十五話 スタンドと神託と恋人未満と



 工作をした。


 細長い棒角材を用意して頭の中の設計図どおりに切っていく。

 棒角材の幅は指一本分ほどだ。

 トントンと釘で打ったり、用意した部品を付けたり、紐を通したり。


「よしっ、こんなもんかな」

 絵画を描くときにキャンバスをのせる三脚イーゼルによく似たものが出来上がる。

 ただし高さは四十センチほどしかない。


「それでは、どうかなー……」

 手鏡を置く、そう、ミラースタンドだ。

「わあっ、タクヤさんすごーい! 快適ですっ」

 アリーシア様が喜んでる。

「うん、バランスも悪くなさそうだな」


「手鏡自体が軽いから大丈夫そうだね」

 これまでは小箱に立てかけたりしてしのいできた。

 だが手鏡である、安定して置いておけるという条件には、とても当てはまらない形をしている。

 ローサさんがうっかり倒し、マヨネーズがたっぷりかかったサラダボウルにダイブしてから、ミラースタンドの制作は最優先されるべきものとなった。


「これでマヨネーズまみれにならなくて済みますね」

 ソファーに座るオレと面と向かうように、テーブルの上のスタンドを移動させる。

「うふふ、あれは驚きましたね」

「そういえばアリーシア様、なんだかだんだん言葉が流暢になってるというか……」


「ええ、休眠状態から覚めてすぐというのもありましたし……私、極度に力を使ってしまったときは、酔ったような感じになって、人の言葉がおざなりになっちゃうんです……」

「でも時間が経つと酔いが醒めるのと同じように戻りますので、普通に喋れるようになるんですよ」


「へえぇ~、なるほどなあ」

 あの、アホっぽいゆるふわお姉さん風だったのは、そういう理由からなのか。

「そうそう、タクヤさん」

「はい?」

「こういうプライベートなときには、アリーシアって呼んで下さいな」

「ええ~、だって女神さまを……」

「もちろん神官さんたちの前とかでは無理ですけど、私だって普通のときは普通の女の子でいたいんですっ!」

「そ……そんなものなんですか……」

「そうですっ!」

「わ、わかりました」


 話題を変えた方がいいかなと感じたので。

「あ……アリーシアって、いつ頃生まれたの?」

「私ですか、え~と……二千三百年くらい前かしら」

「に……にせ……」

 あまりの数字に絶句する。


「あ~っ! いまお婆ちゃんだって思ったでしょ?」

「と、と、とんでもないですっ、思ってません!」

 二千三百年だと人間なら、お婆ちゃんどころではなく、塵と化している。

 なんてったって、オレの元の世界のジーザスより先輩でいらっしゃるのだ。


「アリーシア、オレ、ずっと聞きたいと思ってたんだけど……」

 ローサさんとサマサは買い物に行ってて留守だ、こういう機会はあまりないので思い切って聞いてみた。


「はい、なんでしょう?」

「アリーシアが隕石になってオレに飛んできたのって、あれは偶然だったの?」

 アリーシアは少し沈黙し、それから。

「……いいえ」


「いいえ、タクヤさん……偶然ではありません」

「私と、タクヤさんはつながれていました」

「つな……え? えぇ?」

 理解不能の言葉に面食らう。

「うふふ、難しいですよね、やっぱり今はまだ」

「でも、きっとわかるときがきます」

「そういうものなのか……」

「そうです、だから……ちゃんと見つけてくださいね」

 なんともカワイイ御神託だな。

 ま、今はこれでいいかっ。


「ただ~いまぁ~」

「ただいまかえりましたぁー」

 ローサさんとサマサが帰ってきた。


「あーつかれたぁ」

 ドサッと荷物を床に置いてローサさんがこっちにくる。

 キッチンまで持っていけよ。

「あらーいいの出来たじゃない!」

 ミラースタンドのことである。

「ちゃんと作ったのねー感心感心」

 誰のせいで緊急案件になったと……


「ま、まあね、アリーシアも喜んでくれたよ」

「んん?」

 ローサさん首をひねる。

「タクヤさんもっかい言ってくれる?」

「え? いや、アリーシアも喜んでくれたって……」

 ローサさん信じられない! って顔になる。


「ねえ、タクヤさん……私はだれ?」

「誰って……ローサさんだろ?」

「じゃああっちは?」

 ローサさんの放り投げた、床の荷物を運びにきたサマサを指さす。


「サマサだろ、なんだよいったい?」

「じゃあこれは?」

 ミラースタンドの苦笑してるアリーシアを指さす。

 女神さまをコレ言うな。


「アリーシアだろ? さっきから何言ってるんだ?」

「う……ぐすっ……」

 急にベソをかきだす。

 なんだ? どうした? 情緒不安定か⁇


「ひ……ひどい、サマサなんて会ってすぐで……アリーシア様だって女神さまなのにアリーシアって……でもわたしだけローサさんって……」

 あ! 『さん』づけのことかっ。


「あ、あの……」

 オレがなだめようとすると。

「もーいいっ! タクヤさんなんてしらないっ!」

 ダダーッと走って自室に入ってしまった。


「あ、ああ……」

 これは……

 振り向くとサマサもアリーシアも、あ~あ……という顔をしている。

 え、オレが悪いってこと? う、うーむ。

 そういえば、ことあるごとに『さん』づけ気にしてたもんなあ。

 仕方ない、と、立ち上がる。

 アリーシアが。

「タクヤさん、チューくらいしないと機嫌なおりませんよ?」

「へ、変なこといわんといて下さいっ」


 コンコン

「あの……話をさせてもらいたいんで……入っていいかな?」

 返事がない。

「は、入る……よ?」

 鍵はかかってない、そーっとドアを開ける。

「し、失礼します……」

 中に入りドアを閉める。


 ある程度の広さはあるにはあるが、そんなに広々とした感じはしない部屋だ。

 この家にはもっと大きな部屋がいくつもある、だがローサさんはどうしてもこの部屋がいいと言ってきかなかった。

 隣にオレの部屋があるのだ。


 壁際のベッドの上に、膝を抱えて座っているローサさんがいた。

 クスンクスンとまだすすり上げている。

 オレはなにも言わずに側へいき、彼女のすぐ横まできて顔をよく見る。

 私のことどう思ってるの? と濡れた目が問うていた。


 おれはもし、実るのならゆっくり実らせたいと思っている。

 ……だから。

「おれ、こういうのに鈍感だから、怒らせちゃったね」

「ごめんな……ローサ」

 でもこれだけで納得してくれる訳はない……だろうな、やっぱり。


 アリーシアの言うとおりだ。

 オレはローサの顔に近づき……額にキスをして……ゆっくり離れる。

 ん~額か~……という顔になるローサ、判定中らしい。


 実るのなら……

 ムフッと笑う、オッケーのようだ。


 そうゆっくりと……ね。


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