三十三話 嗜好と本能と蒼い腕と




「タクヤさまっ、大変お待たせいたしましたぁ、どうぞお召し上がりくださいっ」


 夕食が済んで、みんなそれぞれ好みの飲み物を飲もうとしていた。

 アリーシアは自分好みにブレンドしたハーブティー、イルビスはベリージャムを一匙入れたホットミルク、オレとローサは果実酒というのがそれぞれの最近の好みである。

 が、今夜オレの前にサマサが出してくれたのは、湯気の立つティーカップ、中には香り立つ濃褐色の液体……


「こ……こ、これはああぁっ!」

 まさかっ! である、こちらの世界に来てからは存在しないものと思い諦めていた、しかし嗜好品ゆえに身体が求める、いつまでも諦めきれぬ恋しさと寂しさ……当のオレ本人すら忘れかけてたのに、以前一度だけ話したことをしっかり覚えてくれていたとは、さすがサマサであった。


 満面の笑みを浮かべて、オレの感激している様子を眺めているサマサに恐る恐る訊ねる、どうか間違いじゃありませんように……と念じながら。

「コーヒー……なのか……?」

 嬉しそうに頬を紅潮させたサマサは明るく元気に答える。

「はいっ! タクヤさまがおっしゃった通りの効能が、完璧に揃っておりますっ!」

 ……ん? なんか……ちょっと引っ掛かる言い方だが……ま、まあいいか……とにかく飲んでみれば分かることだ。


 カップを取り、まず香りを嗅ぐ、似てる……少し植物っぽいというか……土の香りがするが、甘い香りはコーヒーそのものと言ってもいいくらい似ているようだ。

 香りにそそられて我慢できなくなり、早速ひと口すすってみる。

 テーブルを囲む全員の目がオレに注目していた。


 少しとろみがあるが全然許容範囲内だ、味もコーヒーそのものではないがよく似ている、そしてやはり植物っぽい味もする……

 ハッと思い出す、何度か飲んだことがあるチコリコーヒーにそっくりだ、チコリというハーブの根をローストして淹れるのだが、まさしくそれだ、そして総合的に評価すると、コーヒーに恋い焦がれていたオレの欲求を十二分に満たすものである。


 美味い、熱いので一気に飲み干せはしないが、二口、三口とすすり、すぐにカップは空になってしまった。

 カップをソーサーに戻したオレの至福の表情は、一流家政婦を目指すサマサには最大級の賛辞のようだ、本当に嬉しそうに目をキラキラさせている。


 オレは宙に大きなホッの文字が出るようなため息をつき、椅子の背もたれにガタッと背を預け……た、まではよかったが、そのまま天井を見上げるようにガクンと上を向いて白目をむき、至福の表情を固めたまま突然気絶した。


 気絶した……はずなのだが……白目をむいた自分を眺めている……なんだこれ?

 まさか幽体離脱的な? いやしかし、幽体だの精神体だのならアリーシアやイルビスがすぐわかるはず、今その二人はローサやサマサと一緒に、白目をむいたオレの身体の方を見て驚いている。

 これは……あのコーヒーのせいなのか? 効能が完璧に揃ってるとか言ってたが……オレ、サマサになんて説明したんだっけか……


「ちょ、ちょっとサマサ……タクヤどうしちゃったのよ……?」

 そう言ってローサが椅子から腰を浮かせたとき。

 グルンッと白目が元に戻り、カックンと首も戻って正面を向く。

「ヒッ!」

 驚いたローサは、腰を浮かせた分だけペタンと尻餅をついた。


 驚くのも無理はない、オレの顔は至福の表情が張り付いたままだが、目はどこを見てるのか判別がつかないほど虚ろな視線を宙に向けている、自分で言うのもなんだが、非常に気持ち悪い状態だ。

 本能的に危険を察知したのか、女性陣は全員ガタタッと立ち上がってテーブルを離れ、リビング側へ回り込んでオレと距離をとる、今のところ誰一人としてオレを介抱しようとしてくれる人はいない。


