第8話 孵化
昆虫の卵を召喚してから一週間が経った。
その間食事などはどうすればいいのか? とミミズさんに訪ねてみたが。
「言ってなかったかのう? 昆虫の卵から生まれた者達は1週間ぐらいは食事をしなくても平気じゃぞ?」
初耳だった。
このミミズまだ言ってない事多くね? と一瞬思ったが考えるのが馬鹿らしくなったので考えるのを止めた。
この一週間の間更に二つの卵を召喚してみてわかった事がある。
まず、召喚された卵はそれぞれ大きさが違うということ。
二つ目の卵は20センチほどで、三つ目は15センチほどしかなかった。
これは生まれてくる虫のサイズごとに違うということで間違いないだろう。
「はて?、そろそろ生まれてもよいはずなんじゃがなぁ……」
「そうなの?」
「うむ、昆虫の卵は最低でも3日で孵化するのじゃが……おかしいのぅ?」
「卵を自分で割ることができないとか?」
「それは無い、昆虫の卵のスキルは覚えておるか?」
「ああ……確か絶対防殻だっけ?」
「うむ、鑑定でスキルの詳細確認はしたじゃろ?」
「え、できるの?」
「鑑定を使用したあとさらにスキルにたいして詳細確認と念じればできるぞ?」
これも初耳だった。
いい加減引っ叩いてやろうと思ったが、とりあえず昆虫の卵に鑑定を使い、スキルの詳細を確認した。
ユニークスキル:絶対防殻
:昆虫の卵のみが所有する常時発動型スキル。 あらゆる外からの攻撃、状態異常を完全遮断する。このスキルは孵化と同時に消滅する。
何そのチートスキル!? つまり孵化するまで誰も卵を壊せないということか。
「このスキルは外からは壊せない、つまり生まれてくるものにしか壊すことができんのじゃ、しかも中からなら簡単に壊れるという優れたスキルじゃ」
ミミズさんが言い終わると同時に卵に亀裂が入り始めた。
「おお、生まれるようじゃのう」
「さて、どんなやつが出てくるのかな?」
期待の眼差しで卵を見る私、そして……
パキパキ……パキン!
ついに卵が割れた! そして中から出てきたのは……
「ぴぃぃぃーーー!」
蠍(さそり)だ、全長は25センチほどで黄色と黒の身体に大きな尻尾を持っている。
私の持つ知識ではこれはオブトサソリ、節足動物鋏角亜門サソリ目キョクトウサソリ科に属するサソリで、主に中東、ヨーロッパに生息し、別名デスストーカーとも呼ばれる種だ。
その名の通り鋏に比べて尾が太く、更に毒性が非常に強いキョクトウサソリ科の中でも最も危険な種類で、餌の動物を捕食する時も、防衛の時も積極的にその毒針を振るい、餌の少ない砂漠で確実に獲物を仕留める為に強化された毒は人間でも死亡例があるほどの致死性を持つのだ。
動きも素早く、走るときはかなりのスピードで砂地を進むことが出来、体を方向転換させるスピードも速い。サソリの中でも特段に気が荒く、攻撃性も非常に強い、その危険性から日本では輸入が禁止されているほどだ。
……しかし、昆虫の卵という名前なのに、昆虫以外の虫も生まれてくるのか……蠍は蜘蛛(くも)の仲間で、昆虫ではないのだ。
まあ私は虫全般が好きだから全然構わないけど。
生まれた蠍を見たミミズさんは少し驚きながら話した。
「ほぉ、スコルピオンか、珍しい奴が生まれたのう」
「こいつそんなに珍しいの?」
「うむ、儂の時は2、3匹くらいしか生まれなかったからのぅ……鑑定してみたらどうじゃ?」
ミミズさんの言葉通り蠍にたいして鑑定を使用し、蠍のステータスが表示された。
ステータス
名前:無し
種族:スコルピオン(希少種)
レベル1
称号:魔王のしもべ
属性:地
スキル:毒針
ん? 希少種? つまりレアってことなのか?
ミミズさんに聞いてみると……
「なんと! 希少種じゃと!? おぬし運がよいのう、希少種なんて儂ですら出したことはないんじゃぞ」
「え、本当に!? やっぱりコイツ超レアなんだ……」
ミミズさんと話していると蠍がこっちに来て鳴き声をあげると、頭に声が聞こえてきた。
(はじめましてごしゅじん! ぼくのなまえはなんていうのー? おしえておしえてー!)
「ミミズさん、なんか自分の名前ってなにって言ってきてるんだけど?」
「何言っとるんじゃ、おぬしが名づけんでどうするんじゃ、おぬしのしもべじゃぞ?」
名前か……どうしようか……そうだ!
「よし! お前の名前はスティンガーだ!」
スティンガー、意味は刺し貫く人だ。
こいつ、尻尾が大きいしなんでも貫けそうだしな。 スティンガーは嬉しそうに鳴き声をあげた。
(わかった! ぼく、すてぃんがー! かっこいいなまえありがとーごしゅじん! ぼくがんばるねー♪)
スティンガーは嬉しそうに尻尾を振り回している。
しかし、しばらくすると尻尾が止まる、どうしたのかと思うと鳴き声をあげた。
(ごしゅじんー……ぼくおなかすいたーそこのみみずたべてもいい?)
ミミズさんはすごい勢いで私の後ろに隠れた。
「こ、こいつ今儂を食べようとしとったじゃろ!? 儂は食い物ではないぞ!? おぬしからもなんかいうのじゃ!」
「スティンガー、このミミズさんは食べたらお腹壊すからやめたほうがいいぞー?」
(そうなのー?)
「おいぃ!? いくらなんでも言い方というものがあるじゃろうが!?」
(うー……おなかすいたー……あ! たべものだー!)
スティンガーは自分の生まれた卵の殻を食べ始めた。
「ミミズさん、あれ食べれるの?」
「ん? ああ、卵から生まれたものは一週間食べなくてもよいはずなんじゃが、稀に腹をすかし食べる者もおるぞ?」
「へー……あれ? そういえば私の卵の殻はどこに行ったの? あれも食べられるんでしょ?」
「え、あー……それはのぅ……」
ミミズさんは吹けもしない口笛を吹いている……まさかと思うが
「ミミズさん……まさか食べたとか?」
「そのぅ……なんじゃ……美味かったぞ?」
その言葉と同時に私はミミズさんに向けて角を振った。
「ぬおぉぉぉぉ!? 何すんじゃあ!」
「何すんだ、じゃねぇよ!? なんであんたが食ってんだよ!?」
「新しい身体になってから小腹が空いてつい……す、すまん許してくれぇ―!」
(もぐもぐ……おいしー♪)
私がミミズさんに角を振り回している間、スティンガーは卵の殻を美味しそうに食べていた。
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