悪の因子と本懐

栄はいつになくそわそわしていた。今までも何人もの女性がとして育てようとしてくれていた。だが、長くて1ヶ月で彼の元を離れてしまう。挨拶をして去る女性は少なく、大概は知らぬ間にいなくなるのだ。その誰もがどこかぎこちなかった。そんなのは当たり前だ。いきなりになるのだから。に。けれど迪子は違った。出会った初日は他の女性と同じだったのに翌朝起きたらあの馴れ馴れしく、かのような気さくなになっていた。こっちから距離をつめる必要なんてなくて、嬉しさ半分気恥ずかしさ半分。だから期待、しているのかもしれない。

そんなことを考えていると後ろがやけに騒がしい。振り向くと……がそこにいた。朝のエロだらしない格好ではなく、パステルカラーの優しいAラインのワンピーススーツにメイクと纏めた髪が知的に感じる。


「誰だよ、あの超美人! 」


クラスメイトが色眼鏡で見るのも仕方ない。周りにいる母親たちも中々近寄ろうとしないほどに洗練された美女と化していた。


(同じ顔なのに化けるもんだなぁ)


「あ、栄~! 」


満面の笑顔で手を振る。……中身はどうしようもないらしい。そこまで完璧に出来たら逆に怖い気がするけれど。


「……はず! 小学生の参観日じゃねぇっての」


あまりの恥ずかしさに背を向けてしまう。


「え?栄の新しい母ちゃん?! マジで?! 」


更に周りがざわつき、気恥ずかしさで俯いてしまった。きっと返事をしなくても後ろでニコニコしているに違いない。


授業参観は何事もなく終った。担任の「全員の親御さんが来てくれてよかった」なんて言葉にも、恥ずかしいけれど嬉しく感じた。……迪子以外誰も参加出来ていなかったから、後ろめたさから解放されたのかもしれない。


~~~~~~~


「……栄の新しいっすよね? 」


参観時間も終わり、のんびり街中を歩きながら帰宅する迪子に声を掛けてきたのはガラの悪そうな青年たち。


「そうだけど? 卒業した先輩君たちかな? 」


「ま、そんなとこっす。……ねね! 栄に楽させてあげたくない? 」


軽い怪しい誘いに迪子の顔が真顔になる。


「……お金なら必要なだけもらってるわ。足りなければ申請して、通れば補助金が出るの。バイトなんかしたら栄の側にいてあげられないし、規約違反になるからごめんなさいね」


ちっと軽い舌打ちが聞こえる。


「……フランクな母親だって聞いたからホイホイついてくると思ったのに、とんだ食わせもんかよ。わりぃけどついてきてもらわなきゃ困るんだよ。なんちゃら制度で来る若めの女って少ねぇから。ほら、来いよ! 」


強く掴んだはずが、バシッと叩き外される。


「……ガキが粋がるんじゃないよ。なんだ。あたしはが、栄がいればいい」


青年たちは迪子の静かな怒りに無言になった。


「さてと。か、か選んでくれる? 」


このあと、慌てて交番に駆けつけた栄が目にしたのは、顔面を腫らした青年たちと無傷な迪子、そして役所の人間だった。


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