「サマサ、どうなっておる? 説明せい」

 イルビスも困惑した声でサマサに訊ねる。

「はいっ、しばらく前なのですが、タクヤさまに『こうひい』なる飲み物を所望されまして」

「こうひいじゃと……? 聞いたことがないな……」

「はいっ、わたしも存じませんでしたので……探しておりましたところ、先日それらしい効能をもつものの情報を掴みまして、やっと今日入手できた次第ですっ」


 な……なんか随分大掛かりな話になってきたな……

「サマサさん、その効能とは一体どんなものなんですか?」

 今度はアリーシアが訊ねる。

 するとサマサはエプロンからメモ紙を取り出し、読みながら説明を始めた。

「はいっ、まず脳の未使用領域の強制的な活性化が行われますっ、人によっては多重人格化や、理性と本能のように両極端な思考の人格分裂が起こることもあるようですっ」


 な……なんだって? なんだ、その妙に専門的な説明書きは……人格分裂? じゃあ今オレが身体からちょっとだけ離れて客観視してるような感覚って、これは……理性だけが別れて自分を見てるってことなのか? ハッ! ……それじゃあ、身体を動かしてるのってまさか……

「それから脳の活性化に伴って、日頃から抑圧されている心の奥底の欲求を、覚醒させていくようですっ」


 おいっ! よりにもよってなぜそんなことを……そ、そういえば覚醒作用とか脳の活性化とか教えた気もするが……ちょっとまてよ、もし今オレの身体が変な行動をとったら、そういう欲求を持ってるってことになっちゃうんじゃ……?

 するとオレの身体がフラリと椅子から立ち上がる、焦点は相変わらず定まっていないが、リビング側へ集まっている女性陣の方を向いた……虚ろで不気味な至福の表情に皆ジリッと後ずさる、なんだかどんどん悪い方向へいってる気がするぞ……


「サ、サマサよ……こいつの心奥の欲求など、ロクなものではない気がするのじゃが……それで、その効能とやらは全部なのか……?」

 イルビスは両腕で自分の身体を守るように抱きしめ、オレから目を離さずに警戒しながら訊ねた。

「いえっ、メインの効能がまだですっ、これが一番すごいらしいのですが……」

「な、なんじゃ? ……早く言えっ」

「はいっ、中枢神経を極度の興奮状態にして、リミッターを開放するっ! ……と書いてあります……商品名がブレインエフェクター、キャッチコピーがクオッ! ウヒィ~ッ! と凄く効く! との表記ですっ」

 くおっ、うひ~……くおうひ~……こうひい……ま、まさか……

「な、な、なんじゃと? どういう意味なんじゃ? サマサよ、お前そんな怪しげな物を一体どこから入手したのじゃ?」

 オレもイルビスと同じことを思った、しかしサマサが答えようとしたそのとき。


 フシュー、プシュー、フッシュー……

 オレの鼻息である、とんでもない勢いだ。

 ちょ、ちょっとまて、それはあれか? もしかして心の奥底の欲求が、開放されてきてるってやつなのか?

 顔が紅潮してきたぞ……目が……目がヤバイ……完全にイッちゃってる……


 いつ襲い掛かってきてもおかしくないオレの様子に、女性陣にも更に緊張が走っている、うわっ、あいつら戦闘態勢なんじゃないのか? オレに変なものを飲ませた張本人のサマサまでっ⁉

 ローサは騎士団仕込みの組み打ち術の構えっぽいな、サマサはつま先立ちで斜めに構えてる、蹴り技のようだ……イルビスは、こ……こいつ精霊をどこかに召喚してやがるな? 目が座ってるぞ……アリーシアだけがその様子を見てオロオロしてる……


 マズイぞっ、非常にマズイ! オレは一対一ですらあいつらの誰にも勝てないだろうに……四人相手なんて絶対ボコボコにされるっ! ……やめてーオレッ! 正気に戻ってえぇーっ!

