破天荒な『母』と几帳面な『息子』
「栄くん、宜しくお願いしますね」
優しい、大人な笑顔で初対面をした次の日。
「おはよーう、栄ー。ご飯出来てるから食べてー、お弁当これだからわすれないでねー? ……あたしはもう一眠りするぅー」
栄を確認すると、矢継ぎ早に要件を告げてUターンする迪子。
「おはよう……ってまてまて! 」
テーブルに並べられているのは、サワラの味噌焼と白米とニラ玉澄まし汁にポテサラ。しっかりした朝ごはんが1人分。隣には大きめの弁当が入った包み。
「……その格好で作業してたのか? 」
食事は文句がない、しかし、彼女の格好がひどかった。谷間ぱっくりパジャマの上にエプロン、下は微かにパンチラ。
「うん、すぐ二度寝るつもりでー」
「いくら母ちゃんでも、初っぱなから心臓に悪いわ! 」
年頃の息子と女盛りの母。波乱の二人暮らしが幕を開けたのだ。
「うん、みっちゃんは母ちゃんだからねー。うふふふ」
その笑顔のまま布団に戻ろうとして……。
「朝飯くらい、母ちゃんも食え。親子なんだからな」
役所の言っていた通り、彼はどんな母親でもしっかり母親として接する、いわば優等生。
では、続かない理由は環境しかない。
「仕方ないなぁ、栄は母ちゃん大好きなんだからぁ」
「言ってねぇかんな! 」
ぶっかけご飯だけ作ると、れんげを準備する。
「えへへへへ。いただきまぁす! 」
眠いときに咀嚼率上げるものは、眠気を妨げる。
「しっかり作ったなら、しっかり食え」
サワラを一口分、口に突っ込まれた。端から見れば、微笑ましい光景である。
「Oh、あまーい……」
甘いものは、脳を活性化させてしまう。作ったの自分、メニュー考えたの自分。
「それに二度寝する暇はねぇよ、ほら」
顔面に4つ折りあとのある紙が突きつけられ、手に取る。
「ん?授業……参観日?」
「今日の二時限目だからな」
すまし汁をずずっと言わせながら。
「母ちゃんに来てほしいの? 」
「それが仕事だろ」
「いやん、栄つれなぁい」
言葉とは裏腹に二人の顔にはうっすらと笑みが浮かんでいた。
「じゃあ、いってらっしゃい~。母ちゃんのこと、ちゃんと待ってるんだよ? 」
カバンを担ぎ、ドアを出る栄を玄関まで軽いステップで追いかける迪子。
「待つもなにもねぇだろ。ちゃんとした服来てこいよ」
「当たり前でしょ? お化粧してお着替えしてくー」
ピタリと栄が止まり、振り返る。
「へ?母ちゃん、それスッピン?」
「そうよ? 」
キョトンと首を傾げる。
「……今日日の三十代こえー」
ぼそりと呟く。
「ん? いってらっしゃい? 」
「あ、ああ、行ってきます」
我に返り、慌てて学校へ向かった。……一抹の不安と、一縷の希望を胸に。
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