿が見えなくなった。

 その後、頭に声が響く。


 《ローリングコガネを追い払った。 ヤタイズナはレベル8になりました。》


 どうやら、敵を倒さなくてもレベルが上がるようだ。


(ごしゅじん、やったねー♪)

(すごいです! さすがご主人さまです)

(見事な勝利……このソイヤー感激しました!)


 スティンガーたちが私の勝利に喜んでくれている、まぁ実際は勝ってないけど。


 私達は樹海探索を再開した。 しばらくすると魔物が出てきた。


 洞窟でよく見たテールシザーだ。


 テールシザーがこちらに気付き襲ってきたが、洞窟の奴より弱く、角で攻撃したらすぐ死んだ。


「よし、朝食ゲットだな」


 その後再びテールシザーが出てきた。 


 今度の奴は20センチの小型だったのでスティンガーに任せてみたが結果はスティンガーの圧勝で終わった。


 スティンガーが尻尾を突き刺した1分後、テールシザーに毒が回り動けなくなったのだ。


(ごしゅじんー、ぼくやったよー♪)


 と言って尻尾を振っていた。 


 ……振るのはいいが毒針から毒が垂れ出ているのは何とかしてほしいと思う。


 ソイヤーは木を食べていた、やっぱり木が好物なのか……


「美味しいか?」

(大変美味です!)


 とても嬉しそうに答えた。 


 パピリオもやっぱり葉っぱを食べていた。


(美味しいですー♪)


 癒される……ハッ!いかんいかんまたトリップするところだった。


 さて、朝食も手に入れたし帰るとするか。

 私達は巣に戻ることにした。










 ――1時間後……私達は巣に戻ってきた。


「ミミズさーん! 戻ったよー」

「おお、早かったのう スティンガー達はどうじゃったか?」


 私はミミズさんにスティンガー達の事を話した。


「そうかそうか、スティンガーは立派に戦闘出来ていたか、それはすぐに強くなりそうじゃのう……ところでおぬし気付いておるか?」

「? 何に?」

「儂らを見ている者がおるぞ」

「え!?」


 私は辺りを見回す、しかし敵の姿は見当たらない。


 すると。


「ほぉ……拙者の気配を感じ取るとはそこの御仁、中々できるようで御座るな」


 木の上から魔物が降りてくる。


 その身体は黒く光沢はない。

 頭部、胸部、腹部に分かれていて脚が六本で頭部には30センチ程の大顎がある。 


 全長は大顎も合わせて1メートル60センチはある。


 間違いない、クワガタムシだ。


「お初にお目にかかる、拙者は名もなき旅の魔物、以後、お見知りおきをで御座る」 

「……く」

「く?」


「クワガタ来たーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」



 私の感動の叫びは南の森全域に響き渡った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る