 しかし必死の願いも虚しく、オレの身体はペタンと一歩前へ出る、紅潮した顔で鼻息も荒く、至福の表情でイッちゃった目をしたラリパッパの状態だ、どんなに好意的に表現しても変態の二文字である、女性陣に手加減してもらえる要素など何一つ見当たらない。

 変態はさらにゆっくりと進む、間合いが詰まっていく、女性陣の緊張感が限界まで張り詰めていくのがわかる。


 サマサとイルビスが同時に動いた!

 サマサはぐっと身を沈めて、跳躍か高速移動のためのエネルギーをそのしなやかな身に溜める、イルビスは潜ませている精霊に攻撃の命を下すべく、右腕をスッと真上へ伸ばす。

 次の瞬間、まさしく攻撃開始のタイミングのはずであった、が……一体何があった? サマサもイルビスも、それどころかローサとアリーシアまで、驚愕の表情で目を見開き、金縛りにあったように固まってしまっている。


 なんだ? どうなっている? 四人は固まったままオレを見つめている……あれ?

 四人の視線が一点に集中しているのに気付く、その視線を辿ったオレは四人と一緒に愕然とする。

 いやあああっ! オ、オ、オレの……こ、股間がああっ!


 ズボンの布をものともせずに撥ね上げている……そう、股間部を内側から強烈に押し上げて猛り狂っていらっしゃるのだ……まるで活火山のような熱いパワーが感じられる盛り上がりは、原始的で野蛮で、しかしそれゆえに純粋な男のプレッシャーを女性陣に叩きつけたようだ……

 うわあああっ! 見るなあっ! 見ちゃいやあああっ! 理性のオレが叫ぶが、誰に届くわけもなく。

 頬がカァッと赤くなった四人は、気圧されたかのように目をむいて固まり、細かく身を震わせているだけだ、そこへ盛り上がった股間を隠しもせずに突き出しながら、完全体の変態にクラスアップしたオレがズイッと進む。

 ブレインエフェクター恐るべし、女性陣は戦闘開始の意思を完全にへし折られてしまったようだ、というか、こんな変態に触れるのもイヤになったと言うべきか。


 そのとき突然グワッと視界が後方へ流れる、いきなり一瞬だけ最高速度に達したジェットコースターへ乗ったような感覚、オレの身体が信じられないくらいの高速移動をしたのだ。

 迅いっ! サマサとイルビスの間を、身を低くして瞬時にすり抜ける、あのサマサが目ですら追いきれていなかった、棒立ちの二人を疾風のように通り過ぎた瞬間、ブワッ! と二人のスカートの後ろ側がめくれあがった。

 サマサの説明していたリミッターの開放というやつなんだろう、一時的とはいえ驚くべき身体能力だが、なぜその能力でスカートめくりを……オレってやつは……

 瞬間的にかろうじて、スカートの前だけは押さえて死守したサマサとイルビスではあるが、後ろはどうしようもなかった。


「きゃああっ!」「ひぃっ!」

 若草色のロングワンピースの中は薄い水色で、黒のミニワンピースの中は黒のレース付き……完全にめくれ上がった後ろ側は、小さくて形の良いお尻どころか背中の半ばあたりまで丸見えであった、二人とも短い悲鳴をあげて、腰が抜けたようにその場にペチャンとへたり込んでしまう。


 なんということだ、本能が操るとオレの身体でこんなことができるのか……

 満足そうな様子で床にへたり込む二人を後ろから眺め、至福の表情を崩さずに次はグリンッとローサの方へ首を向けた、ビクッとするローサ。

 ペタペタッと少し離れたローサに向き直る、どこを見てるかすら判別がつかないが、どうやら値踏みをしてるらしい、本能には本能の考え方があるようだ……


 ローサは相変わらずショートパンツにタンクトップである、最初こそは引き締まったスタイル抜群な彼女の開放的な姿にドキッとしたが、最近は本人の言動と相まってなんだかだらしなく見えてきているという、残念な方向に傾いてきていた。

