第3話 説明

 今の状況をまとめよう。


 目覚める→カブトムシになった→目の前にミミズの化け物→そのミミズが魔王←いまここ。



 ……魔王?


 え? このミミズ今なんと言った? 魔王? え? このミミズが?

 私が黙ったままミミズの化け物を見上げていると、ミミズの化け物は高笑いしながら機嫌よさそうにしゃべり始めた。


「フハハハハハハ! どうやら儂に恐れおののいているようじゃな! まぁ仕方あるまい、儂を見て恐怖を感じない者などおるわけがないからのう!」


「キ……」(な……)


 私は心からの本音を口に出した。


「……キュキュイキュキュー……」(……なんかびみょー……)


「な、なんじゃと!!」


 そう言うとミミズの化け物がショックを受けていた。


「お、おぬし今なんと言った!? びみょーじゃと!? この儂が魔王であることをびみょーと言ったのか!?」


 ミミズの化け物は驚愕の表情でこちらを見ていた。


「キュキュ、キュキュイキュー……」(いや、だってなぁー……)


 普通、魔王のイメージは魔人や、ドラゴンだったり色々とある。


 だがいきなり、巨大ミミズが魔王だと言われても、微妙としか言いようがない。てゆうかそれ以外の感想が浮かんでこないのだ。

 すると、ミミズの化け物はぶつぶつと小言をいい始めた。


「び、びみょー……そんな言葉はじめて言われたわ……儂、魔王じゃよ? 普通もっと恐れるものじゃろうが……なのに……コイツは恐れるどころかびみょーといいよった! こ、こんな馬鹿なことがあっていいのか? こ、こんなことが……」


 ……なんかすごい落ち込んでいるんだけど…そんなに悪いこといったかなぁ……


「キュー……」(あのー……)


 話しかけると、ハッ!というかんじでこちらを向き、怒鳴ってきた。


「お、おぬし! なぜビビらないのじゃ!? 儂は魔王じゃぞ魔王!! もっとこう……「う、うわぁぁー!」 とか言って逃げたりするもんじゃろうが! なぜなにも反応せんのじゃ!! しかも儂のこと見て、び、微妙とはなんじゃ微妙とは!?」


「……キュキュイキュー」(……まぁそんなことはおいといてさー)


 私が喋るとミミズの化け物はさらにおどろいていた。


「そ、そんなことじゃと!? お、おぬし儂がこんなにも悩んでいるというのにそんなこととは……おぬしには人の心はないのか!?」


 いや、今の私は虫なんですけど……


「キュキュイキュ?」(ここはいったいどこなの?)

「む、そうであった……話が変なところにいっとったわ……」


 ミミズの化け物は一回咳払いをして説明を始めてくれた。


「ここはランド大樹海の地下洞窟、その最深部じゃ」

「キュキュキュイ?」(ランド大樹海?)


 そんな樹海聞いたことがない。やはりここは異世界ということなのだろう。


「そして、おぬしは儂がここで生み出したのじゃ」


 儂が生み出した? ……ということはつまり、このミミズが私のお父さんてこと!?


「ちがうわこのたわけ! 儂のスキルを使って作り出した卵から生まれたのがおぬしというだけで、直接生んだわけではないわ!」


 スキル? あれ……なんで喋ってもないのに私の言葉がわかったんだ?


「スキルを使い、おぬしの頭の中を読んだんじゃよ」


 頭の中を読んだ? ……てことはつまり!?


「うむ、おぬしの考えることは儂にダダ漏れじゃぞ?」


 い、いやぁぁぁぁぁぁ!! 


 は、恥ずかしい! つまり最初のカブトムシの事とか聞かれてたってこと!?

 嗚呼……穴があったら入りたい! 私が悶えていると。


「……いろいろと忙しい奴じゃな……話を続けてよいか?」


 あ、はいどうぞどうぞ。

 私はすぐ思考を切り替えて話を聞くことにした。






 魔蟲王ヤタイズナ……長いから今後はミミズさんと呼ぶことでよいとして。


「よくないわ!!」


 と、つっこまれたがまぁおいとくとして、ミミズさんはこの世界について教えてくれた。


 まず最初に私がいるジェラルド大陸についてだ。


 この大陸は、人間をはじめエルフ、ドワーフ、獣人などの多種多様な種族がいるらしい。

 その中に、蟲人と言われる種族もいたらしい。 


 ミミズさん曰く「我が同胞のくせに人間に味方した愚かな種族よ!」らしい。


 千年前、人族と蟲の争いが起こったという、その戦争が起きた原因がミミズさんらしい。

 なんでも、暇つぶしに遊んでたら国を滅ぼしてしまったらしい。


「あの程度で滅ぶとは脆い国だったわ!」だそうで。


 しかし、それが原因で蟲は我々の敵だ! 滅ぼすべきだ! という人間が続出、やがて戦争へと発展したという。


 戦争は百年も続き、人間軍は疲弊していく一方だったという。

 一方で蟲たちはミミズさんがスキルでほぼ無限に召喚できるらしく、減るよりも増えていく一方だったとか。


 しかし、戦争は二百年目に突入した直後、戦況が大きく変化する事になった。


 人間側に勇者が現れたのだ! しかも六人も! 

 勇者たちはエルフ、ドワーフ、獣人、そして蟲人による大連合を作り上げたというのだ。 


 そして、戦況は人間側に傾いていったらしい。


 詳しく聞くと、「全員が炎魔法を連発しまくって、しもべがどんどん減っていったわ!」らしい。

 そして、二百十年目、ついに勇者によってミミズさんは倒されたことにより人間側の勝利となった。


「儂を倒すとは全く見事な奴等じゃったわ!」だそうだ。


 戦争に勝利した連合軍は、勇者への感謝を込めて一週間に及ぶ宴を開いたらしい。

 しかし、その後行われたのは人間たちによる蟲人たちの処刑であった。


 どうやら戦争が終わった瞬間から用済みとみなされたらしい、元々数が少ない蟲人たちはなすすべもなくどんどん殺されて絶滅したという。


「人間に味方するからこうなるのじゃ!」とミミズさんは言っていた。


 そして戦争が終わった九十年後、ミミズさんは復活したという。

 なんでも、身体の一部が残っていたら再生できるらしい。


「ふふん、すごいじゃろ!」と誇らしげであった。


 だがしかし復活直後は二メートルほどしかなく、元のサイズにもどるまで五百年かかったという。

 こうして元に戻ったものの、しもべもいなくなり、一匹になって寂しかったらしい。


「べ、別に寂しくなんてなかったわ!」と言ってはいたが。


 すぐにスキルでしもべを召喚したらしいが、異変が起こったらしい。


 召喚した蟲はみな知能が低くいうことすらきかなかったらしい。

 何度も何度も召喚し続けるが、皆ミミズさんのいうことを聞かなかったらしい。


 そんなことが二百年続き、千年目にしてついに知能の高い蟲が召喚できた。

 それが私と言う事らしい。


「苦節二百年……やっと、やっと成功したのじゃ! ……だがしかし、おぬしは儂を恐れず、あまつさえ儂を微妙だといいよったのじゃ!」 


 あ、まだ気にしてたんだ。


「だがそのような事はこの際どうでもよい! おぬしに頼みたいことがあるのじゃ!」


 私に?


 首を傾げると、ミミズさんはこう言った。


「うむ、おぬしに儂の跡を継ぎ、新たな魔王になってもらいたいのじゃ!!」


 ……はいぃぃ!?

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