第9話 初戦闘
「さて! そろそろおぬしには実戦訓練を行ってもらうぞ!」
唐突にミミズさんがそんなことを言い始めた。
「実戦訓練?」
(ごしゅじんー、このひじょうしょくなにいってるのー?)
「ひ、非常食じゃとぉ!? おいスティンガー! おぬしまだ儂のこと食い物扱いしとるのか!?」
ミミズさんはスティンガーから距離を取っていた。
「と、とにかく! おぬしにはこれより洞窟内にいる魔物と戦ってもらうぞ!」
「え、なんで!?」
「おぬしは儂の跡を継いだのじゃぞ!? いずれは外の世界に出ることになる、故に今のうちに実戦経験を積んでおくのが一番なのじゃ!」
「おお! ミミズさんがまともなことを言ってる!」
「……おぬし儂のこと何だと思っているのじゃ……まぁよい、いざ出発じゃ!」
「まぁ、行ってくるか……スティンガー、留守を頼んだぞ」
(うん! ごしゅじんいってらっしゃーい♪)
尻尾をぶんぶん振っているスティンガーに見送られて洞窟最深部を離れて、ミミズさんと共に洞窟内部を探索する。
「しかし、今まで最深部しかいなかったからわからなかったけど……広いなここ」
「うむ、ここは儂が掘ったんじゃがこんなんだったかのぅ……」
「えぇ!? ここミミズさんが作ったの!?」
驚いた私を見てミミズさんはエッヘンと胸を張った。
……まぁミミズさんに胸部は無いんだけどね……
「ふふん、驚いたか! まだ儂が魔王だった頃にユニークスキル穴堀(あなほり)の神(かみ)を使い作り出したのじゃ!」
穴堀(あなほり)の神(かみ)?
……そういえば前に一度ミミズさんのステータスを見たときにあったな……元魔王(笑)に気を取られてたけど。
私はミミズさんに鑑定を使いスキルを確認した。
ユニークスキル:穴堀(あなほり)の神(かみ)
:どんな地形でも瞬時に穴を掘ることができるスキル。その穴堀の速さはまさに神。
そのままのスキルだった。
だがこれは便利なスキルだな、逃げるだけでなく奇襲にも使えるスキルだ。
そんなことを考えていると、ミミズさんが止まる。
「む……いたぞ」
その言葉を聞き前を向くと、そこには全長1メートルほどの細長い体型、尾部に巨大な鋏を持つ生物がいた。
「あれは……ハサミムシか?」
そう、私の知識では、あれはハサミムシと呼ばれる昆虫だ。
ハサミムシとはハサミムシ目、ハサミムシ科の昆虫だ。
私はすぐに鑑定を使い相手のステータスを見る。
ステータス
名前:なし
種族:テールシザー
レベル:5
称号:なし
スキル:怪力鋏(かいりきばさみ)
「あの鋏の形状……オスだな」
そう、ハサミムシは鋏の形でオス、メスの区別がつけられる。
オスは鋏がきつく曲がっていて、メスの鋏は緩やかに曲がっている。
ちなみにハサミムシのメスは卵や孵化した幼虫の側を片時も離れずに守る習性があり、巣に近付いてきた相手はハサミで威嚇して追い払う。
そして幼虫が孵化すれば、エサを取ってきて食べさせてあげるのだ。
孵化するまで飲まず食わずで卵を大切に見守る。
中には孵化後の幼虫に自らの体をエサとして与える種も存在していて、その母性愛は海よりも深いのだ。
今回の奴はきつく曲がっているのでオスで間違いない。
私はゆっくりとテールシザーに近づくと、テールシザーがこちらに気付き、テールシザーは腹部を曲げ、鋏をこちらに突き出して威嚇してきた。
「どうやらあっちはやる気満々のようじゃのぅ……さぁ! あやつを倒して来い!」
「シャアアァァァァァ!」
ミミズさんの言葉と同時に、テールシザーはこちらに向けて突進してきた!
テールシザーはこちらに来ると同時に鋏を突き出した! 私も敵に向けて角を突き出す。
ガキィィン!!
鋏と角がぶつかり合い、洞窟内に音が響いた!
テールシザーは鋏で私の角を挟み込ませ、自身の身体を大きく揺らす。
ギチギチと鋏が少しづつ角に食い込んでいく。
「はぁぁぁっ!」
私はそのままテールシザーを持ち上げ、そのまま大きく振り回す。
ブォン、ブォン!
振り回す度に風切り音が鳴る。
テールシザーを振り回し続けていると、テールシザーはついに耐え切れなくなり、鋏を角から離しそのまま壁に激突した!
「ギ、ギギィ……」
「今だ! オラァッ!」
私は壁に激突してひるんでいるテールシザーの腹部に角を突き刺す!
「ギシャアァァァ!?」
そしてそのまま腹部を突き刺されて悶えるテールシザーを地面に叩き付けた!
テールシザーは全身を痙攣させた後、動かなくなった。
「よし!」
その直後、頭に声が響く。
《テールシザーを倒した。ヤタイズナはレベル2にアップした》
レベルがある時点で気付いてはいたが、やはり敵を倒すと経験値をもらえるようだ。
ミミズさんがこちらにやって来る。
「うむ! 初戦闘にしては中々よかったぞ、これからもどんどん敵を倒してゆくのじゃぞ!」
「ところで、この死体どうするの?」
「何言っとるのじゃ、持って帰って食うに決まっておろう」
「え、食うのこれ!?」
「あたり前じゃ! この洞窟では貴重な食糧じゃぞ! さぁ今日はここまでにしてさっさとそれを持って帰るぞ」
そう言われ、私はテールシザーを角に乗せて持ち帰ることにした。
……そもそもカブトムシの私ってこれ食えるの? と思いミミズさんに聞くと、魔物は大体雑食性らしい。
最深部に帰るとスティンガーが尻尾を振って出迎えてくれた。
私はテールシザーの身体の一部をスティンガーにあげた。
(いいの!? ありがとー! ごしゅじんだいすきー♪)
とお礼を言ってくれた。可愛い奴だ。
一方ミミズさんは……
「おぬしの師匠である儂は半分はもらう権利があるのじゃ!」
と言ってテールシザーの身体の半分を持って行った。
……いつ師匠になったんだ? そう思いながらテールシザーを食べた。
意外と肉厚で美味しかった。
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