 そんな彼女も今は変態バージョンのオレに正面から見据えられて、蛇に睨まれたカエル状態であった、アワアワと顔を赤くして小刻みに震え、オレの顔と盛り上がる股間を視線が行ったり来たりしている。


 しかし、なかなか動かない変態……あれ? ま、まさか……おいっ、それはいくらなんでも……

 イヤな予感の通り、変態はクリッと横を向く。

「え?」

 ローサも虚をつかれたようだ。

 さらに変態は、今度はグルンッと勢いよく身体をひねってアリーシアへ向き直る、プシューッと鼻息も復活したようだ。

「え? え? ちょ……っと……?」

 どんまいローサ……オレはお前が大好きだ、が、変態基準では女子力が低すぎたらしい……

「なによっ? ちょっと……待ちなさいよっ! こらーっ!」

 もう見向きもしない変態の背に可哀想なローサの声がぶつかる、だがやはりもう耳にすら届いてないだろう……ペタンッとアリーシアへ向けて踏み出した。


 ローサとは逆にアリーシアに対してはやる気満々のようだ、身を少し屈めて襲い掛かる体勢に入ったようだ、手の指がニキニキといやらしく動いている。

 そんなオレの様子にアリーシアも赤くなりながら、だが少し余裕があるようにも見える、あら……イヤン……という感じでオレの突き出た股間をチラッと見ながら、少し嬉しそうな雰囲気なのは気のせいだろうか……


 まずい、ここでアリーシアにまた変なスイッチが入ってしまったら……たいへんなことになるぞ……と、その時。

「させぬわあぁっ!」

 イルビスの声と同時にシュッ! と木の精霊が現れる。

 間髪入れずに細い鞭のような蔦が二筋、オレへめがけて凄い速さで流れてきた。

 床にへたり込んだままではあるが、アリーシアのピンチに気を取り直したのだろう、目の端に涙を浮かべながらもこちらへ右腕を真っ直ぐ伸ばしていた、左手はスカートの前をしっかりと押さえており、ぴったりと力を込めて閉じた脚が警戒の度合いを物語っている。


 イルビスの操る木の精霊の蔦は、容赦なくオレへ叩きつけ絡めようとするコースであった、空気を裂くピュンッという鞭独特の音を鳴らしてオレの身体を薙ごうとする。

 が、当たらない、本能の操るオレの身体はヒョイヒョイッと間一髪で身を躱す、身をかがめ、捻り、軽く跳躍してことごとく蔦をかわしていく、空気を切るヒュンヒュンッという音だけが部屋に響いている。


「くっ……なんじゃと⁉」

 イルビスの驚愕の混じった悔しそうな声、信じられないがオレの身体は、運動能力と共に動体視力なども飛躍的に向上しているようだ、オレは蔦を躱しながらどんどんとアリーシアに近付いていき、ついにはどうしたらよいかわからない様子で動けないままの彼女の前に立つ。


 本能のほうのオレの目にはどう映っているのだろうか、シンプルでラフな白いシャツと、こちらもラフな軽い素材の膝下までの白いスカートという、今日のアリーシアであった。

 ゆったりとした大きめのシャツではあったが胸の部分だけが窮屈に張り詰めている、ボタンも上まで全て留めることができない様子で上から二つほど開いている、そこから覗く吸い込まれそうな谷間は、理性のほうのオレから見ても十二分に熱くなるものがあった。


 アリーシアに近すぎるために蔦の攻撃は止んでいる、余裕すら感じさせる変態はまた手の指をニキニキさせてスッと身を屈めた、狙う先は……そう、白く美しい脚が伸びるスカートの裾が射程距離に突入する。

「さっ、させにゃいっ!」

 これ以上ないほど慌てたイルビスが腕を振ると、蔦がシュルッと這い寄り、今度はオレを狙わずにアリーシアの脚に巻きついた、そう、スカートごと脚をぐるっと巻いてしまい、オレがめくれないようにしてしまったのだ。


 これは素晴らしい防衛策である、こうなってしまっては変態はもう成す術が……んん?

 身をかがめて低い位置でニキニキしていた指が、いつのまにか両手共に人差し指一本だけを立てて握られている……お前、一体何を…… 

 身は低くしたままで、変態は顎を上げて天を仰ぐ、しかし天は見えず、そこにはオーバーハングの下の部分が無情に、いや、期待通りに天を隠すように迫り出していた。


 そう、アリーシアの見事な胸を下から見上げているのである。

 まさか……いや、まずいぞっ!

 アリーシアは両脚をまとめて縛られており一歩も動けない、スカートめくりは完璧に防いだが、他の攻撃に関しては逆に無抵抗になってしまってるじゃないかっ。

 イルビスもウワーッという顔をして今気付いたようだ、しかしもう時はすでに遅かった。


 キーパーのいないPKのように、オレの人差し指を立てた両手はゴールである左右の柔らかそうな双丘へ向けて、誰に邪魔されることもなく栄光の軌跡を辿り……プニョンと突き刺さった。

「あんっ!」

 身体がビクッと動いたアリーシアは、同時に発した自分の声に真っ赤になり両手で口を塞いだ、思わずはしたない声が出てしまったようである。


 変態はVゴールを決めたヒーローのように、人差し指はそのままで、両腕を高らかに上げ万歳のポーズをとっている、勝利の余韻をかみしめているようだ……

 そしてスーッと腕を下ろすと、ゆっくりとイルビスへと向き直る。

 精霊を使っての攻撃の仕返しであろうか、悪い子にはお仕置きだ~というオーラが身体から立ち昇っている、攻撃の通じなかったイルビスにとっては恐怖以外のなにものでもないであろう。


 案の定、自分へ向き直った変態を見るや、サーッと血の気が引いた顔になったイルビスであった、もう交戦する気にはなれなさそうである、床にへたり込んだままなので走って逃げることもできないようだ。

 低くヒイィ~と悲鳴が口から洩れる、と、両手を身体の前で合わせる、すると手の合わせ目を境にした空中に一本の線が走った。


 あ、あれは次元の裂け目か⁉ 作るところを初めて見たぞ……

 ヴンッと、振動音のような低い音が響き、細い線はみるみる太さを増していく、しかしイルビスがくぐっていけるにはまだまだ細い……あの少女の身体だとパワー不足なのだろうか?


 やはりペタペタ歩いてきた変態が横に立っても、まだまだ十分な幅にはなっていなかった。

「ああああ……」

 完全に間に合わない絶望感からイルビスの目には涙が浮かんでいる、横に立つ変態は余裕を持って右腕を伸ばし、それでもまだ次元の裂け目を作り続けている彼女の腕をガシッと掴んだ。

「やあああっ! ……あ?」

 掴まれて悲鳴を上げかけたイルビスの声に、急に不審そうな色が濃くなった。

 蒼く光っているのだ……イルビスを掴んだオレの右腕が……これは、まさか……


 突然ビリィッ! と大きな紙を破り裂くような音が響く、なんと目の前には漆黒の大きな裂け目ができていた、イルビスは声も出せずに大きく目を見開いている。

 裂け目は床へも延び、イルビスの座る場所をも黒く染める、支えを失いガクンッと空間へ投げ出される感覚、この時ばかりはしっかりと掴んだ腕を離さなかった変態を褒める気になった。


「イルビス! タクヤさん‼」

 アリーシアが叫ぶ声を聞きながら、オレとイルビスは暗黒の底へと落ちていく。

 目の端に、開いた空間の裂け目が素早く閉じ、糸のような細さになってついには消える様子が映った。

「タクヤ! 離すでないぞっ!」

 ただならぬ緊張感を乗せたイルビスの鋭い声が聞こえてくる。


 二人は真夜中の闇よりも濃い闇を落ちていく、次第にオレの意識も闇を塗られたように暗くなっていった。 




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る